第24話 事件が終わりました。(2)
明日でラスト‼︎
よろしくです‼︎
『おえっ………』
ぐったりとした神王を地面に放り投げ、シャロンはライヴィスに向き直る。
狼のようで、龍のような不思議な姿。
だが、その瞳は人の姿であろうと獣であろうと変わらない。
シャロンは柔らかく笑いながら、その身体に手を伸ばした。
「つるつる、ね」
『そうか?結構慣れないんだ、この姿』
「………元々、この姿になれた訳じゃないの?」
『そこも説明だな』
ライヴィスはそう言うと、光りながらむくむくと大きくなっていく。
光が収まったころには、そこにはいつも通りのライヴィスが……ただし、ツノを隠さない姿で立っていた。
「ライヴィス⁉︎」
「大丈夫だ。彼らには俺の正体を話してある」
シャロンが慌てて周りの皆を見ると、全員が頷いていて。
彼女はホッと息を吐く。
「あの後のことを説明しよう。他の皆は二度目になるがな」
それから、ライヴィスはあの後のことを語ってくれた。
あの日、シャロンは神王に魔力を持っていかれた。
しかし、それは魔力だけでなく生命力さえも奪っていったらしい。
あのままいけば、シャロンは死んでいた。
しかし、ライヴィスはそれを認めなかった。
どうにかしてシャロンを助けたいと。
彼女と共にいたいと強く願った結果ーーー。
幻想種に戻ったらしい。
「…………幻想種に、戻った?」
「俺は幻想種でも人間でもない、喪失者だと告げただろう?しかし、幻想種に戻ったんだ」
「………………え⁉︎」
シャロンは目を見開いて絶句する。
すると、地面に放り投げられていた神王がズルズルとベッドに上がってきた。
『それはそうだ。そのためにわたしがシャロン嬢の魔力を奪ったのだから』
ガシッ‼︎
『うぐぇっ⁉︎』
「だが、その所為でシャロンが死にかけたのも忘れるなよ。次にそんなことをしようとしたら、貴様の魔力を全て奪って潰す」
今度はライヴィスが神王の身体を握り潰さん勢いで握り締め、力を込めていく。
シャロンは意味が分からなくて、「ど、どういうこと?」と質問した。
『ロ……喪失者が元に戻るには、揺るぎない覚悟が必要、なんだ。つまり、守るべき者のための、覚悟が。わたしがシャロン嬢を、瀕死に追いやったことで……ライヴィスは、君を守ろうと幻想種に戻り……シャロン嬢の瀕死を救ーーーー』
「………………ふんっ‼︎」
『うぐぇっ⁉︎』
神王がライヴィスに握り潰され、再び地面に放り投げられる。
だが、シャロンはそれどころじゃなかった。
ライヴィスが自分のために、幻想種に戻ったこと。
そして、自分の命を救ってくれたこと。
とても、とてもそれは嬉しくて。
嬉しい反面、あの事実も思い出す。
幻想種は魔法使い、魔女との取引なくしてこの世界にいれない。
シャロンは複雑な顔で……ライヴィスを見つめた。
「…………ライヴィスは……これから、どうなるの?」
「…………………」
「幻想種に戻ったと言うことは、自分の世界に………」
「…………そのことで、シャロンに告げなくてはいけないことがあるんだ」
シンッ……。
静まり返った室内。
シャロンとライヴィスの視線が真っ直ぐに絡まり……彼はそっと目を逸らした。
「その……離婚、できなくなりました」
「……………………」
シャロンは不思議そうな顔をして固まる。
そして、首を傾げた。
「どういうこと?」
「婚姻、も一種の契約なんだ。その……使い魔契約と同じ効果があるらしい。主人と使い魔という関係か、夫婦の関係かという違いだけだ。だから、俺がこの世界にいるためには……その、夫婦のまま……ずっと一緒に……」
「それは別に構わないのだけど」
「え?構わないのか⁉︎元々、離婚前提じゃ……」
確かに、シャロンとライヴィスの婚姻は異性が触れなくなる誓約魔術が目的だった。
そして、離婚も考えていたのだ。
しかし、シャロンとしては……ライヴィスと共にいるのは別に構わないと思っていた。
「ライヴィスと一緒にいるのは嫌じゃないから、離婚しないならしないでいいわ。それに、落ち着くし。で?私と結婚したままなら、ライヴィスは元の世界に戻らなくて大丈夫なの?」
「あぁ。俺はシャロンと結婚している限り、この世界にいれる」
「そうなの?なら、よかったわ」
あまりに呆気なくシャロンが受け入れるものだから、ライヴィスは脱力する。
だが、まだ彼は気にしていることがあった。
「その……結婚は、愛し合う男女がするものなのだろう?ある意味、婚姻関係を続けるのは俺がこの世界にいるためだ。シャロンを利用してるようなものなんだぞ?本当に……いいのか?」
「うん?良いわよ?」
「えぇぇ……その、ほら……好きな人とか」
何故かウジウジとするライヴィスに、シャロンは怪訝な顔をした。
「…………貴方、そんなウジウジするタイプだった?」
「…………その、何故だか……急に、な?こんな風に……」
「………(情緒が成長したのかしらね?)まぁ、貴方のことが好きじゃなきゃ一緒にいないわよ。それに、ライヴィスといるし落ち着くし……ライヴィスは私のこと、嫌い?」
ライヴィスはそう聞かれ、目を大きく見開く。
何度か口を開いては閉じを繰り返し……顔を少し赤くしながら答えた。
「……………多分、好き」
「……………多分なの?」
「俺がズレてるのは知っているだろう。これでも少しは成長したと思ってくれ。一緒にいて落ち着くのは。一緒にいたいと思うのは……好きってことだろう?」
彼女の頬に手を伸ばして、ライヴィスは笑う。
シャロンもその手を握り返して、頬を擦り寄せた。
「まぁ、結婚してから恋愛を始める夫婦もいるもの。これからもよろしくね、ライヴィス」
「あぁ、よろしく。シャローーー」
『ふむ。これも全てわたしがシャロン嬢を殺しかけたおかげだーーー』
「黙れ、神王。貴様、本気で殺すぞ」
『ぷぎゃっ⁉︎』
ドスッ‼︎
ライヴィスの足が神王を踏み潰す。
シャロンは今更ながらの質問をした。
「なんでこれがここにいるの?」
「一度こちらに来たからな。簡単に来れるようになってしまったみたいなんだ」
「あぁ。そうなの……」
二人は真顔で踏み潰される神王を見つめる。
そこで、やっとずっと話の流れを見守っていた両親とサディ……シャイルが代表して声をかけた。
「というか、二人でどんどん話進めてるけど……結婚の話とか聞いてないんですが……?」
再び静まり返るその場に、シャロンとライヴィスは互いに変えを合わせる。
そして、シャイルの方へと振り返った。
「ライヴィス、話してないの?」
「……………………話してなかったか?」
「……………いや、幻想種のことやらシャロンが魔女になったことは聞きましたよ?君の正体も。でも……結婚は聞いてません。普通、両親には話を通すものでは?」
「わたくしも聞いてないわねぇ……どういうことかしら?お兄様も知らなかったの?」
「……………(にっこり)」
サディの笑顔にキレたらしいシャイルは、ガシッとライヴィスの肩を掴む。
そして、満面の笑みで告げた。
「ライヴィス殿。少しお話ししましょうか」
その後、義父と義息子の(物理的な)戦闘が起きたのだが………。
元騎士であるシャイルのプライド的な問題で、戦闘の結果は明らかだったが暗黙に秘されたーーーー。