第22話 運命の日でした。(4)
短いね……。
後、もうそろそろ終わります。
でも、明日の予約投稿分がなくなったので、お休みします。
よろしくね‼︎
柔らかな光が集まって、輪郭を成す。
それは美しい男の人だった。
足元に届きそうなほどに長い金色の髪。
日差しのような柔らかな瞳。
真っ白な服を纏い、その背に生えたのは四翼二対の真っ白な翼。
《神王》ーーー。
清浄なる者達の王は、とても神々しく。
サウェールナの中にいる、呪い同然の探求者は動けなくなってしまう。
その場にいた宰相や騎士達は跪いて涙を零す。
その姿を見るだけで、心が洗われるようだった。
自分という存在がちっぽけになるようだった。
自分という人間が、必要ないようにーーーー。
「神王殿。できればその神性を抑えてくれ。普通の人間には、少し効き過ぎる」
ライヴィスが宰相達を庇うように前に立つ。
それでやっと、宰相達はハッと我に返った。
「な、何が……」
宰相は呆然としながら、自身の手を見つめる。
まるで、自分が消えるようだった。
ただの祈りを捧げる人形になってしまいそうだったのだ。
「………人間は矮小な存在。相手は凡ゆる神の頂点に立つモノ。普通なら会っただけでおかしくなる可能性だってあるんだ。今回も自己というモノが、かき消されそうになったんだろう」
神王。
その存在は、まさに神。
あらゆる神性達の王。
その姿を見るだけで、人は神を敬愛する信者になる。
いいや……分かりやすく言えば、人間性を失くす。
ただ慈悲深く、全てを投げ出し、神に許しを得るために祈るだけの存在になる。
生存活動も行わず、人間らしい感情も失くし、ただ祈るだけの存在になってしまう。
『おや。そう言っておきながら、君は大丈夫そうだが?』
「俺は人間じゃないからな」
『ふむ……?あぁ、喪失者か』
「あぁ」
神王は楽しそうに笑う。
そして、徐々にその神性を抑え始めた。
神性が収まってしまえば、そこにいるのはただ美しい青年。
彼はシャロンとライヴィス……レームを見て、満面の笑みを浮かべた。
『………ふむ。〝王〟を冠する幻想種が顔を合わせるとは。歴史的瞬間、というヤツだろうな』
『でしょうねぇ〜。普通は違う世界の幻想種とは会えませんし、〝王〟を呼べる人が滅多にいませんしねぇ〜』
『時代とは凄いものだな』
神王とレームが暢気に会話をするが、シャロンは息を吐いて二人に声をかけた。
「………全てが終わったらいくらでも会話してくれて構わないから。先に私のお願いを叶えてくれる?」
『あぁ、失礼。今の我は貴女に呼ばれていたのだったな。彼を救えばいいのだろう?』
神王は探求者へと視線を向け、歩み寄る。
そして、優しくその頭を撫でた。
『随分、長く歪んだ願いを抱いていたのだな。確かに、浄化の天使の力だけでは……駄目だっただろう』
「…………う、ぁ……」
『確かに君は弟を、その令嬢を恨んだのだろう。魔法使いを妬む魔術師達が憎かっただろう。だが、もう君は死んだんだ。いつまでも、君の子孫を縛り続けるのは……酷じゃないか?』
神王の言葉は、探求者の怨嗟をじわりじわりと溶かしていく。
彼は優しく微笑み……彼女の胸元に、腕を埋め込んだ。
『怨みを抱き続ける日々は大変だっただろう。もう、楽になるといい』
聖なる気に、呪いである探求者はなすすべもない。
サウェールナの身体がビクビクと震えて……彼女の中に存在した探求者の魂が抜き取られる。
その手には黒い塊が握られていて……それと同時に彼女は意識を失った。
なんて呆気ない幕引きなのだろう。
ずっと、彼は苦しんでいたのに。
幻想種という高位の存在によって、こうも簡単に幕引きをされてしまった。
だが、それでも……余計な犠牲が出る前に終えれたことは、よかったのかもしれない。
「…………私が教えてもらった未来はここまで、ね」
「お疲れ様、シャロン」
「えぇ。ライヴィスも……ね」
二人は互いに顔を見合わせ、笑い合う。
これで、もうシャロンとライヴィスが共にいる必要はなくなった。
だが……それでも……。
『シャロン・マクスウェル。ライヴィス・クロノス』
見つめ合っていた、シャロン達は声をかけられて振り返る。
神王は黒く染まった魂を優しく撫でながら、話し始めた。
『この魂は浄化して、魂の輪廻に戻しておくということでいいんだな?』
「………魂の、輪廻?」
『あぁ。死んだ魂を綺麗にして、次の命に変える仕組みだ。再利用とも言う』
「………なんで身も蓋もない言葉だ……」
神王の明け透けな言葉に、ライヴィスは額を押さえる。
シャロンと若干、引き攣った顔になりながらも……頷いた。
「………………お願いするわ」
『では、貴女の望みは叶えられた。魔力を貰っていくぞ』
「んぐっ⁉︎」
一気に抜け落ちる魔力。
息苦しさにブラックアウトしそうになり、シャロンの身体がぐらりと崩れる。
しかし、そうなる前にライヴィスが彼女の身体を抱き支えるが……。
ライヴィスはシャロンの中に流れる魔力を見て、慌て始めた。
「お、おい‼︎神王殿⁉︎これはっ……‼︎」
魔力が奪われ続けている。
生命力を魔力に変換するほど、神王は彼女から力を奪っていた。
「何をしているっっっ‼︎」
『何をしているとは不思議な事を聞くな?喪失者よ。我は神王。清浄なるもの達の〝王〟だ。魔法を……奇跡を起こしたのだから、人、一人分の……命を頂くのが妥当だろうよ』
「なっ⁉︎」
その言葉にライヴィスは絶句する。
つまり、シャロンは神王の手によって死にかけているのだ。
このまま何もしなければ……彼女が死ぬのは確実だろう。
レームも大慌てで神王に詰め寄った。
『神王‼︎止めて下さい‼︎確かに〝王〟の対価はそれぐらい必要でしょうけど、ご主人様は幻想種に愛される娘なんですよ⁉︎少しぐらいオマケしてあげてもいいじゃないですか‼︎』
『我はお主のように安売りしない主義なんだ、機械王』
『むむむーっ‼︎』
ライヴィスは徐々に呼吸が浅くなっていくシャロンを抱き締め、頭を働かせる。
どうすれば彼女を救えるのか?
どうすれば彼女を生かせられるのか?
冷たくなり始めるシャロンの身体に……ライヴィスの方が、震えてしまう。
「シャ、ロン……駄目だ。死ぬな、お願いだか。なぁ、シャロン‼︎」
「……………………ぁ……」
「だって、まだ……‼︎まだっ……‼︎」
シャロンと共にいると胸が熱くなる。
その答えを、一緒に知っていこうと言ったのは……他でもない彼女なのだ。
まだ、この気持ちに名前をつけれていないのに。
シャロンがいなくなるなんて、ライヴィスは許せない。
「生きろっっっ、シャロン‼︎」
ライヴィスの願いと同時に……眩い光が、二人を包み込むように溢れたーーー。