二十:刺客と卵
「ちょっと黒呼、聞きたい事があるんだけど。」
館へ戻り、夕飯とお風呂を皆終えてまったり寛いでいる時。
アタシは黒呼を連れて、庭の広場まで来た。
そこにある椅子に座って、話を切り出す。
「あのさ、黒呼って、どういう忍・・・戦士だったの?」
「ん?俺は、色んな忍の一族が集まる村で、月影一族の代表で仕事してた。一族っても、弟と二人しかいなかったから、必然的に、だが。」
「そう・・・。いきなりいなくなったら、もしかして、村が困る?」
「いいや、多分、二人しかいないから、もういないものとして処理されてると思うぞ。」
「そっか、それなら、安心だ。」
黒呼にとって、ここに残る事が実はデメリットなんじゃないのかとか考えていたから、少し安心した。
「それに、俺はもう忍じゃなくて、白呼と共に新しい職場に迎えられたからな。今更あの村に戻る気はない。」
「そっか、そーーー」
『ならば、斬っても構わないな?』
月下の暗闇に、突然銀色が現れた。
アタシは無限乃皇杖でその刃を弾いて、黒呼の前に立ち、刀を振るった相手を見やる。
そこには、肩で揃えた黒髪の、綺麗な女性が刀を構えてこちらを伺っていた。
「・・・君は、誰?」
「そこの、裏切り者を斬りに来た者だ。」
「・・・月呼。」
一拍遅れて、黒呼が相手の名前を呼ぶ。
ああ、例の掟によって追い掛けてきたのか。
ならば話は早い、かな。
「あのさ、詳しい事情も聞かないままでお願いなんだけど、もしアタシと戦ってアタシが勝ったら、月呼さんはアタシの言うこと聞いてくれる?」
「無関係な者を巻き込む気はない。」
「黒呼も白呼も裏切らせたのはアタシなんだ。だから、アタシと戦うのが筋じゃない?」
「ふむ、お前が・・・そうか。ならば、参る!」
「ちょ!」
ものすごいスピードで、鋭い剣戟が舞う。
アタシはとりあえず全て受け流して、このお姉さんをどうすべきか考えた。
しかし、やはりここは!
「攻撃してきたって事は、先ほどの提案を飲むってことだよね!?」
「フン、やれるものならやってみよ!」
いよっしゃ、言質取ったどー!!
ここからアタシの、杖乱舞が始まった。
次々に形状変化のコンボ技で、斬って撃って捌いて薙いで打ち付けて、魔法無し・技量だけの攻撃を次から次へと繰り出した。
月呼は変わって防御に回っていたが、スピードはアタシの方が上だったらしく、結構な数を食らっていたみたいだった。
そして、更にスピードを上げて連続30コンボを叩き込むと、その殆どを食らった月呼は、地に倒れ伏したのだった。
「黒呼、怪我はない?」
気絶した月呼を逃げられないように縛り、振り向いて黒呼に問うと、黒呼はまた顔を赤くして下を向いていた。
それから、小さい声で「大丈夫だ、ありがとう」と言うと、また俯いてしまう。
アタシは不思議に思い、黒呼に近づいて顔を上げさせて覗きこむ。
すると、一瞬大きく目を開いて、それから黒呼は目を潤ませた。
ああ、もしかして。
掟で自分が狙われるのは解っていても、改めてショックを受けたのだろうか?
これは、泣きそうなの、かな?
そんなことを思っていたら。
黒呼から逆に顔を引き寄せられ、口付けを交わしていた。
「・・・俺の、初めてだから。」
しばらく啄まれた唇が離れて、最初に言われたのがコレ。
え、本当にこの歳までピュアシャイボーイだったのか、とか混乱して考えていたら、黒呼に抱き締められた。
正直、なんでこんな事したのか黒呼の考えがわからん。ので、正直に聞くか。
「なあ、どうしてこうなった?」
「・・・お、お礼と、俺の覚悟の現れだ!」
ふむ。これは、しっかりと忍の村とは縁を切ります!ということと、月呼から庇ったお礼、ということか。
アタシはそう解釈して、ポンポンと黒呼の背中を叩く。
「そうか。別に気にしないでいいんだぞ?黒呼も白呼も、自分の出来る範囲でやりたい仕事すればいいんだし、それを守るのはアタシの役目だからな。」
「え、ちがっ・・・そういう意味じゃ・・。」
顔を上げた黒呼から離れ、気絶する月呼を抱えて振り返る。
「よし、それじゃあ家に戻って月呼の世話するか!」
「えぇぇ・・・わ、わかった。」
アタシたちが館に入ると、よっすぃ~とセエレが待ち構えていた。
どうやら、強い殺気と闘気が外から感じたので、警戒していたらしい。
二人に事情を話して月呼の世話を頼むと、二人は快く引き受けてくれ、月呼を客間へと連れて行った。
それからアタシは、とりあえず月呼の目が覚めた時用に消化の良いご飯を作り、持って行く。
「セエレ、大丈夫そうか?」
「ええ、しっかりとオチていますので、目覚めるまでもう少しかかるでしょう。見たところ怪我はそんなにないので、休ませれば回復しますよ。」
「そっか、じゃあ、目が覚めたら食べさせてやって?」
「承知致しました。・・・あとでっ・・・いろいろ、ご褒美、下さいね・・?」
「え?セエレさん??」
「今日っ・・・いちにち、がまん、したのですっ・・・・ごほうび、いただきっ、ます。」
少し息の荒いセエレにドン引きしつつ、月呼を任せると言ってアタシはその部屋から逃げ出した。
怖い、変態、怖い!!
アタシは急いで風呂に入り、メシアの居る寝室へ逃げ込んだのだったーーー
「そうだったの、姉さま大変だったのね?」
「うん、でも心配してたのは杞憂だったみたいで、安心したよ。」
「そうよね、一歩間違えたら、その忍の村を滅ぼさなくちゃならないもの。」
「うん・・・あまりヤりたくないけど。」
メシアに色々話して落ち着いたアタシは、月呼をどうするか考える。
このまま大人しく村に帰るなら良いが、そのせいで月呼が罰せられるのは望ましくない。
もしそうなら、ここにいた方が安全だと思う。
でも、ここに居たくないって言ったらどうしよう?
ずーっと悶々と考えていたが、メシアに明日本人に聞けば良いと言われて、考えるのをやめた。
「そういえば姉さま、街で魔物の卵を買って来ていたでしょう?」
「ん、ああ、そうだな。」
肉屋で、何だか良くわからない、激安のデカイ卵が売ってたので、適当に買ったんだった。
ダチョウの卵よりも二周り大きい卵だったけれど、肉屋の店主いわく、何の魔物なのか卸売り商人にもわからないって言ってたから、適当に7つほど買ったんだった。
「あれがどうした?美味しかった??」
「ううん、リビングに置いてるあの卵たち全部、もうすぐ孵りそうなの。中から声が聴こえるの。ここ、魔力が多いから、そのせいかしら?」
「へぇっ!?」
思わず、声が裏返る。
「あ!やだ姉さま、大変。もうお外出るって言ってるわ!!」
「マジ!?」
メシアに急かされ、ダッシュで階段を降り、リビングへ向かう。
大きい足音が気になったのか、セエレもよっすぃ~も月影兄弟も、みんなリビングへ集まってきた。
メシアが皆に事情を話し、テーブルの上の卵を囲んで見つめていると。
ーーーペキ・・・・ベキベキ、バキン!!
物凄い勢いで卵の外殻が中から破壊され、次から次へと、小さな翼をもつ色とりどりの爬虫類が現れたのだったーーー
いつか、鶉を卵から育ててみたい・・・!