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第7話 自称ペットは闇が深くて、凄い人でした。





美味しい匂いにシャロンは目を覚ます。





何度が瞬きすれば、目の前にはスヤスヤと眠る双子達。

遮光カーテンの隙間からは朝日が差し込んでいて。

シャロンは慌てて起き上がった。


「大変‼︎寝坊しーーー」

「おはよう、シャロン」


だが、彼女の動きは止まる。

そこにいたのは、黒藍色の髪に灰色の瞳の白皙の美青年。

彼は銀色と夜空色の毛並みを持つ仔狼に、首輪をつけているところで。

一瞬、シャロンの思考を停止するが……ハッと我に返って挨拶をした。


「おは、よう。ライヴィス……フェル」

「あぁ、よく眠れたようだな」

『おはよぅ、シャロ‼︎』


夢かと思ったが、どうやら重度の引きこもり(外に出るとパニックになる)を助けたのは夢じゃなかったらしい。

シャロンは瞼を擦り、ゆっくりとベッドから降りた。


「………こんな快眠は初めて……」


昨日まで、この家の家具はオンボロだったのだ。

ベッドの布団もスカスカで身を寄せ合って眠らなければ、冬は寒いぐらいだったのに。

ライヴィスが家具を新調(改造?)してくれたお陰で、革命と言わんばかりの快適さを感じていた。


「それは良かった。双子達はまだ寝かせておくといい。顔を洗って、着替えてこい」

「えぇ……」


優しく目尻を撫でられて、シャロンは僅かに頬を赤くする。

ずっと、学業やら双子の世話やらで忙しかったシャロンは、男性への免疫がすこぶる低い。

ちょっと例外・・もあるが、こんなに優しくされたら……照れてしまうのも仕方ないだろう。


(………ライヴィスって……スキンシップが激しい……?というか……女慣れしてる?)


洗面所で顔を洗いながら、シャロンは考える。

昨日から思っていたのだが、ライヴィスは触れてくる回数が多い。

さり気なく頭を撫でたり……昨日も二回抱き締められてしまったし。

シャロンはそういう耐性がないから、困惑してしまうのだ。


「……………はぁ……」


どうしてこんなに触れるのかわ考えても分からないなら、取れる手段は一つだけ。

ヴィルシーナ魔術学園の紺を基調としている制服に着替え、フード付きのローブを纏う。

部屋に戻ったシャロンは……ドーンッと仁王立ちで彼に聞いた。



「ライヴィスがスキンシップ多めなのは、女性慣れしてるから⁉︎」



「…………………あ〝?」



「『ひょえっ』」


分かりやすく言おう。



……………シャロンはビビった。



ついでに、部屋の隅で丸まってぬくぬくしていたフェルもビビった。


物理的に部屋の空気が五度くらい下がった感覚。

ライヴィスのその端正な顔は、無表情で。

それが逆に恐い。

エグい。



「…………………女は嫌いだ。俺が男だからって自分の色を使えば、言うこと聞かせられるって思って、十も満たない子供に媚薬持ってきたり、貞操奪おうと襲ってきたり。魔法使いになってからも、女だから酷いことされないだろうって、俺の研究を盗もうとしたり。俺に取り入ろうとしてやっぱり、媚薬盛られたり……あぁ……そう言えば……俺を殺しに来てた奴も女が多かったっけ……」



(なんか闇が出てきたーーーっ⁉︎)


シャロンは自分が言った一言が原因だと分かっていたが、ライヴィスが抱えている闇が深すぎて動揺を隠せない。

…………どうやら…ライヴィスは今までの人生で女難(女難って表現だけでは甘いかもしれない)だったらしい。

襲われるのが多かったらしいけれど、命まで狙われるなんて相当だ。

シャロンが狼狽していると……フェルが代わりに彼に質問した。


『でもでも、シャロも女だよ?』

「……………何言ってるんだ?」

「『え?』」


プシュッ……と空気が抜ける感じ(気の所為)と共に、ライヴィスはフェルの言葉に首を傾げる。

いや、シャロンとフェルの方が何言ってるんだ?状態である。


「シャロンは女の子(・・・)だろう?みたいに自分の色で取り入ろうとしないし、臭い香水の匂いはしないし。シャロンを女だと言ったら、シャロンに失礼だ」

「『……………………ん?』」

「それに俺はシャロンのペットなのだから、自分の主人にはマーキングしないと」

『あ、納得』

「フェルは納得したの⁉︎」


なんかもう色々と錯誤していた。

女嫌いらしいけど、女の子は大丈夫で。

その女の子であるシャロンのペットであるというスタンスを、ライヴィスは崩さなくて。

スキンシップ多目なのは、女慣れしてるんじゃなくてマーキング。

なんか、もう謎すぎた。


「……………意味が分からないわ……」


額を押さえるシャロンに、ライヴィスはクスクスと笑う。

さっきの無表情が嘘のような、柔らかさだった。


「まぁ、全部知ったらつまらないだろう。少しずつ、知るべきだ」

「……………一緒にいる間に、知ることはできるのかしら?」

「さぁ?でも、行き倒れを救ってもらった恩は返さなくては、な?」


ライヴィスは彼女に近づき、その首にネームタグをかける。

シャロンはそれを見て「あぁ」と声を漏らした。


「忘れてたわ」

「だと思った。一応、そのタグには、簡易結界魔術と盗難防止魔術、伝達魔術が施した。何かあったら、俺に連絡しろ」

「………………え?何その魔術」

「俺が適当に作ってそのまま忘れてた魔術だな」

「…………………」


サラッと言ってのけるが、普通はそんなことできゃしない。

今の魔術が先人達が使っていた時代と変わらないように……魔術の開発・改良はとんでもなく難しいのだ。


「……………ライヴィスって……三大賢人って呼ばれるだけあるのね……?」

「そうか?」


なんてことがないように首を傾げているが、シャロンは乾いた笑みを浮かべるしかできなかった。

本当に、とんでもない拾い物をしたらしい。


「双子達のタグにも同じ魔術を施しておく。一応、説明しておくが……星をモチーフにした紋章が、ギルドマーク。その裏面に師である俺の名とシャロンの名前が刻まれているだろう?それが伝達魔術加工済みのタグになる。で、俺の紋章のタグが盗難防止魔術で、シャロンの紋章に簡易結界魔術が施されているが、チェーンで繋がっているため、全体作用になっ……」

「ちょっと待って。一気に言われても分からないわ」

「え?」

「師匠。弟子には分かりやすく教えるものよ」

「……………分かった」


ライヴィスは、今度こそ分かりやすく説明した。

伝達魔術は、遠い距離であろうと連絡を可能にする魔術。

盗難防止魔術は、持ち主(あるいは特定の人)以外が触ると弾く魔術で……簡易結界魔術は、かなり脆いが素早く結界を張れる術式らしい。

三つのタグに三つの魔術を施すことはできなかったから、チェーンで繋がっている=全体作用力なるというように上手く調節済みらしい。

シャロンはそれを聞いて頭を抱えた。


「………それ……魔術連合会に報告したら、凄いことになるんじゃ……」


魔術連合会とは、魔術師が所属することになる連合のことであり、魔物討伐などで活躍する魔術師ギルドよりは……研究機関や教育機関の一面が強い。

ヴィルシーナ魔術学園も、この連合が後援についているほどだ。


「魔術連合の魔術師は、魔法使いを嫌っているからな。難癖つけられるだけだ。魔法使い以前に同じ魔術師なのに」

「そうなの?」

「そうなんだ。ギルドで事足りるのに?わざわざ連合なんて作ってるんだぞ?そんだけ、魔術師は魔法使いよりも凄いって後世に教育したいだけだ。どっちも凄いで充分なのに……」

「……………それ、魔法ギルド所属報告を学園にしたらヤバいんじゃ?」

「報告義務はないぞ?」

「え?」


ライヴィスはシャロンの胸元にしまってあって学生手帳を取り出すと、パラパラとめくり答えた。


「やっぱり、昨日確認したようにギルド所属の報告義務はないな」

「え?でも、皆、報告……」

「報告するのが暗黙の了解となってるだけだろう。それに……魔術学園に通う奴は大体、魔術師ギルドだと思うから、別に報告しなくても……」


シャロンはそれを聞いて驚くが……その前に。


「………というか、ライヴィス。昨日、生徒手帳を見るために……勝手に私の制服漁ったの?」

「いや?魔術で生徒手帳を転移させたから、漁ってはいない」

「……………(……転移の魔術って高位魔術師じゃなきゃ使えないヤツじゃ……?)」


シャロンは、正論を言いつつ地味に凄い魔術を発動しているライヴィスの規格外具合に引きつった笑み浮かべる。

どうやら、凄い存在だと思っていたのは……認識を改めなくてはいけないらしい。

ライヴィスは、もっとかなーり凄かった。


(これが三大賢人……凄い……)


シャロンの中で、三大賢人に対するハードルがグングン上がっているが……ぶっちゃけ、三大賢人の中でもライヴィスは規格外なのだが……その時の彼女が知るよしもなく。

シャロンは、高位魔術師(ライヴィス)が魔術を施したタグを見つめる。

ギルドマークのタグ、時計紋章のタグ。


そして……ハートをモチーフにした紋章。


どうやらこれが、シャロンの紋章らしい。


「まだ二日目なのに、もう色々ありすぎよ」

「そうか?」

「えぇ、そうよ」


行き倒れを双子のお願いで助けて。

そうしたら、その人が三大賢人の一人で。

ペットとか宣言されて、ご飯がとても美味しくて。

魔法ギルドに入るにあたって、もう一人の三大賢人に会ったり……色々と性格が濃かったり。

ライヴィスがとんでもなく凄いと知って。

今までの人生の中で、一番濃厚だった。

そうとしか言えない。


「まぁ、人生とはそんなもんだ」

「何それ」

「きっとまだまだ続くぞ」

「あはは……疲れちゃいそうだわ」


クスクスと笑いあうシャロンとライヴィス。




偶々、その時に起きた双子は……自分の姉と優しい兄が微笑み合っているのを見て、嬉しそうに笑った。





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