第6話 魔法使い(魔女)、幻想種について学びました。
説明会‼︎
なんか、難しいぞ‼︎よろしくね‼︎
「お納め下さい」
スススッ……と差し出される肉や野菜、果物、香辛料など。
ライヴィスはそれを見ながら、ふむと頷いた。
「まぁまぁだな」
「じゃろ?」
ライヴィスはそれを床下の冷蔵庫(いつの間にか作っていた)にしまっていった。
シャロンは……なんか高級そうな紙に包まれたお肉など、一生見ることが叶わなかったであろう高級食材達に怖気付いていたが。
ライヴィスは物をしまい終えると、今だにそこにいたフリートに首を傾げた。
「なんでいるんだ?タグとフェルにつける従魔の首輪を置きにきただけだろう?」
「お爺ちゃんを労ろうな⁉︎」
「…………………?」
「おぉう……不思議そうな顔じゃのぅ………」
「ブツを置いて帰れ」
「…………もう少しぐらい一緒にいても良いじゃろ〜……」
「は?」
とんでもなく冷めた声を漏らしながら首を傾げる彼に、リフートはたじろぐ。
あまりの塩対応具合に……流石のシャロンも、フォローを入れた。
「ラ、ライヴィス……もう少しぐらい優しくしてあげても……」
「いや、困る。リフートがババアの養い子であった俺を懐柔して、ババアに接触しようとしてた時期があったんだが……なんの因果か、俺との恋愛関係があるって噂が流れ出した時があったんだよ。だから、俺はリフートと同じ空間にあまりいたくない」
「フェル‼︎本気で追い出して‼︎サイファ達の教育に悪い奴はこの家に入れちゃいけないわ‼︎」
『分かった‼︎』
「シャロンちゃんも酷い⁉︎」
ライヴィスが魔術でタグと首輪を奪い、フェルが外へと放り投げてそのまま追いかけ出す。
リフートは「酷いんじゃぁぁぁぁっっ‼︎」と叫びながら、逃げて行った。
「よし。じゃあ、これからは講義の時間だが……双子には少し難しいだろう。このタグをつけたら、風の妖精と遊ぶと良い。頼めるか?」
『任せなさい♪』
双子はライヴィスからタグを首にかけてもらい………。
そのまま、双子と風の妖精はベッドの上で遊び始めた。
「さて……講義といこう。今回は幻想種についてだ」
ライヴィスはシャロンに紙とペンを用意させると、スラスラと文字を書き始めた。
「まず、基礎の基礎である魔術師と魔法使いの違いからおさらいしておこう。シャロン、説明できるな?」
「えっと……魔術師は、魔力を使って術式を構築し、呪文を持って超常現象を発動させる……と思ってたんだけど、呪文は安定させるためにあった訳で……必要なのはイメージの強さよね?」
「そうだ」
「魔法使いは、魔力を対価に幻想種に超常現象を起こしてもらう。前者と後者で言えば、超常の存在に超常現象を起こしてもらうのだから、魔法使いの方が強い力を発揮できる……って習ったわ。その分、消費魔力量が大きいらしいけど」
「まぁまぁ間違ってはいない。だが……実は幻想種への対価である魔力を渡すのは、後からできた取引なんだって知っていたか?」
「え?」
その言葉にシャロンは驚く。
そんなの、授業でだって教えてもらっていないし……普通の人だって知らないだろう。
ライヴィスは楽しげに頬を緩めながら、続けた。
「幻想種の力は強力だ。だから、もし魔力という対価がなければ……人々はなんでも彼らに頼ってしまう。だって、そうだろう?魔術よりも強い力を魔力なしで発動できたら……世界を滅ぼすのだって簡単かもしれない」
「っっっ‼︎」
「だから、魔力を対価に差し出すというのは、一種の戒めであり……これ以上は駄目だっていう基準になるんだ。彼らも対価なしで動く危険性が分かっているから、基本には動かないし」
ライヴィスの説明に、シャロンは何度も頷く。
彼女も、その幻想種との関わりを持ってしまった。
大き過ぎる力を使えるようになってしまった。
だから、ライヴィスはこの話をしてくれるのだろう。
自分達が扱う力の危険さを、シャロンに理解してもらうために。
「魔法ギルドってのは、魔法使いの素質がある人達にその力の危険性を理解してもらう、学んでもらうギルドでもあるんだ。派閥?みたいなのがあるのは、それぞれの得意分野ごとに別れて、師となる人から教わる方が効率が良いから。シャロンとサイファ達は俺の庇護下に入ったから……俺が責任を持って力の使い方を教えよう」
「……………えぇ、お願いします。師匠」
シャロンは真剣な顔で頭を下げる。
彼も真剣な顔で頷いた。
「あぁ、勿論。ただ、師匠って呼ぶのは小っ恥ずかしいから、ライヴィスと呼んでくれ」
「……………えぇぇぇ……?」
「呼ばなきゃご飯が質素になるぞ」
「ライヴィスって呼ぶわ」
即答したシャロンに、彼はクスクスと笑う。
食い意地を張っていると思われても良い。
それほどまでにライヴィスの食事は美味しかったのだ。
三大欲求には、逆らえない。
「では……今回のメインテーマは、魔法使いと幻想種についてだ」
ライヴィスは書き出した内容をシャロンに見せて、ペン先でトントンと紙を叩いた。
「魔法使いというのは、三つの力が揃って始めて魔法使いと呼べるんだ。幻想種を視る力、幻想種に伝える力、幻想種に愛される力。俺達は、潜在力、制御力、適応力と呼んでいる」
「潜在力、制御力、適応力……」
「視る力は素質的な問題なんだが……相手の姿を視ることができなくちゃ話にならないよな?」
「でも、幻想種を視るなんて……」
「ふむ。そこも説明が必要か」
ライヴィスは顎に手を添えると、頷いた。
「この世界と幻想種が住む世界は同じだ。しかし、存在している層が違う」
「層?」
「本を世界に例えると……一ページ目に俺達が、二ページ目以降の各ページ毎に違う幻想種が住んでいるような感じなんだ。潜在力とは、そのページを捲る力。それぞれの幻想種が住む層を認識する力だと思って欲しい。まぁ、視た方が分かるか」
そう言った彼は、シャロンを再び浮かせ膝の上に座らせる。
シャロンはギョッとしながら、顔を赤くするが……ライヴィスに後ろから抱き締められて、動けなくなった。
「感覚を共有させる。俺が視認できるのは幻獣達ばかりだが……まぁ、許してくれ」
両手を恋人結びで繋がれて、シャロンは益々顔を赤くするが……。
キュィィインッ‼︎と熱くなった目に驚いて、それどころじゃなくなった。
「えっ……⁉︎」
シャロンが見ていた世界が、その姿を徐々に変えていく。
明確な世界から、朧げな世界へ。
朧げな世界に、木などの自然溢れる朧げな世界が重なり……薄紙に書かれた光景が重なったようになる。
木々の世界には、美しい鳥や大きな狼の群れ、鋭い角を持つ獣などが……動いていて。
自分がいる世界よりもキラキラと輝いていた。
シャロンは息を飲む。
「今の状態は、ページを持ったまま両方のページを覗き見してる状態だ。完全に木々の世界を視認すると、向こうもこちらに気づいて面倒だからな。こんな中途半端で済まないが……ここまでにしよう」
ライヴィスの声に合わせて、朧だった世界が元に戻る。
シャロンはドキドキとしながら、彼を見上げた。
「これが視る力、潜在力だ。どうだった?」
「す、凄いわ‼︎驚いたの‼︎」
「だろうな。子供みたいに目をキラキラさせてるぞ」
「だって、こんな綺麗な世界が重なってるなんて……‼︎」
シャロンは初めて視る美しい景色に心をときめかせる。
ライヴィスはクスクスと笑いながら、その頭を撫でた。
「何も視えないモノに火を出して、と願ったってできやしないが……その存在を視れたら話は別だ。その存在に向けて、言葉に魔力を乗せて伝えることで、彼らに具体的にどんな超常現象を起こして欲しいかを伝わるようになる。それが、制御力だ。ちなみに、言葉に乗せる魔力は対価と別だ。後、制御力は後天的にも高くなる傾向がある」
「………………彼らへの伝え方を、徐々に学ぶから?」
「あぁ、そうだ」
シャロンはなるほど、と納得する。
「最後の適応力は、そのまんまだな。人によって相性の良い幻想種が分かれるんだ」
「あ、もしかして……ライヴィスが幻獣ばかり視認するっていうのも?」
「頭が良い生徒で俺は嬉しいぞ、シャロン」
ライヴィスに頭を撫でられて、シャロンは頬を緩める。
少し恥ずかしいが、こうやって頭を撫でられたことが少ない彼女は……恥ずかしさよりも嬉しさの方が強かった。
「フリートがフェルに嫌われてたのも、適応力の問題だな。代わりに、女神や天使といった神聖なモノとの相性がとんでもなく高い。ババアは呪い由来なのか……邪悪なモノとの相性が高いが」
「………へぇ……じゃあ、私は何と相性が良いのかしら?」
「シャロンは全部と相性が良いらしい」
「え?」
ライヴィスは一瞬、険しい顔をするが……直ぐにその顔に優しい微笑みを浮かべた。
「フェルに教えてもらったんだ。シャロンは全ての幻想種に愛される娘なのだと。サイファとキャロルも愛されやすいらしいけど、シャロンほどじゃないらしい」
「………………そう、なの……?」
「あぁ。だから、その所為で……シャロンはなんでもできてしまうんだ」
「………………………え?」
シャロンはぎゅっと強く抱き締められる。
強く、強く……苦しいくらいに。
「ライ、ヴィス?」
「はっきり言う。シャロンの力は、とても危険だ」
「っっっ‼︎」
シャロンは愚かではないし、生徒として優秀だった。
だから、分かってしまった。
このために、彼は……幻想種の危険性を、話したのだと。
「幻想種に愛されると言うことは、下手をすれば対価なしで行動してしまう可能性がある。いや、シャロンが魔力を与えなければ……絶対に彼らは対価なしに動く。風妖精の食料提供や護衛は、その裏付けになる」
「それ、は……」
「幻想種はきちんと目覚めていない素質を持つ者には接触しない。だが……シャロンほど愛されているなら、遅かれ早かれ幻想種から接触があって、魔女として目覚めていたはずだ」
ライヴィスの真剣な声に、シャロンはなんとも言えなくなる。
「もし、君が彼らに助けを求めたら……彼らはどんなことをしてでも救おうとするだろう。倒せと命じれば、誰でも倒すだろう。今回は俺が側にいて。シャロンの才能を見つけたから良かったが……もし、師事する者もなく魔女として目覚めていたら……。その力を利用されていたらと思うと……ちょっとゾッとする」
「っっっ‼︎」
誰も教えてくれる人がいなかったら。
分からずに幻想種達に何かを伝えてしまってたら。
もし、魔女としての力を……誰かに利用されるようになっていたら。
確かに、大変なことになっていた。
シャロンはその事実に気づいて、身体を震わせる。
「でも、大丈夫だ。シャロンの側には俺がいる。俺が君を守る」
「ライ、ヴィス……」
「それに、幻想種は確かに強い存在だが……恐がる存在ではないんだ。彼らにだって意思がある。生きている。言葉が通じる。愛して欲しいと思うから、適応力がある奴らに近づくんだ。だから、大丈夫。接し方を学べば、距離感を学べば大丈夫だ」
「でも……」
「俺の言葉を信じろ、シャロン。だって、もう君はフェルっていう幻想種と正しい契約を持って接しているだろう?幻想種にだってお気楽な奴がいるって知っているだろう?」
「……………あ……」
『ただいま〜』
暗くなりかけていた空気を晴らすように、フェルの暢気な声が響く。
スルッと扉を幽霊のようにすり抜けてきたその姿に、一瞬ホラー映像感を感じたが……シャロンは、フェルに微笑みかけた。
「おか、えり。フェル」
『うん、ただいま‼︎シャロ‼︎』
飛びついてくる小さなフェル。
暖かなその温もりに、シャロンは徐々に落ち着いていく。
(そう、ね。恐がることなんかない……)
彼らは巨大な力を持つ存在。
だけど、それだけなんだ。
お茶目な面だってあるし、人間によく似ていたりもする。
ちゃんと……接することができれば、問題ないのだ。
ライヴィスは、一体どこまで見透かしていたのか。
シャロンが恐がることも分かっていて、フェルと契約させていたのだとしたら……もう策士というレベルではないだろう。
「ありがとう、ライヴィス」
「ん?何がだ?」
「私の師匠になってくれて」
「……………どう致しまして」
ライヴィスの温もりもまた、シャロンを落ち着かせていった……。