十五:恋の嵐
ーーー朝。
っていうか、もう、お昼近く。
アタシは朝方に眠りに着いたからか、ものっすごく寝坊した。
眠い目を擦りつつ、階下へ向かうと。
「あっ!姉さま、おはようっ!昨日は何処に行ってたの!?」
何だか不安そうな顔のメシアが駆け寄ってきた。
あー、そういや洗い物頼んでから一度も会ってなかったか。
黒呼の事とか、思い出し作業とかで忙しかったからなー。
「皆、メシ食った?」
「え?う、うん、朝はメシアが作ったの!あと、お昼も今、作ってるところよ!」
「そっか。そりゃ~楽しみだ。」
アタシはメシアの頭をポンポン撫で、顔を洗いに向かう。
メシアはキョトンとしてから、満面の笑顔で「楽しみにしててねっ!」とキッチンへ戻って行った姿を見て、このまま、ぬるま湯に浸かった状態はダメだ、と思う。
あとで、きちんと話そう。
魂に刻まれた記憶は一緒になっても、自分自身の気持ちは、今のアタシの方が強いこと。
メシアは大切な人だけど、嫁だの何だのと言うよりも、妹という立場の方が強い事。
そして、メシアへの想いは、まだ、番への愛ではない事を。
みんなで一緒にお昼を取り、アタシはお詫びに後片付けをし、ひたすら洗いものを行っていた。
今回も大所帯でランチしたので、洗い物の量が半端なかったが、黙々と洗う。
その後、洗い物を乾燥させつつ収納していき、
ある程度を終わらせた。
リビングに移動し、マグカップにコーヒーを淹れて、新しいマンデリンの袋を取り出して、禁忌魔法:無限複製を繰り返して使い、他にも必要な食材ストックを沢山作って、腕輪に収納。
やらなければならないことの大半は、これで終わったかな?
まったりとソファに寄りかかり、仕事のあとの一杯。
ーーーやはり、美味い。自画自賛。
「姉さま、お仕事終わった~?」
「おう、終わったよ。」
メシアが来たので紅茶を淹れる。
今日の紅茶は、ダージリンの1st.フラッシュと2nd.フラッシュをブレンドしたもので、落ち着いた味と爽やかな香りが一度に楽しめる一品だ。
元の世界での、メシアが持っていた鞄の中に入っていた物みたいだ。茶袋の裏に、漢字で名前が書いてある。
もちろん、これも量産しておいたので、在庫は安泰だ。
「・・・よし、出来た。メシア、はい。」
「ありがとう、姉さま。」
二人、静かに味と香りを愉しむひととき。
しばらく沈黙の刻が過ぎ。
「メシア、昨晩の事がらみで、伝えなきゃいけない事があるんだ。」
「なあに?」
「メシアは、さ。昔の自分の記憶、全部受け入れられた?」
メシアは、きょとんとした顔でこちらを見つめる。
「うん!むしろ、姉さまと一緒に住んでいた時から、毎晩夢で見ていたから、納得したよ?」
「え、そうなの?」
「うん!元々姉さまが好きだったけど、夢のお陰で更に大好きになったんだもん!」
「そ、っか。・・・アタシはーーー。」
心に思っていること、全部、正直にメシアに伝えた。
隠す事なく告白し終わると、顔を伏せて聴いていたメシアが、一気に顔を上げて、笑顔でアタシの手を取った。
「・・・うん、姉さま、わかった!
メシア、きっと先走っちゃんたんだよね、ごめんね。
じゃあ、メシアは姉さまに片想い中って事で、これからどんどん、メシアを好きになってもらえる様に、がんばるっ!
だからーーーそれなら、側にいて良いでしょう?」
すがる様な眼差しで見つめられて。
アタシは頷くしかなかった。
「ーーああ、それならアタシも、しっかりメシアを見つめて、自分の気持ちもハッキリさせられると思う。本当に、ごめんな。」
「いいのっ!メシア、姉さまを射止めるために、本当の本気でいくからねっ!覚悟しててねっ!?」
「お、おう・・・お手柔らかに。」
ふんす!という感じで気合いを入れてるのを横目に、
少し前から、扉の隙間からこちらを見つめる奴に声をかける。
「ええと、・・・セエレ?何してんの?」
「おや、バレましたか。失礼致します。」
変態スキルに覗きが加わったかー、とか思っていたら、セエレはおもむろにアタシの側で跪いて見上げた。
「メシア様がまだ奥様ではないと伺いましたので、私もご主人様に片想いして、恋人になれるようがんばりたいと思います。」
「はぁ!?」
「メシア『さん』、負けませんよ?」
「望むところよっ!」
事後承諾上等!な勢いで、アタシを萱の外にしてメシアとセエレが盛り上がってしまった。
まあ、今のところ、誰とも付き合う気はないんだけれどな。
「まーいいか。じゃ、そーいう事でーーー」
言いかけて、ふと、扉を見ると。
黒呼と白呼が、扉の隙間からこちらを見ていた。
ーーーそうか、君たちも覗きか。
そう言いかけたとき、扉を開けて2人が入ってきた。
そのまま黒呼はメシアの方に向かって行く。
「・・・俺だって、負けないから。」
「貴方もなのっ!?いいわよ、メシア負けないもん!」
「うふふ、良い度胸です。受けてたちますよ。」
ええぇ・・・なにこの三竦み。
「あのさ、何事も穏便に頼むぞー。アタシは平穏を求めるー。」
完全に外野となってしまったので一言言い残し、オロオロしてる白呼くんを連れて、その場からダッシュで逃走したのだった。
その後、しばらくして。
闘鶏たちと戯れていたら、黒呼がやって来た。
何でも、昨日一晩中考えて、やっぱり弟が大事だし、あの村に縛られるのはつまらないから、この館にお世話になりたいとの事。
もちろんアタシは二つ返事でOKし、月影兄弟にはよっすぃ~のお手伝いをお願いし、新しい人材を手に入れる事ができて胸を撫で下ろした。
その夜。
ディナーと風呂を終え、メシアとアタシは2人でベッドに横になっていた。
いつもの習慣で、寝るときは二人一緒だったもので、メシアが薄い寝間着を着てる以外はいつも通りだった。
「メシア、明日は何しようか?行きたいところ、ある?」
「ふふ、姉さまと、ゆーっくりお散歩したり、一緒に1日過ごしたいな~」
「ふ、じゃあ、明日は仕事みたいなのお休みして、ゆっくり過ごそうか。」
「うん!いっぱいお寝坊しましょうね、姉さま。」
そういって、メシアはアタシの身体に抱きついてきた。
しばらく何かを確認するように身体を触られて、腰から下まで触れて、微笑んだ。
「うふふ。姉さま、身体はちゃんと元々の両性に戻ったのね、嬉しい!」
「・・・・あ。メシアは知ってるんだっけ。そういう事だから、あまりソコには触れないようにね。」
「えぇ~、メシアは何時でも準備できてるのに?」
「こらこら。寝るぞ。」
妖しくさ迷うメシアの手を取り、しっかりいたずら出来ないように繋いで、アタシたちはゆっくりと眠りの世界へと落ちて行ったのだったーーー
なお、よっすぃ~は戦友の為、こういう感情はない模様。