第6.5話 裏では陰謀が動いてました。
『あー……聞こえるかのぅ?』
夜深く。
夕飯を食べ終えて、シャロン達が眠ってから……一人、椅子に座って術式の確認をしていたライヴィスは頭に響いたフリートの声に、念話で答えた。
(あぁ。外にいた監視は?)
『問題ない。始末した』
それを聞きライヴィスはホッと息を吐く。
そして……この全てが始まった日のことを思い出した。
………ことの始まりは、リフートと契約している未来予知の女神が発した言葉だった。
未来予知の女神は、幻想種関連で、世界規模の問題が起きる際だけ警告をしてくれるよう頼んであった。
その女神が、警告したのだ。
『幻想種に愛される娘。嘆きの淵、数多の屍を築く』
訳すると……どうやら、新たな魔女がとある国に利用され、幻想種を使って沢山の人を殺すという予知だったらしい。
そして……世界規模での影響があることしか言わない女神がそう警告したということは……あり得るのは………。
《世界戦争》ーーー。
毎回、エルカトラが周囲を引っ掻き回しつつ……世界情勢に関わり合いがある魔法使いの素質を持つ者達を庇護下に置き、その世界規模の災厄を回避(また別の意味では災厄だったかもしれないが)してきたが……。
今回ライヴィスが選ばれたのにな理由があった。
『時の塔の主人。彼が救わねば世界は終わる。運命の時は、ヴィルネス王国の来年の春』
……………そう……珍しく、ライヴィスを直接指名したのだ。
流石のリフートとエルカトラも驚いていたが……ライヴィスは根っからの引きこもり。
ゆえにいい機会だと思って、力を制限する呪い(巨大な魔力は何かしらの探知にかかる可能性がかるため)をかけて放り出された(ここら辺は嘘じゃない)。
まぁ……重症な引きこもり過ぎて、行き倒れたのだが……まさかそれが〝幻想種に愛される娘〟に繋がるなんて、まさに奇跡としか言えないだろう。
(予知は?)
『ライヴィスとの接触で、未確定の未来に入ったそうじゃ。ただ元に戻る可能性も捨てきれんらしい。これからが正念場じゃぞ』
(…………分かった。引きこもりには荷が重過ぎるが、頑張ろう)
ライヴィスは魔法使いである前に魔術師であり、研究者だ。
術式の改良、新術式の構築。
幻想種との交流についてなど。
ずっと塔に篭って研究してきた。
ゆえに、弟子となるのもシャロンが初めてだし……こんなに他者と交流したのも、リフート達以外では初めてだった。
だから、驚いていた。
「…………こんなにゆったりとした時間を過ごしたのは、いつぶりだ?」
昔から波乱ばかりだった。
追われて、逃げ延びて、エルカトラに拾われて。
魔法使いの素質があったから、魔法使いになって。
塔に閉じ篭った。
もう他人と関わることで傷つくのが嫌だったから。
もう誰かに追われるのが嫌だったから。
塔での生活は、昔と比べたら穏やかだったが……こんなに心穏やかな気持ちになったことはなかった。
ライヴィスは思わず笑ってしまう。
「…………他人に関わりたくないと思ってても、俺は誰かと一緒にいたかったのか」
シャロン達は、ただ家族といる幸せだけを求めているから……欲望がささやかだから、きっと居心地がいいのだろう。
ライヴィスは優しく微笑みながら、リフートに聞いた。
(家族といることを大切にしているシャロン達が悲しむのは忍びない。リフート、相手は?)
『………(ライヴィスもそんなことを言うようになったんじゃのぅ……)』
(リフート)
『あ、すまんな。監視から吐かせた情報じゃと……監視をしておったのは、この国の王太子じゃ。詳しい話は聞いとらんようじゃったが……監視しても奴らは王太子がシャロンちゃんに目をかけているからではないかと思っているとか。何かあれば王太子へ報告することになっていたらしい』
(…………つまり……俺のことはバレているということか)
『うむ。その可能性は捨て切れぬな。監視の記憶は弄っておいたが、もう既に報告済みかもしれんしのぅ』
ライヴィスは考える。
普通の人は、魔法使いの素質がある人間には気づかない。
だが、シャロンに目をつけていたということは……。
(この国にも魔法使いがいるってことか)
『可能性は高いのぅ』
魔法使いとして公的に有名なのは三人だが……魔法使い、その素質を持つ者はもっと存在する。
しかし、シャロンのように未覚醒……(完全に潜在力が目覚めていないような)不完全な者もいれば……ライヴィス達のように完全な者もいる。
だが、表立って出ないということは……その力の危険さを理解しているため、利用されないために名乗りでないか……。
悪しき道に進んだ者だ。
幻想種の力を使い、世界を手に入れようとする者。
沢山の命を滅ぼそうとする者。
富を手に入れようとする者。
そのありようは様々だが……その魔法使いがついた王太子が、シャロンを利用して、世界戦争を起こそうとしている可能性が高い。
(フェルをつけているが……危険なのは変わりない、か。注意する)
『そうしてくおくれ。では……夜遅くにすまなかったのぅ』
(あぁ)
リフートとの念話が終わり、ライヴィスは息を吐いて席に凭れかかる。
(幻想種を……幻想種に愛される者達を……シャロン達を。戦争には、出させない)
穏やかに眠るシャロン達。
その裏では大きな陰謀が……動き始めていた。