魔女と暮らせど [1]
創作オリジナル4コマ漫画『魔女と暮らせど』
その水白ウミウ自ら描いた漫画を自ら小説化してみた短編小説。
序章となるキャラ紹介を兼ねて、とあるある日の朝の日常風景を書いた一節。
=========================
一年季節の進みは忙しなく、あれよあれよという間に年末迫る師走半ば。近頃世界で叫ばれてるという異常気象にる暖冬とは一体、そう思わせる身震いが止まらない寒さが1週間余り続くのだが……これはむしろ異常なのだろうか?
今日も例外なく、早朝の御池の水面には薄氷が日ごとに広く厚く覆い尽くしていく今日この頃で。まったく寒い、寒いはずなのだが何時になく今朝の妙な熱気、やる気はこれいかに。
「ふんっ、ふん、ふぅ~~ん♪」
普段こんな時期、彼女は布団を身に纏い引きずりながら居間にある炬燵の中へと一直線に向かうほど寒がりなのだが、どういった了見だろうか、意識の変化か指示する前に自ら境内の玉砂利を掃き清める。いつもそうしてくれると助かるのだけど、何せ彼女と自分達の立場もあるし。
「どうされたのですか智樹様? 朝からお疲れのご様子ですが?」
「まあ、大体の見当はついておりますが」
目を閉じてため息をついたその僅かな瞬間。普通ならザクッザクッと玉砂利を踏む音、しかし音や気配すら無く半歩後方に位置取ると目線の先には、ご機嫌な彼女を細目で見つめるはリルさんと僕は呼ぶ魔女リルリアス。彼女自身曰く強さを求め、魔法使いから魔女へと成り上がった武人とも言える元人間だったセーラ服姿の女の子。
そのリルさんが見つめている彼女こそは正真正銘の純血である魔女ミレリアスにして、リルさんの主、つまりリルさんはミレ様の従者である。そしてこの北向魔女神社の祀り神何故か巫女服姿なのは置いておいて。一つ屋根の下、3人で暮らす家族……共に血のつながりはない同居人達。一方の面倒見と放任主義の実の両親は、半年後には戻ると親交のある各地の社務所の応援にと宮司の仕事道具と衣類や日用品を大風呂敷に包み担いで出かけたっきり。もはや誰が家族で誰が同居人なのだかは分らないとも言える。
「朝から騒がしく、寒い寒いといいながら水行をされるよりかはよろしいですが……日頃より主様には魔女神らしく威厳と神格を持って頂きたいのですが。はァ~」
「まったく同感です」
主様と呼び彼女の強さに心から尊敬していると言うリルさんだが、結構ミレ様に対しての物言いは辛辣というか容赦が無い。もっともミレ様もそんなズバズバ遠慮無くいうリルさんを従者という以上に親しく接している関係なので、第三者の自分が口を出すことではないが。というか一方的にミレ様のリルさんへの親密度が……いや、何でも無い。
「まぁその……ミレ様は子供っぽいところありますけど、僕的にはむしろ気難しくて恐ろしい方に仕えるのでなくてホッとしてますよー」
何故かそう言うとリルさんは前方に向けていた視線をこちら、表情が硬直したまま頭部から足先へと数度動かす。彼女の深い蒼い瞳の奥に移る自分の姿、全てを見透かされそうな気分。
「あのぉ……智樹様。余り申上げにくいのですが、主様を甘やかさる発言行動はお控え頂けると幸いですが……従者としまして」
「…………いえ、出過ぎた発言でした。気にされないで下さい」
「えっ、いや!? こ……こちらこそ」
珍しく歯切れの悪いリルさん、数秒の間を置いて再び視線を前方に戻し自らの発言を否定する。朝の静寂と澄徹な境内の中で、相互の空間にだけこそばゆい空気感覚がみちていくのが分る。だって何だかなんだ言って、無自覚に二人共にミレリアス様には甘いのだ。言ってて、言われて自覚して自分も恥ずかしくなる二人。
「んーー? ねぇねぇ~~二人共なんで顔赤くなってるの?」
「うぁッ!?」
そんなに驚くことないでしょうにヒドイとミレリアス様。二人が訝しげな態度だと怪しんだのか、普段から距離が近い間合いから更に一歩迫ってくるを察知した。魔女神である彼女は人の心を読むことが出来る、まさかとは思うけれど即座に不細工な笑みを浮かべて誤魔化しつつ距離を保つ。
「ゲフッん。主様お伝えを忘れておりました、こちらを」
一間置くとぉさすがのリルさんは何時ものように、キリッと目を見開き一見威圧感も漂うほどの威厳ある従者の姿で大胆に胸元から和紙の親書を四通ほど取り出した。見覚えある朱印が押されている和紙の手紙、重要な用件が書かれている証の親書なのは直ぐ察した。
見せられたとき最初は真面目な態度。だが直ぐにミレリアス様は一度その手紙を頬に当ててリルさんの温もりを感じいてから……誰ももうその程度では気にしないが丁寧に一通ずつ目を通し、終えた瞬間--
「ちょ ちょっと どういう事なのこれっー もうーーーーー」
ミレリアス様の激高……怒る姿は珍しくないというか感情表現豊かなので慌てる必要はないのであるが、何時もより少し怒っている? そんな気がして文面が気になったので玉砂利の上に散らばった親書を拾い上げ「読ませて頂きますよ?」と中身を拝見。
『急信にてミレリアス乃魔女殿。要用にて、本日の定例座談に参り出来かねることとなり。不義は承知なるが、また貴殿には折を見て参上致す故、許し給え』
署名を見るまでもない古風というか仰々しい文面、現代ぽく言い換えれば今日の午前に境内の社務所で行われるはずだった打ち合わせのドタキャンを知らせる手紙である。
もしやと思いながら折り畳まれた次の親書に目を通す。
『あーゴメンゴメンゴ~。ちょっ悪いけどさァ、行く気はあったんだけどーぉ。どうしても会いたい知り合いがさぁ~~ねー? もー困るよね。だからそいう事で!!』
スゴイ癖のある文章というか、中高生の遊びの約束を交わす断る時の話し言葉をそのまま文章にしたためたような。こんな文章で送ってくる人も一人しかいない、名前もないが。
なんとなくもう見なくてもいい気がするが、今度は右手に持っている一通を。
『あーいや、その……悪い行けないわ。すっかり失念して、別件をマジな。また今度埋め合わせするからさ、みんなにヨロシクな』
元は一人の人物、とてもそう思えないそれぞれの個性が出ている文面だなという感想しかない。人も魔女も神も普段の生活で色々変わるものだ。
「智樹様、最後のもう一通ご覧になりますか?」
「あ、いえ……もう見なくても、結構です」
手にしていた四通の親書をリルさんに手渡し戻し気付く。
二人の目の前でしゃがみ込んで逆さに持った竹箒の柄でいじけて地面に絵を描き始めるミレリアス様の姿に。何と声をかけたら良いのかと、一昨日から面倒といいながら掃除したりお菓子を準備していたのを見守っていた自分としては、拗ねている彼女を見ながら。
「これも日頃のミレリアス様、社の主としての行いのせいかと。人徳、いえ神徳の無さも」
「いや、ちょっとリルリアス、そんな言い方は!!」
正面に回り込み小柄なリルさんの両肩を鷲づかみ制止したが最後まで言い放つ。冗談とリルの尖った言い回しに寛容なミレリアス様もさすがに激怒したのか箒を投げ捨てて立ち上がり、指を差し言い放つ。
「リルリルに言われたくないッ!! アナタこそ友達いないくせにィッーー」
この社の祀り神にして『最強の魔女』と呼ばれるミレリアスとその弟子にて人から成り上がった『下克上の魔女』リルリアス、二人が正面から激突すればこの社、この田舎町が消し炭すらの残らない天災に匹敵する事態になりかねない--二人を止められるのは自分タダ一人だけ、絶対に止めないと!!
ミレリアス様、リルリアスどうか喧嘩は、争いは辞めてッ!!!!
「わっ 私には友達は必要ありませんよ!! 一生お仕えする主ミレリアス様とお優しくて衣食住お世話になっている智樹様がいて下されば、友達なんて!!」
「もうリルリルに修行付けてあげてって頼もうと思ったのに、 もうリルリルと一緒にお風呂入って髪洗ってあげなーん……え」
思った事をズバズバ言うリルさんは時々思った事がそのまま口に出てしまう女の子。そして内心ではミレリアス様の事を相当尊敬して好いているのは分る。普段から感情についてはもっと素直になってもいいと思うのだが不器用……口を手で押さえて赤面しているその姿を見て。その反動なのだろうと。
「んーと? リルリル今なんて……はぁーい--好きィー」
「あ 主……ミレリアス様、やめっ、触らない、触るなっ! 調子に乗るなぁア゛!!」
「ねぇーきィーーた聞いた~智樹~リルリルがさぁーー」
弟子と師匠の喧嘩は犬も食わない。まぁ仲良しなのは良いことなのですけども、静寂さが求められる鎮守の森が茂この場所にはちょっと問題、というかご近所迷惑で。
「あのお二人とも……今日は誰もいらっしゃらないとの事なので、そろそろ朝ご飯にしませんか?」
「はぁ~~い。智樹に賛成」
「では私もお手伝い致します智樹様」
何はともあれ一騒動はひとまず一見落着、神社の一日のお仕事はまだまだこれから。三人揃ってみんなで朝ご飯、沢山食べて今日一日の活力を満たさねば。待ちに待った朝食に意気揚々と向かうミレリアス様、一歩後方より食後の後の本日の年中行事について事細かく説明するリルリアス、その二人の後を方に背負った竹箒が朝からズッシリと重さを感じる僕。
「今日はこれ以上……。何事もなければいいなぁ」
見上げた天は今にも雪でも降りそうな陰鬱な曇り空。天は味方をしてくれないようだ。
お互い微妙にかみ合ってないようで根は同じ、魔女の弟子と師匠。ひょんな事から最強の魔女ミレリアス様はここ『北向き魔女神社』の祀り神となり、その弟子となった元人間の強気な少女であるリルリアスは中々素直になれずにお仕えする。そこに至った理由と歴史を話せば長くなるのだけど、それはまた今度。
そんなちょっと変わった二人の魔女と共に一つ屋根の下で暮らし、日頃から支え使え、時に振り回される神社の跡取り息子の智樹。今日も朝から騒がしくて慌ただしい『北向き魔女神社』の一日は、未だ朝日も登り切らない一日の始まりに過ぎない。そんなある日1の日常風景であった。
「