第21話 運命の日でした。(3)
短め‼︎よろしくね‼︎
ギーク侯爵家。
魔術大国ヴィルネスで、公爵家に負けず劣らずの歴史を持つ家であり……公には知られていないが、その一族は機械系の幻想種と相性がいい魔法使いが産まれることが多かった。
だが、それは〝呪い〟だ。
長く永く受け継がれてきた……祖先の呪いなのだ。
歪んだ、力だった。
ライヴィスは、真っ直ぐにサウェールナを見つめる。
そして、質問した。
「君の本当の目的を……その理由を聞かせてくれ」
「あはは……あははははははっ‼︎」
サウェールナは歪んだ笑みを浮かべる。
その姿はとても不気味で。
ライヴィス以外の者達は、彼女の圧に押されてしまう。
「理由⁉︎そんなの簡単だ‼︎復讐するんだ‼︎この国を潰して‼︎世界を滅ぼして‼︎この国がボクにしたことへの、報いをっっっ‼︎」
「…………………」
ライヴィスは酷く呆れたような顔で溜息を吐き、彼女に近づく。
そして……彼女の中にいる彼に問うた。
「それは自分の子孫の乗っ取ってまですることか?」
『なっっっ⁉︎』
その場にいる者達は目を見開いて固まる。
しかし、サウェールナだけは……無表情のまま、彼を見つめていた。
「探求者。いや、君の家の祖先君というべきか。君は、ずっと呪いとしてその血に残り続けたのか」
今度こそ、サウェールナは目を見開く。
そう……彼女の中にいる呪い。
それこそが、この事件の黒幕。
全ての、始まりだった。
「……………………何故、分かった」
「何故、か。君は機械仕掛けの神の力を使えたんだろう?それと同じことを……こちらができないと思っていたのか?」
「っっっ‼︎」
それを聞いて探求者は言葉を失くす。
この光景は全て、未来予知の女神に教えてもらったことなのだ。
だから、シャロンとライヴィスは正体が分かっていた。
かつて生きていた青年の呪いが、始まりだったのだと……分かっていた。
「遠い昔……魔術の国の王となった魔法使い。それが君の正体だ」
遠い遠い昔。
この国の王だった彼は、王として相応しい技量と人格者を持つ魔法使いだった。
かつての魔術大国ヴィルネスはまだ魔法使いに対する知識も深く、その力の偉大さも理解していた。
ゆえに、魔術師にとって、魔法使いは羨望の存在だった。
何故なら、魔法使いが使う魔法……幻想種が起こす奇跡を真似たのが魔術なのだから。
彼は周りの妬まれていたのだ。
魔法使いだったから。
魔法使いだったがゆえに、彼は嫉妬に駆られた自分の弟に毒を盛られた。
毒は三日三晩、彼を苦しめた。
そうして……気付いた時には、動けぬ身体で深い深い地下室に囚われていた。
訳が分からなかった。
どうしてこうなったのか。
しかし、そこに現れたのはギーク侯爵令嬢。
彼女はどうしても探求者を手に入れたかったのだと、告げて……彼を監禁した。
彼女の口から語られるのは、自分の弟が王になったことや……自分は死に、国葬をされたことなど。
そして、昼も夜も彼女に襲われる。
毒を盛られ。
動けぬ生き死体として。
種馬として。
過ごさなくてはならない日々は、探求者の精神を少しずつ狂わせていった。
昼も夜も分からぬ息苦しい地下室に囚われることも、それに拍車をかけていたのだろう。
徐々に、徐々に狂っていく。
壊れていく。
そうして……探求者は、歪んでしまったのだ。
普通ならば、その怨みがどうとなることはない。
しかし、彼は魔法使いで。
魔法使いは魔法により近い存在だったがゆえに、その奇跡の力の影響があったのだろう。
彼の怨嗟は、呪いとなって……彼の血を引く者達に引き継がれていった。
狂った、歪んだ力として……魔法使いとしての才が受け継がれて。
魔法使いとしての才が目覚めると同時に、その者達は探求者の怨嗟に侵されて探求者へと人格が変わっていく。
だが、狂った力は壊れてしまっていて。
代々目覚める力は、不完全なものだった。
子孫の魔法使い達は潜在力が乏しく、幻想種の存在をきちんと認識できないため……まともな幻想種を呼ぶことさえままならない。
ゆえに、今代の器となったサウェールナが機械仕掛けの神を呼べたことは奇跡に等しかった。
そして、サウェールナが器になったからこそ……探求者は今回の事件を起こしたのだ。
王太子サウロを利用して、この国を潰そうと。
この世界を滅ぼそうと。
歪んだ願いを、叶えようと。
長い永い時間の果てにおかしくなってしまった願いを。
「…………………そうだろう?名もなき王。探求者と名乗った者」
サウェールナを乗っ取った探求者は、歪んだ笑みを浮かべる。
その顔は、笑っているのに泣いているようだった。
「あぁ、あぁ、ぁぁぁぁぁぁ……なんで、なんで、こうなったんだよ……折角、ボクの願いが叶うと思ったのに」
「願い、ね。国を潰し、世界を滅ぼすことが……君の本当の願いだったのかは分からないな。長い時間の所為で、お前は壊れてしまったんだから」
「…………………お前さえいなければ……お前さえいなければ‼︎」
探求者は泣きそうな顔で、憎しみに染まった顔で彼を睨む。
ライヴィスはそれを受け入れて、頷いた。
「あぁ、確かに。俺がいなければ君の願いは叶っただろう。だけど、もう俺がいる。だから……これなら待ち受ける未来はーーー」
ライヴィスは柔らかく笑いながら、背後に振り返る。
そこにいるのは、ずっと今まで黙っていたシャロン。
いや、ずっと……とある幻想種を探していた、幻想種に愛される娘だった。
「君が救われる未来だ」
ライヴィスの言葉と同時に、シャロンは息を吐いて告げる。
全てを終わらせるその、幻想種をーーー。
「《どうか彼を救ってあげて、神王》」