第18.5話 分かってても、怒ってました。
その日ーー。
シャロンは学園に向かう途中、馬車で拉致されたーーー。
口元を何かしらの液体が染み込んだ布で押さえられ、馬車の中に無理やり連れ込まれる。
意識が徐々に朦朧としだし……麻袋を被されて、身体を縄で縛られた。
(……………予習通り拉致されたわ……)
最後に彼女が思ったのは、それだったーーー。
*****
「…………んっ……」
シャロンはゆっくりと目を覚ます。
薄暗い場所。
ジメジメとした空間に、ぴちょん……ぴちょんと響く水音。
カビ臭い匂いと、冷たい石の感触。
シャロンは牢屋の中にいた。
「…………………うわぁ……これも聞いていた通り………」
昨日、未来予知の女神が言った通りになってしまった。
シャロンは息を吐いて起き上がる。
(私に触れたってことは、拉致したのは女性……殿下の部下の女性かしら?)
手足を見てみれば、縄で縛られている。
ふぅ……と息を吐くと、遠くでギィィィ……と鈍い音をした。
カツン…カツン……靴の音が反響する。
視線をそちらに向ければ……そこに、仮面をつけたフードの人物がいた。
「…………シャロン・マクスウェル」
「……………誰?」
「探求者と呼ばれている」
探求者はそう告げる。
シャロンは酷く冷めた目で、その人を見た。
「随分と冷静だな」
「………まぁ……愛しの旦那様がいますから」
「だが、彼はそんな君が原因で我々に協力することになる。君に感謝する。君のお陰で、確実性が増す」
その声は愉悦からか興奮していて。
シャロンは更に冷静になる。
「………何をしようとしてるの?」
「何を?ただ世界に我が一族の名を刻むだけだ」
「…………………意味が分からないわ」
「分からないなら、それでいいさ。ただお前を利用するだけだ」
クスクスクスクス……探求者が笑う。
世界戦争は回避した。
だけど、まだ彼らは目的があるらしい。
しかし……それが分からない。
唯一分かるのは……探求者が、歪んでいること。
執着に近い、目的を持っていること。
「あぁ、あぁ。あはははっ‼︎シャロン・マクスウェルの力は不確定だったが、ライヴィス・クロノスであればその力は確実に巨大なはず。三大賢人なのだから。あぁ、やっと‼︎やっと‼︎」
探求者はぶつぶつと呟きながら、檻をガシャンッッッ‼︎と掴む。
そして、ゾッとするほど冷たい声で問うた。
「ライヴィス・クロノスはどこにいる?」
「…………っ…‼︎」
どうやら、自分の一族の名を刻むなんて言っておきながら……使う力は自分じゃなくて、シャロンやライヴィスの力らしい。
随分と本末転倒だと思いながら……シャロンは、予習通りに答える。
「さぁ?時計の塔じゃない?」
「……………………」
探求者はそれを聞いて「……転移を使っていたな」と呟く。
………シャロンはそれを聞いて目を細める。
ライヴィスが転移を使えること。
それを知る者は殆どいない。
だが、それを知っているということはーーー。
「………なら、時計の塔に連絡が届くまで、お前はここにいるがいい」
探求者はそれだけ告げて、その場から去って行く。
シャロンは大きく息を吐いて、タグを取り出した。
(ライヴィス、予習通りよ)
『だろうな。じゃあ、手筈通りに』
(えぇ)
シャロンの役割はここで数時間待つだけ。
それだけで、全てが終わる。
(予定調和ってこういうことを言うんでしょうねぇ……)
『シャロ、待ってる間遊ぼーう‼︎』
「そうねぇ」
シャロンはフードの中から出てきたフェルを抱き締める。
牢屋にいるのに、その空気はとんでもなくユルユルだった……。
*****
「リフート、ババア。シャロンが拉致られたから、ちょっと殴り込みに行こう」
『『はぁっ⁉︎』』
タグを介して連絡すると、リフート達はギョッとした声で叫んだ。
そして、慌てて転移してくる。
リフートはいつもの白い服だが……エルカトラはまたあのアーマービキニ姿で。
……視覚テロだな、と思わず思ってしまった。
「どういうことじゃ‼︎」
リフートがライヴィスに詰める。
しかし、直ぐにリフートはギョッとしながら距離を取った。
それはそうだろう。
………ライヴィスが、とんでもなく獰猛な笑みを浮かべていたのだから。
「シャロンが拉致されるって分かってたけど……あははっ、なんだか少し腹だたしいなぁ……」
「「……………」」
二人は思う。
これは、普通に考えてライヴィス一人が乗り込むだけで国が落ちそうだと。
いや、実際に国を落とすことはできるのだが……何故、自分達が呼ばれるのだろうと思ってしまった。
「リフート、双子の面倒を見ててくれ」
「あ、はい」
「ババア。ギルメンの拉致だから、ギルド対応事案だ。ババアの派閥の奴らで王都の包囲を」
「う、うむ」
「さぁて……後は……」
ライヴィスは笑う。
その笑顔は……長年面倒を見てきたリフート達がドン引きするほどだった。
「俺が直接、脅すか」