十四:月下の乱舞
「・・・っひぃ、死ぬかとおもった・・グス。」
「あはは、ごめん。この方が早いと思って。」
「うう、言ってから飛んで欲しかった、っ。」
館の前で大地に足を下ろした途端、涙目で膝を着く黒呼をなだめながら落ち着かせてやると、暫くしてヨロヨロと立ち上がった。
初フライトだったらしく、まだ震えが収まらないみたいだ。
ちょっと悪いことしちゃったかな。
黒呼を支えながら、ゆっくり館に入っていく。
とりあえずリビングに通して、温かい紅茶を淹れて黒呼に出し、よっすぃ~に白呼を連れてきてもらうようお願いした。
紅茶を飲んで少し落ち着いたのか、黒呼が室内をぐるりと見回す。
「・・・今まで、ここにこんな館、あったか?」
「ん、昨日からアタシたちが移住してきて、速攻でリフォームしたんだよ。」
・・・時を戻した、時短リフォームだけどな。
色々この森を昔から知ってる模様の黒呼に、過去のこの森の事を聞きながら待つ。
なお、この森は昔から、通常よりも平均レベルの高い魔物が生息する森として人間の中では深淵の森と言われていて、普段は皆、近寄らないそうだ。
時々、国外の冒険者が森に入る事があるそうだが、大体は用事が済み次第逃げるように帰ってくるらしい。
あと、この国や世界の事も少し聞けた。
この国は、とある山脈の高山に出来た盆地の中にあり、下界には更に沢山の国があるそうだ。
様々な文化があり、有翼人種も仲良く暮らす国や町があるらしい。
なお、黒呼たちの村はこの国を護る忍のような一族達の集まる隠れ里で、戦闘能力は基本的に高く、そのため村から出るには試練をクリアして一人前と認められなければ、外界には出られないらしい。
もし勝手に村を出た場合は抜け忍の様な扱いになり、刺客が送られて人知れず始末されるそうだ。
そして、黒呼と白呼は既に両親を戦で亡くし、二人だけで今まで生きてきたという。
そんな話をしていたら。
「兄さん!!」
「!?・・・白呼!!」
血を分けた兄弟が駆け寄り、感動の再会ーーー
「・・・グハっ!?」
と、おもったら、黒呼がよっすぃ~にボディブロー入れられて、飛んで行った。
突然の事にアタシも白呼も驚いていると、よっすぃ~が黒呼に近づき手から何かをもぎ取っていた。
こちらに見せてくれたのはーーー銀色のナイフ。
「オマエ、弟に何やってんの?」
驚きで固まる白呼をよっすぃ~に任せ、アタシは黒呼に近づいた。
「・・・村の、掟、だ。」
「ふーん、さっき言ってた事?刺客って、実の兄がやるの?村の外に出たのが拉致だったとしても、そうなの?」
「掟には、従わなければならな」
「馬っ鹿らしい!そんな村、滅ぼしちゃっていいかな?いいよね!?アタシも魔物だから事故扱いになるよね!?白呼くんもそれで安全だよね!?」
掟だから無実の弟を殺すとか、意味わからない!
先ほど過去を思い出した時の人間への怒りも相まって、ついついデストロイな発言になってしまう。
「やめてくれ!俺だって、こんな掟なぞクソ食らえだ!だが、あの場所で生きていくには、仕方がないんだ!!」
「だったらアンタも村、出ちゃえばぁ?そんな所で影薄く生きて行くよりも、ここで弟と生活した方が強くなれるし、アタシたちと一緒にいれば安全じゃない?毎日楽しくなると思うけれどなぁ?」
「えっ・・・そ、それは・・・」
視線を泳がせ、下を向いて黒呼は戸惑っている。
そして、少し頬を染めながら
「ど・・・同棲の誘い・・か?」
急に戸惑いながらそんな事を言うから、思いっきり真顔で無言になってしまった。
「同棲とゆーか、共同生活かな?」
「ひ、ひとつ屋根の下か。・・・そ、そうか。
・・・・すまん、一晩、考えさせてくれ。」
「いいよ。その代わり、暗殺は無しね!」
「わかった。白呼、すまん。俺が悪かった。」
「兄さん・・!」
今度こそ、兄弟がしっかり向き合い、再会を喜び合ったのだった。
白呼と黒呼の応対をよっすぃ~に任せ、アタシはリビングでひたすら、過去の記憶を呼び起こして思い出していた。
鏡越しに使っていた魔術やスキルを一通り復習し、無限の腕輪内のストック等もチェックして、それから外に出る。
庭の先の広場で、思い出したスキル一式を実際に使い、アタシしか使えない、魂の武器ーーー先端の形状が変化する銃のような杖である、無限乃皇杖を召喚して、使い方を確かめるべく素振りしてみた。
「やっぱり、すごくしっくりくる。」
様々な形で全速力で杖を振るい、先端の形状変化させてからの繋ぎの部分にも意識して薙ぎ払う。
しばらく動きまくった後、周囲に時空間魔法で結界を張ってから、次は魔術等の試し打ちを行った。
流石に極大魔法はやらなかったが、ある程度の動きは再確認出来たと思う。
そのあとはスキル+魔術などの技なども確認して、戦闘に関する全ては使えるようになった。
そして、気がつくと。
空が白ずんできていた。
あまりにも集中してやっていたから、気が付かなかった。
アタシは急いで家に戻り、風呂に入ってサッパリすると、皆を起こさないために空いている適当な客間のベッドに寝転んで、眠りに落ちたのだったーーー
あと、1話書いたら、外伝的なモノでも間に挟もうと思います。