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第20話 運命の日でした。(2)


ラストスパートかなー。


頑張ります‼︎








カチカチ、と歯車の回る音が響く。

金属と歯車で作られた人形。

人の姿をしているけれど、人ではない。

大きな、大きな幻想種。



シャロン達は王城前の広場で、空を覆うほどに巨大な機械人形ソレを見上げていた。




「凄いなぁ……あれ」

「女神様に聞いていたけど……実際に見るのとは驚き具合が違うわね」


王都では人々の絶叫やら鳴き声やらが響きまくっているのに、シャロン達はとても冷静で。

というか、落ち着き過ぎていた。


『ライヴィーーーース‼︎これは一体、どういうことじゃぁぁぁぁぁあっっっ‼︎』

『こんの馬鹿義息子ぉぉぉぉおっっっ‼︎あんなデカイのが出て来るなんて聞いてないぞ、ゴラァァァアッッッ‼︎』


タグから声が響いて、シャロンとライヴィスは耳を押さえる。

シャロンは胡乱な目で彼を見つめた。


「伝えなかったの?」

「面倒くさかったんだ」


シャロンは大きく息を吐き、タグを持ち上げる。

そして、通信の向こうにいるリフートとエルカトラに声をかけた。


「王太子が捕まったことで、王太子に付いていた探求者も表に出てしまう……そうなる前に騒ぎを起こして、その内に証拠を消そうって手段よ」

『『なっ⁉︎』』

「お二人は王都の人達への対応をお願いね。私は……」


シャロンはゆっくりと手を伸ばす。

そして……機械人形に微笑んだ。



「ねぇ、私の声が聞こえるかしら?」



ピクリッ……。

機械人形はゆっくりと、顔らしき部位をシャロンの方へ向ける。

シャロンはそんな人形に手を伸ばす。


「ねぇ、私と契約しない?そうすれば、貴方はちゃんとしたカタチでこの世界に存在できるわ」

『………………………』


そう……その機械人形は、中途半端・・・・なのだ。


ちゃんとその存在を認識して呼ばれたのではなく、そういう感じがいるという曖昧な感じでこの世界に呼ばれてしまった。

つまり、潜在力(見る力)が足りないのに、無理やり呼び出してしまった状態なのだ。



ゆえに、シャロンは……幻想種に愛され、適性が異常なほどに高い魔女には、その機械人形の本当の姿が見えていた。



カチカチカチカチ。

歯車の回る音が響く。

数十秒にも、数十分にも思える時間の後……それは、ゆっくりと手を伸ばした。


『名を』


頭の中に響くような声。

シャロンは予知で答えたように、その名前を呼んだ。


「《レーム》」


空を覆うほどだった機械人形が崩れるようにその身から金属を落としていく。

しかし、それは王都に降り注ぐことなく……塵のように消えていく。

そして……余計な金属が落ちた後、シャロンの手を握っていたのは……少年のような、人に類似した幻想種だった。

仄かに燐光を放つ緑の髪に、複雑な動きをする機械じみた眼球。

肌は白に近いが、その材質は皮膚によく似たモノ。

服らしき部位には、黒い装甲みたいなモノを纏っていて。

少年はニパッと笑い、シャロンにお辞儀した。


『自立AI搭載型アンドロイド……まぁ、他の方からは《機械王》と呼ばれておりました。貴女様から頂いた名はレーム。よろしくお願いします、ご主人様』


シャロンに名を与えられたことで、本来の姿でこちらの世界に存在することができるようになったレームは嬉しそうに笑う。

ライヴィスは動揺しながら……苦笑した。


「おぉうっ……《機械王》………話に聞いてたが、流石に……」


幻想種の中で〝王〟と名がつく存在は、各世界の王のことを指し示す。

つまり、各世界で一番最強の存在なのだ。

魔法使いでも、人生で会えたら奇跡と言える。

そんな機械系幻想種達の主人が……目の前にいた。

三大賢人であろうと、ライヴィスは驚かずにいられなかった。


『いやぁ、すみません。どうもボクのことをちゃんと認識もせず、外部魔力触媒で、それも無理やり召喚するようなシステムを利用して、ボクを召喚したみたいで……王都を襲えとか言われましたけど、供給魔力が足りなくて動けなくなって、困ってたんです』

「まぁ、君の巨体が出現した時点で召喚主の目的は叶っているかな」

『むむっ?』


ライヴィスの呟きにレームは首を傾げる。

そう、黒幕……探求者がレームを召喚したのは、王都を混乱に陥れて、隠蔽工作に奔走するためだ。

シャロンはそんな少年にお願いをした。


「ねぇ、レーム。お願いよ。貴方を召喚した子を連れて来てくれる?」

『はいはい‼︎勿論ですよ‼︎』


レームの装甲は姿を変えて、翼のようになる。

そこから火を噴き、彼は空へと浮遊した。


『行ってきまーす‼︎』


ビュンッ‼︎っと凄まじい勢いで飛んでいくレーム。

それを見たシャロンとライヴィスは、目を細めた。


「……………分かってても驚くわぁ……あれ、どうやって探してるのかしら……?」

「……魔法じゃないのは確かだな。一体、どういう仕組みなんだか……オーバーテクノロジーの匂いがプンプンするな……」

「おいっ‼︎お前達‼︎」


声をかけられて振り返ると、慌てながら走り寄ってくる宰相クレッセトとその護衛として騎士が数人。

宰相は二人の側に来ると、空へと視線を向けた。


「あの巨体が現れたと思ったら消えたのだ‼︎何か知っているか⁉︎」

「あぁ……今、黒幕を捕まえに行っているわ」

「はぁっ⁉︎」

「どうやら黒幕があの巨体を召喚したらしい。まぁ、実害は出ていないから新魔術の始動実験だってことにしてくれ。映像魔術を作ったことがあるから、それを使ったということにすれば大丈夫だろう。あ、後で術式を公開する」

「はぁぁあっ⁉︎」


宰相はそれを聞いてふらりと目眩がした。

まず、あの巨体をなんとかしたらしい発言に驚き……新魔術を作り上げたことも驚かずにいられない。

魔術を生み出すというのは、とんでもない労力ととんでもない時間を有する。

それこそ三代魔術の研究を受け継ぐのが普通なくらいなのだ。

だが、彼はまだ若そうなのに新魔術を生み出したと言ったわけで。

………というか、魔法使いが魔術を使えること自体、クレッセトは知らなかった。


これが魔法使い。


常識が異常的過ぎる。


『ただいま帰りました〜‼︎』


そんな時、レームが何かの赤い布でぐるぐる巻きにした人物を俵担ぎして戻ってくる。

ウゴウゴと抵抗するように動くその姿は少し、気持ち悪い。

シャロン達は若干顔を歪めながら……ポイっと投げ捨てられたそれを見た。


「ありがとう、レーム」

『いえいえ‼︎どう致しまして‼︎えいやっ‼︎』


レームはニパ〜ッと笑いながら、その布を勢いよく引っぺがす。

そして、中身の人物がゴロゴロゴロッッッ‼︎と転がり出てきた。


「なっ⁉︎」


宰相クレッセトだけでなく、その背後にいた騎士達もギョッとしながら目を見開く。

艶やかな黒髪。

憎しみに満ちた顔。

紺を基調とした制服とローブを見に纏った彼女・・は……。




サウェールナ(・・・・・・)は、シャロン達を睨みながら叫んだ。




「なんでっっ‼︎なんでなんでなんでっっっ‼︎どうして分かったのよっっっ‼︎」



彼女は慟哭のような叫び声を漏らす。

どうして分かったのか。

そんなの、答えは簡単だ。


「なんでと聞かれても……普通に答えたら、君が未熟な(・・・)魔女で、こちらがそこそこ(・・・・)な魔法使いだったからじゃないか?」

「っっ‼︎」


ライヴィスの言葉に、サウェールナは鬼のような形相になり、彼に殴りかかろうとする。

しかし、そうなる前にレームがその身体を踏みつけて動けないようにした。


『止めて下さいよーぅ。ご主人様の伴侶様に手を出そうとするなら、スタンショット打ち込みますよー?』

「ちょっと女性を足蹴にする少年は見た目が悪いから、止めなさい」

『えー?まぁ、ご主人様が言うなら〜。足、退けますけど……変な動きをしたら攻撃しますよ?』

(…………血の気が荒いわ………)


レームはニパッと笑いながら足を退ける。

それを見て……ライヴィスはゆっくりと頷いた。





「じゃあ……一応、現時点の最高権力者がいる訳だし……事の顛末を語るか」







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