第4話 不法侵入者《シリアスクラッシャー》現れました。
「できたぞ」
「「「うわぁぁぁ……‼︎」」」
ライヴィスが用意した食事はそれはもう豪勢なモノだった。
香草焼きのチキンに、新鮮なサラダ。
美味しそうなカボチャのスープと、バスケットいっぱいに入ったパン。
水差しの水でさえ、輪切りにしたレモンとミントが入っているほどお洒落で。
シャロンと双子は、人生初めてのご馳走に目を輝かせてしまう。
「あまり料理は得意じゃないんだが、食べるといい」
「こんな豪勢で料理が得意じゃないって言われても驚くわ‼︎」
「ババアにはよく量が少ないし不味いと言われていたぞ?」
それを聞いたシャロンは(一体、エルカトラ様はどれほどのレベルの料理を求めているの……?)と、目を細めてしまう。
そんなライヴィスはフェルと風妖精の分の食事を用意した。
「フェルはなんでも食べれるよな?」
『大丈夫〜』
「風の妖精には果物を」
『あら。魔力を注ぎ足してくれたの?ありがとう』
「いや、この食材を用意してくれたのは君だしな。加えて、幻想種は基本的に対価なしに行動しない。食料調達が君の意思であろうとも。魔力はその対価だ」
ニヤリと笑うライヴィスに、風の妖精も笑う。
『そういうところ、キッチリしてるから貴方達は好きよ?』
「そう言ってもらえて幸いだ。ありがとう」
それを聞いて、シャロンはハッとする。
そして、勢いよく風の妖精に頭を下げた。
「風の妖精様、本当にありがとうございます‼︎こんな豪勢な食事、初めてです……‼︎サイファとキャロルにこんな食事を食べさせてあげれるのは……妖精様のお陰です‼︎」
『あらあら……気にしなくていいのよ?貴女達を気に入ったから用意してあげただけだもの。それに、私は材料を用意しただけ。食べれるようにしたのはライヴィスだわ』
シャロンは彼の方を向き、頭を下げる。
そして、同じようにお礼をした。
「ライヴィス、ありがとう。最初は見た目からして不審者だったし、犯罪者だったらどうしようと思ったけど……本当に感謝しかないわ」
「いや、俺こそ拾ってくれてありがとう。あのままじゃ、死んでただろうしな。流石に今回の件で、引きこもりは少しずつ改善するべきだと思った」
「そうね。それはそうだわ」
感謝はすれど、それは思うとシャロンは頷く。
しかし、ライヴィスはクスクスと楽しげに笑った。
「だから、君がなんとかしてくれ」
「……………へ?」
「君が俺を拾ったんだ。だから、最後まで責任を取らなくては……な?」
ぞくりっ……。
細められた瞳が、何故か獰猛な獣のように見えてシャロンは冷や汗を流す。
ライヴィスは、そんな彼女の頬を撫でながら……笑う。
「言っただろう?俺は君のペットだ。だから、飼い主であるシャロンが手綱を引いて、外に出してくれ。じゃなきゃ、また俺は引きこもってしまう」
「いやいやいや、何言ってるの⁉︎自分が変なこと言ってるって分かってる⁉︎」
「何もおかしくない。引きこもりの犬を運動させるのは飼い主の仕事だ」
…………どこまでも自分はシャロンの犬だというスタンスを崩す機がないライヴィス。
シャロンは鈍い頭痛がしてきて、頭を押さえてしまった。
『シャロ、ライのことは諦めた方がいいよ〜。魔法使いってのは、どこかしら壊れてるもんだから〜』
暢気な雰囲気でサラッと爆弾発言をするフェル。
それに、風の妖精も頷いた。
『そうよ。それに、ライヴィスは根っからの研究バカの引きこもり。一言で言っちゃえば、変人なの。だから、サラッと流しておきなさい』
(それでいいの⁉︎そんなサラッと流していいの⁉︎)
「「お姉ちゃん、お腹空いたぁ……」」
「よし、食べましょう」
ひとまず、シャロンは双子の空腹の訴えを優先することにした。
ライヴィスより双子優先である。
「では……頂きます‼︎」
「「頂きま〜す‼︎」」
「召し上がれ」
初めてのご馳走に、シャロン達は口にお肉を入れた瞬間かれ悶絶する。
溢れ出る肉汁。
こんなにまともな食事、初めて過ぎて涙が出てくる始末だった。
「美味しい……」
「そうか。もっと食べるといい」
「「お兄ちゃん、凄い‼︎」」
パクパクと食べ進めるシャロンと双子。
満面の笑みを浮かべる三人を見て、ライヴィスは優しい顔で微笑む。
穏やかな空間。
幸せな時間。
シャロンは、少し泣きそうになってしまう。
「シャロン。どうした?」
ライヴィスは、彼女が泣きそうな顔をしているのに気づき……心配そうに見つめる。
シャロンは慌てて目尻を拭い、微笑んだ。
「ううん、なんでもないの」
「………………シャロン、隠さなくていい」
「っっっ‼︎」
真っ直ぐな瞳。
全てを見抜くような瞳が、真っ直ぐにシャロンを見つめる。
「…………まぁ、言いたくないなら言わなくて良いが」
「……………(どっちよ、それ)」
「えいっ」
「きゃあっ⁉︎」
ライヴィスは浮遊の魔術を発動し、シャロンを膝の上に座らせる。
後ろから彼に抱き締められるカタチになり……彼女は顔を真っ赤にして困惑した。
「えっ⁉︎ちょっ⁉︎」
「もう辛い時は隠さなくても良い。俺の方が歳上だからな。甘やかしてやる」
「ふぇっ⁉︎」
「お前は色々と頑張り過ぎだ。少し見てただけで分かる」
いきなり膝に座らせられ、抱き締められた姉を見てキラキラした目で見てくる双子に聞こえないようにするためか……ライヴィスは耳元で囁く。
「教科書はボロボロで、沢山勉強したんだと思う。だけど、魔術を学ぶ学園は貴族が多い。シャロンには当たりが強いはずだ。心的疲労もあるだろうに……それにめげずに双子の世話。どう見たって、頑張り過ぎだろ?」
「……………でも……お父さんもお母さんも、いないから……」
「だから、俺が助けてやる。子供は少しくらい楽した方がいい。それに、俺はペットだと言っただろ?君を癒そう。甘やかそう。アニマルセラピー?ってヤツだな、うん」
シャロンはそんなことを言われてしまい、言葉に詰まる。
ずっと頑張ってきたのを。
誰にも頼らなかった日々を。
これからは、ライヴィスが助けてくれると言ってくれたのだ。
そんなの……そんなこと言われたら。
シャロンが隠してきた弱い部分が、出てきてしまう。
「頑張ったな。良い子だ、シャロン」
優しく撫でられるその温もりに、シャロンは顔を両手で覆う。
泣き顔を見せないように。
双子に、心配をかけないように。
だが………シャロンの涙腺はもう決壊寸前で。
涙が溢れそうになった瞬間ーーー。
「ライヴィィィィィィィィスッッッ‼︎こんなところにおったんじゃーーー」
「フェル。噛め」
『がぶっとな』
「ぎゃぁぁぁあっ‼︎痛い、痛いんじゃぁぁぁぁあっ‼︎牙が刺さっとるぞぉぉぉおっ‼︎」
いきなり空中から現れた不法侵入者によって、涙が引っ込んだ。
「えぇぇぇ………」