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第13話 なんか色々混沌でした。


………あれ?

ギャグに……なっちゃった……?







「えっと……本当に婚姻をしに来たのですよね?」




教会の中。


婚姻の儀をしにきたシャロン達を見て、神父は首を傾げずにいられなかった。

それはそうだろう。



………ライヴィスの顔が死んでいるのだから。



「あぁ……外に出たくない。外なんてなくなればいいのに。室内に引きこもりたい。帰りたい。研究を永遠にしてたい……」

「………すみません……この人、引きこもりで。外に出ると……」


シャロンは神父に謝りながら、彼の頬をぺしぺし叩く。

本当にここまで来る時点で疲れた。


直ぐに帰るつもりだったから、双子は風妖精に護衛を任せて置いてきたが……置いてきて正解だったと思う。

シャロンは双子を見ながら、ライヴィスを相手にするのは高等技術が必要だと悟ったからだ。


甘く見ていた。

ライヴィスの引きこもりを、甘く見すぎていたのだ。

ライヴィスはずっとフードを被っていて、プルプル産まれたばかりの子鹿ばりに震えていたし。

シャロンが手を引っ張らなければその場から動かないし。

面倒くさかった。

とても、面倒だった。

シャロンの本音は、〝いい加減、そろそろ元に戻って欲しい〟である。

本当は殴ってしまいたい。

だが、そんなことをしたら更に面倒になる気がする。

シャロンは呆れたように息を吐きながら、ライヴィスに告げた。


「もうここは室内よ」

「ん?そうか」

「(再起動早っっっ⁉︎)」


室内……なんと凄まじい魔法の言葉なのだろう。

さっきまで死んでいたライヴィスを通常状態に戻らせるなんて。

シャロンはぐったりとしてしまったが……ライヴィスはそんな彼女に気づかずにフードを外し、その美貌を晒しながら微笑んだ。


「すまない、神父様。ちょっと外が嫌いすぎて、ちょっと変になっていた」

「………は、はぁ……(顔はいいのに……変人……ですかね?)」

「婚姻の儀を。あぁ、誓約付きで頼む」

「…………随分と珍しいですね?結婚式をやらない方はいますが……誓約付きなんて……」


婚姻の儀自体は、簡単に行える。

協会で神父にやってもらえばいいだけだ。

貴族は、これに沢山の人を呼び結婚式として行う。

だが、誓約……つまり、他の異性に触れなくなる魔術を使う式は、ここ最近殆ど行われないのだ。

神父が珍しがるのも仕方ないだろう。



「彼女に、他の異性に近づいて欲しくないんだ」



だが、ライヴィスは笑顔とその一言で乗り切るつもりらしくて。

笑顔の威圧をかけて、神父にそれ以上質問するなと言外に告げていた。

神父は頬を引きつらせながら、ゆっくりと頷く。


「……………そ、そうですか。では、ただいま書類をお持ちしますね」


それから、シャロンとライヴィスはささっと婚姻届に署名を済ませ、誓約魔術を発動し、とんでもなく軽く結婚をした。

流石の神父も顔面硬直である。


「あ、新しい夫婦に……幸せが訪れんことを………」

「…………また外に出るのか……憂鬱だ……」

「まだ室内だから、動かなくならないでよ。結構、引っ張るの大変なんだからね?」


完全に会話が新婚夫婦の会話じゃない。

神父の本音は、〝こいつら、なんで結婚してんの?〟である。




こうして……引きつった顔の神父に軽く挨拶をして、帰ろうとした瞬間ーーー。




「こんの馬鹿ちんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっっっ‼︎」





ゴツンッッッ‼︎と、ライヴィスの頭に拳骨が落とされた。


「いっっったぁっ⁉︎」


ライヴィスは頭を押さえて、ギョッとする。

そこにいたのは、白髪の老婆……(?)だった。


「「………………………」」


シャロンと神父は……そのお婆さんに絶句する。

それはそうだろう。

格好が、格好が……謎すぎる。

女戦士の如きビキニアーマーを着ていて、晒されたその肉体はとんでもなくムキムキで。

お婆さんなのに、ムキムキなのだ。

お婆さんなのに、筋肉が凄いのだ。

そんなお婆さんがライヴィスに拳骨を喰らわせているのだ。

絶句するに決まっている。

思考が、停止する。

だが、ライヴィスはそんなお婆さんを見て叫んだ。


「何すんだ、クソババア‼︎」

「お前がっっっ‼︎そこの娘さんを傷モンにしたからだっっ‼︎このクソガキっっっ‼︎」

「はぁっっ⁉︎」


そのまま殴り合いを始める二人を見て……シャロンは眉間を押さえた。


(今、ライヴィスがババアと呼んだ……ということは……えぇぇっと……)


その答えに辿り着きたくない。

だが、殴り合いをしている姿を見れば辿り着くしかない。


……………このお婆さんこそ、ライヴィスの育ての親。


エルカトラ・ロブリスト。


つまり……三大賢人の一人……のはず。


(…………………あれ……?三大賢人のはずよね……?)


シャロンの視界に映るビキニアーマーが、三大賢人という事実を否定しようとする。

完全にアレは、魔女や魔術師の格好ではない。

前衛職の格好だ。

もう、何が何だか意味が分からない。

だが、混沌と化した世界にも……救いがある。


「何してるんですかぁっ‼︎この馬鹿師匠と馬鹿兄弟子がっっっ‼︎」


訂正。

救いはなかったかもしれない。



「なんでまたビキニアーマーの若い女性が来るのよっっっっ‼︎」



止めに入った若い女性もビキニアーマーだった。






*****





「す、すみません……大変、ご迷惑をおかけして……」



赤毛を三つ編みにし、魔女らしいローブを着た女性が何度もなんども頭を下げる。

シャロンはそんな彼女に、首を振った。


「い、いえ……大丈夫……です……うん……」

「素直に言えばいいと思うぞ」

「黙ってて下さい、兄弟子」


ギロリッと睨まれてもライヴィスはどこ吹く風で。

現在……シャロンの自宅まで帰宅(転移)した四人は、互いに顔を見合わせて席についていた。

……………ちなみに、ビキニアーマー組はちゃんとローブ姿である。


「その……今いる場所が女だけの集落でして。郷に入っては郷に従えに倣い、薄着だったのです」

「……………は、はぁ……」

「あぁぁ……ご、ご挨拶が遅れました‼︎エルカトラ様の弟子であり、ライヴィス兄の妹弟子であるイネスです‼︎よろしくお願いします‼︎」

「シャロンです……よろしく……お願いします……」


シャロンとイネスは互いに挨拶をするが、ライヴィス達は今だに無言で睨み合っていて。

フェルと風の妖精が双子の面倒(子供用机でお絵描き中。聞こえないように風の壁も作ってる)を見てくれているが……ぶっちゃけ、シャロンもそちらに混ざりたかった。


「ライヴィス」

「なんだ、ババア」

「何故、婚姻した。フリートからあんたが結婚したと聞き……傷モンにしたからかと思ったが、違ったし。だが、婚姻は女にとっちゃ大事なモンだ。そう簡単にやるモンじゃない」

「婚姻する際に使用される異性を忌避する魔術を利用したかっただけだ。それに、シャロンが人妻なら天敵達も簡単に手を出せなくなる」

「……………………は?」


ライヴィスは今までのことを軽く説明する。

シャロンに助けてもらったことや、彼女の生活状況。

天敵対策として、異性が触れられなくなる魔術を利用したかったこと。


「流石の俺でも、異性が触れられなくなるなんて呪い系に近い魔術の開発なんてできない。いや、できるかもしれないが時間がかかる。だから、結婚を………」

「お前は馬鹿じゃないのか⁉︎」

「はぁ⁉︎」

「いや、お前だけじゃなくお嬢ちゃんも馬鹿じゃないのか⁉︎」

「えぇっ⁉︎」


何故かシャロンまで馬鹿と言われ、二人は固まる。

エルカトラは呆れたような溜息を吐いて、告げた。


「アタシを呼べば、お嬢ちゃんに異性が近づかなくなる呪いをつけてやれただろうさ。そもそもの話、婚姻で使われてるその異性が触れられなくなる魔術はアタシが作ったモンだからね」

「「えっ⁉︎」」

「正確には、魔術偽装した魔法だ。呪いを使う新婚が、アタシが用意した魔力を届ける術式に魔力を通すことで、そういう呪いを使える幻想種に魔力が与えられ、魔法が発動するような特別仕様にしてんだよ」

「えぇっ⁉︎」

「親友の旦那が浮気性でね。その対策で作ったら……何故か、他の浮気性のカップルにも使われるようになったんだよ」


まさかの事実にシャロンとライヴィスは、言葉を失う。

というか……ライヴィスは、あの術式が偽装されたものだとか気づけなかった事実に、凹んだ。


「邪悪な幻想種とか呪い関連の魔術と相性が悪いけど……だとしても気づけなかったなんて……嘘だろ……」

「まだまだ甘いね、ライヴィス」


テーブルに頭をぶつけて黙り込んだライヴィスに、エルカトラは呆れたような視線を向ける。

そして……シャロンに視線を動かした。



「それに、だ。お嬢ちゃんはライヴィスを信用しすぎだ。幻想種に愛されるってことは、逆を返せば幻想種を受け入れやすいということ。幻想種を信用しやすいってことだ。こいつはズレてるんだから、不用心にライヴィスのすることを受け入れてどうする」



「え?」

「あっ」

「…………………ん?」


シャロンは首を傾げ、ライヴィスは焦ったような声を漏らし固まる。

そんな二人を見て……エルカトラは徐々に目を見開いた。


「……………エルカトラ様……?さっきの言い方じゃ……まるでライヴィスが幻想種みたいな……」

「「「………………………」」」

「……………………………え?」


シャロンはぎこちない動きで、隣に座るライヴィスを見つめる。

エルカトラは勢いよく立ち上がり、彼の胸倉を掴んで睨んだ。


「ライヴィス。はっきり言いな。お前、どこまで話した?」

「………………………………………」

「何も話してないのかい?」

「…………………………………………あぁ……」

「…………呆れた……お前、お嬢ちゃんの性質を利用したね?」


乱暴に手を離し、エルカトラは頭を掻き毟る。

シャロンは、意味が分からなくて……ライヴィスに聞いた。


「ね、ねぇ?どういうこと?ライヴィスは……幻想種なの?」

「……………………」

「ライヴィス‼︎」

「お嬢ちゃん」

「っっっ‼︎」


エルカトラに名前を呼ばれて、シャロンはビクッとしながら彼女の方に振り返る。


「あんた、魔法ギルドに所属してんだよね?」

「え、えぇ……」

「なら、隠す必要はないね」

「ババア‼︎」

「黙りな、ライヴィス‼︎これはお前が早々に語らなかったのが悪いんだよ‼︎」


エルカトラはライヴィスに手を翳し、力の制限を解く。

彼は小さく呻きながら、バタリッ‼︎と倒れた。


「ラ、ライヴィス⁉︎」

「………力を制限してたから、一気に解放されて気絶しただけさ。それより、見てごらん」

「………………ぁ……」


気絶したライヴィスの頭。

そこには……人間には存在しない、捻れたツノが存在して。

シャロンは、息を飲む。


「……………ライヴィスは幻想種だ」

「………………ライヴィスが……幻想種……?」

「………………あぁ。教えてあげるよ、全部ね」





そうして……エルカトラは過去を語り始めた。








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