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第14話 まさか**してました。







とある王族の姫君は、魔女だった。

彼女が契約していたのは、とても強い幻想種。

彼は自分の息子を姫君に会わせたりしていた。

いつか、仲睦まじくなることを望んでいたのかもしれない。

しかし……それを利用した者がいた。



姫君の父親……国王とその国だった。



国王は幻想種の子を奪い隠し、姫君を監禁した。

幻想種は魔法使い、魔女を介さなくてはこの世界に干渉できない。

しかし、幻想種の力を使えばその子を殺すと脅されてしまえば……姫君達は手を出せない。

幻想種は愛情深い種族だと姫君から聞いていたから、国王はその性質を利用したのだ。

子が殺されると脅されると、彼らが何もできなくなると分かっていたのだ。



そうして……その子は兵器の炉心として、利用されることになった。






*****





「………まぁ、その兵器に利用されてたのがライヴィスだ」


シャロンはその話を聞いて絶句する。

ベッドに横になったライヴィスはとても穏やかな寝顔だ。

だけど、その裏に……そんな壮絶な過去があったなんて。

信じられなかった。


「余りにも無差別に戦争を仕掛けては勝ってる国があってな。フリートがいる国も戦争を仕掛けられたんだ。だから、アイツが幻想種の力を使い、その大国のことを探った。そうしたら、ライヴィスの存在を知ったんだ」

「………………」

「それからはアタシがライヴィスを奪い、育てたって訳さ。まぁ……ライヴィスを手に入れようとした愚かな奴がいたりと、色々とあったけどね」


彼が語っていた襲われた云々がそれなのだろう。

だが、シャロンはそれを聞いてふと思ってしまった。


「………………なんで……ライヴィスは自分の世界に帰らなかったの?」

「帰らなかったんじゃない。帰れないのさ」

「…………………え?」

「魔法使いや魔女を介してこちらの世界に干渉する。それは、幻想種としての存在を歪めないためだ」

「…………歪めない……?」

「イネス」

「はい‼︎代わりに説明させて頂きます‼︎」


イネスはシャロンの方を向き、説明を始める。


「なんで、幻想種ごとに世界が分かれてると思いますか?」

「……………えっと……そういうものだから、じゃないの?」

「まぁ、それもそうなんですけどね。分かりやすく言えば、違う世界じゃ生きれないからなんです」

「違う世界じゃ、生きられない?」

「海の生物が地上で生きれないように、幻想種達は自分達の世界でしか生きれません。でも、我々が存在するこの世界は微妙に違うんです」


確かに違う世界で生きれないのなら、フェルがこの世界にずっといることはできないだろう。


「この世界には魔法使いや魔女といった緩衝材になる存在がいる。魔法使いを介することで、幻想種はこちらの世界でも生きることができるようになります。じゃあ、その魔法使いを介さなかったら……どうなると思いますか?」


イネスはそう聞くが、今までの話をまとめると答えは一つしか出ない。

シャロンは目を見開きながら……恐る恐る質問した。


「……………死んじゃうの?」

「死んじゃう、というのもあながち間違いではありませんね。答えは、幻想種として死にます」

「……………え?」

「幻想種としての存在が、この世界に生きるモノとして変質していくんです。この世界に適応してしまうんです。でも、完全にはこの世界のモノにもなれない。幻想種でもなくなってしまう……どっちつかずの存在。この世界に生きるモノでも、幻想種でもない……そんな存在を我々は、《喪失者ロスト》と呼んでいます」

「…………ライヴィスは、その《喪失者ロスト》ってこと?」

「はい。ですから、ライヴィス兄は自分の世界に帰れないらしいです」


イネスは「後はエルカトラ様に」と告げて、口を閉ざす。

エルカトラは穏やかに眠るライヴィスの顔を見つめながら、息を吐いた。


「ライヴィスがズレてるのは、それが原因だ。兵器として利用されてきたから、情緒が未発達で。大国にいた時も、兵器を奪おうとする貴族達から色々(・・)とされていたらしいし、大国から逃げる時も、魔法使いとなった後も色々(・・)あった。重度の引きこもりなのは、怖がってるからなんだろうさ」

「…………………」

「………そんなことがあったから、アタシ達魔法ギルドはフリートの幻想種の力を借りて、世界規模の災害を回避するために動いてる。もうこの子みたいな悲劇を起こさないためにね。フリートが予知、アタシが実行……って感じさ。まぁ、今回はライヴィスが直接指名されたから……アタシの代わりに動いたんだが」

「……………っっ‼︎私の件は……世界規模の災害が起こるはずだったってこと?」


シャロンの質問にエルカトラは頷く。

そして、呆れたように肩を竦めた。


「……………それも話してなかったのかい。今回は、幻想種に愛される娘……アンタが利用されて、世界戦争が起きるって予知だったんだよ」

「っっっ‼︎」


シャロンは息を飲む。

自分の力が危険だとは分かっていた。

でも、それほどまでとは……思ってもみなかった。


「とんでもなく危険な状況だったんだ。全部話した方が楽だったろうに……なんてライヴィスは言わなかったんかね」

『そんなの簡単だよ。シャロを不安にさせたくなかったからだよ』

「「「‼︎」」」


いつの間にか机の上に登っていたフェルは、そう告げる。

エルカトラは「どういう意味だい?」と質問した。


『ライは完全な幻想種じゃなくなっちゃったけど、ギリギリ幻想種なんだよ。だから、僕達に愛されるシャロが大事だし、不安にさせたくないと思っちゃう』

「…………………………フェル……」

『だから、シャロが僕達を愛されるがゆえに幻想種を信用しちゃう性質を利用してまで、自分のことを疑わないように信じ込ませて。何も知らせずに終わらせようとしてたんだよ』


ライヴィスをあんなに簡単に信用したのも。

あんな簡単に受け入れてしまったのも。

シャロンの性質が原因だったのだ。

そして……それを利用してでも、ライヴィスはシャロンに真実を隠そうとした。

もし、シャロンが世界規模の戦争に巻き込まれることになると知っていたら……彼女は大人しく、ライヴィスと共に塔へと移っていただろう。

もし、大変なことが起きると知っていたら……もっと天敵達から逃げていただろう。

なのに……ライヴィスは、彼女にそれを隠して。

シャロンが家族を待ちたいと言った願いを、叶えようとしてくれた。


「……………何、それ……私のことなのに……私を不安にさせないようにって……全部隠しておくつもりだったの……?」


シャロンは息を吐き、勢いよく立ち上がる。

そして、眠っているライヴィスの元へと近づいた。


「……………………私に、話してくれれば……よかったのに……そうすれば……ちゃんと……」

『…………でも、ライはシャロに話してって言われても話さなかった思うよ?』

「…………え?」

『シャロが幻想種に愛されるってことは、シャロも僕達を愛してくれる。それがシャロと僕達の関係性なんだよ。だから、初めて自分を愛してくれる人を、大切にしたいと思っちゃうのは……酷く当たり前だから。ライはそれに気づかずに動いてるだろーけどね』

「……………………」


きっと、シャロンが幻想種に愛されるから。

だから、ライヴィスはそんなことをしようとしたのだろう。

だけど……何故か、シャロンは泣きそうになってしまう。

虚しさと、申し訳なさと、滲む喜びに……泣きそうになってしまう。


「…………………なんでかしら……そこまで思って動いてくれてるのは……嬉しいのに……悲しいわ……」


その原因は、なんとなく分かってる。

ライヴィスの行動の理由が……彼の意思じゃなくて、幻想種としてだからなのだろう。

彼がそうまでして動いてくれたのは、シャロンが幻想種に愛されるからだとーーーー。


『なんで悲しむの?』

「…………………え?」


だが、シャロンの思考はフェルの言葉で止まる。

フェルは心底不思議そうに首を傾げた。


『別に、シャロが幻想種に愛されるからって……僕達がそこまで過保護にする訳ないじゃん』

「……………………」

『確かに、シャロの性質も働いてるだろーけど……ライがシャロに隠してのは、ライ本人がシャロを不安がらせたくないと思ったからだと思うよ?じゃなきゃ、僕にまで戦争のこと口止めしないでしょ?』

「…………………《ちょっと来ておくれ、心読の悪魔》」


エルカトラがそう声をかけると、黒い光と共に不気味な、人の姿をした影法師が現れる。

シャロン達はギョッとしながら、影法師を見つめた。


『なんだ』

「ちょっと、ライヴィスの心を読んでおくれ。あのお嬢ちゃんへの気持ちだ」

『…………分かった』


影法師はライヴィスの胸に触れる。

数秒して………手を離し……。

真っ黒なシルエットがゆえに表情が分からないが、呆れたような雰囲気を出しながら首を傾げた。


『コイツ、幻獣の一種か?』

「…………血筋的には、そのはずだが?」

『その娘への感情は、普通に番に対する感情だぞ』

「「「………………………へ?」」」


シャロン、エルカトラ、イネスはそれを聞いて固まる。

影法師は面倒そうに答えた。


『コイツは、娘を完全に自分のモノとしている。娘、お前、コイツに餌付けしたな?』

「…………………餌付け……?」

『コイツの種族は、餌付け=求愛だ。それを本能で理解していたんだろう。餌付けしてから、マーキングとかされなかったか?』

「…………………………」


シャロンは頬に冷や汗が流れるのを感じながら、記憶を探る。

餌付け……いや、餌付けと言っていいのか。

確かに……ご飯をあげた。



あの、行き倒れていた(……確かにパニックになって倒れていたとしか言ってない……)時にーーーー。



そして……マーキングと言っていたことも……。

シャロンはハッとして、エルカトラの方へと振り返る。


「エ、エルカトラ様はライヴィスにご飯あげたりとかっ……‼︎」

「はぁ⁉︎する訳ないだろ⁉︎ライヴィスは、腹は減るが()()()()食事を必要(・・・・・)としない(・・・・)んだから‼︎」

「嘘っ⁉︎」


シャロンはギョッとする。

だって、今までライヴィスは一緒に食事をしていたのに……本当は必要なかったのだと今更ながらに知ったのだから。


『ちなみに、僕の種族とは求愛行動が違うよ〜。あぁ、だからかぁ〜。頭がいいライが、カトラを呼ぶんじゃなくて結婚を選んだのは〜。プププッ。本人が気づいてないってのが面白いけどねぇ』


……………つまり……ライヴィスは。

シャロンが幻想種に愛されるからではなく……。



シャロンが求愛して、それを本能的に受け入れて番扱いしていたから……不安がらせないように、真実を隠していたということで。




もっと分かりやすく言えば、奥さんを不安にさせないように動いてた……と。




シャロンはそれを聞いて、赤面した。









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