第12話 まともな判断ができなくなるぐらい、ストレス溜まってました。
いや、なんでやねん。
って話です。
「今後の活動方針を決めるぞ」
双子を寝かしつけ、『魔術基礎講義〜四大元素から始めよう〜』を彼から受けていたのだが……唐突にそう言われ、驚きつつ……頷いた。
「活動方針を決めるっていうのは大事なんだ。何も考えずに動くより、計画性があるから何かあってもどう動くべきかが明確化されるし」
「言われてみれば……確かにその通りね。どうするの?」
「まずは現状の整理からだ」
現在、シャロンは王太子達に絡まれている。
だが、選民意識が強過ぎて、庶民のシャロンが貴族を邪険に扱ったら……更に学園で睨まれることになる。
天敵達がいつ気に食わなく思うようになり、双子にまで害が及ぶかが分からない。
「まぁ……監視されてたって分かったら、余計にそう思うよな」
「そうよ。双子は大切な家族だもの。それに苦しい生活なのに、何も文句を言わない……あの子達が大変な目に遭うのは間違ってるわ」
王太子は野心家で、何かしらの形でシャロンの力に気づいている。
それを探るためにメリルに情報収集を頼んだ。
「………残る問題は、彼らの婚約者達と天敵達への対応か」
「そう、ね……」
「……………というか、敵意に晒されてるのってやっぱりシャロンが庶民だからだよな」
「えっ?えぇ……そうよ」
ライヴィスは首を傾げて考える。
そして、だいぶ今更なことを聞いてきた。
「どうしてシャロンは貴族の学園に通ってるんだ?」
「……………あー……ぁー……それはその……」
シャロンはそろぉ……止めを逸らす。
じっと見つめる彼。
じっと……じーっと……じとーっと……。
シャロンはそれを見て……小さく呻いた。
「……………お忍びで遊んでいたらしい理事長の前で魔術を使いました……」
「…………………どうして?」
「………………その…キャロルが転んで怪我をしたから、つい?親には外で使っちゃダメって言われてたのだけどね……キャロルの白い肌に傷が残るのはちょっとっっっ……‼︎」
つまり、シスコンゆえ。
ライヴィスは小さく息を吐きつつ……更に今更なことを聞いた。
「ちなみにシャロンの家の事情は?」
「そういえば……我が家の事情、少ししか話してなかったわね……なんか……凄く今更感が……」
「あれだな。基礎情報飛ばして行動してた感じだな」
思わず納得するシャロン。
そして、彼女は簡単にマクスウェル家のことを説明した。
この国で庶民はあまり良い暮らしができない。
それはそうだろう。
ここは魔術大国。
凡ゆることを魔術で補っている。
農作業も魔術。
輸送なども魔術。
庶民の仕事がとても助けないからこそ、彼らは他国に出稼ぎに出ることが多い。
シャロン達の両親も例に漏れずなのだが……ここで少し違ったのは、十五歳の成人の日。
シャロンは母親に〝おまじない〟をしてもらったこと。
『このおまじないはね。怪我したら治してくれる力が使えるようになるおまじないよ』
今思えば……そのおまじないが、ライヴィスが言うところの開放だったのだろう。
その時に治癒の魔術(学園に通ってから知った)を教えてもらい……外では使っちゃダメと言われ通りに、気をつけながら日常生活を送っていたのだが……先ほど話した学園の理事長の前で魔術を使ってしまい、あっという間に学園に通うことになってしまったのだ。
「………………………………………なるほど……」
「えぇ。学園には今年の春から編入したの。もう半年ほど通うけど……今だに慣れないわ」
今の季節は秋も深まる頃。
シャロンは悪意に晒される日々を半年も乗り越えてきたのだ。
「今の話を聞いて思ったんだが……シャロンの両親って、貴族か他国の人間だってことだよな」
「…………………ん?」
「だって、開放のことを知ってるんだぞ?」
そう言われてシャロンは衝撃を受ける。
そう、そうなのだ。
おまじない……開放を知っているとなると、この国の貴族か開放を知っている他国の人間となる。
つまり……シャロン達は貴族の血が流れている可能性があると分かったのだ。
「……………た、確かに……貴族しか魔術を使えないって知ったのも、学園に通ってからだし……私が変なんだと思ってたけど……」
「……………はぁ……なんか、予想以上に面倒そうだな………もう、力任せで解決させるか?」
「……………………」
何故だろう。
シャロンは彼が言う力任せという言葉に嫌な予感がせずにいられない。
だが……彼女は聞いてしまった。
「…………ちなみに……力任せって……」
「国を落とすだけだが?」
「………………………」
シャロンは頭を抱えて絶句する。
簡単に、国は落とせるモノじゃないはずなのに……ライヴィスが言うと簡単に落としてしまいそうで怖い。
「まぁ、外に出たくないし面倒くさいからやろうと思わないんだが……本当はこういうの、ババアの仕事なんだよ……」
「………………(面倒くさがりで助かった……というか……やっぱりエルカトラ様の養子ね……国を落とすとか……災害……)」
ライヴィスは面倒くさそうに息を吐く。
そして、頭を掻きながら告げた。
「…………取り敢えず……シャロンには演技をしてもらうか」
「……………演技……?」
ライヴィスは笑う。
そして、爆弾を落とした。
「俺と結婚してみよう、シャロン」
「……………………………………………はい?」
シャロンは固まる。
今、何かちょっとアレな言葉を言われた気がするんだが……。
「凄いよな、この国。婚姻すると他の異性が近くに寄れなくなる魔術があるんだ。多分、誓約系魔術だから効果は強いし……身内は問題なしときた。流石の俺もこんな魔術は知らなかったな」
「………………それは……私も、知らないわ……」
「あぁ、知る人ぞ知る魔術らしいからな。なんでも浮気性の旦那が浮気しないようにと女の執念が生み出した呪いに近い魔術らしいし。ババアは知ってそうだけど」
なんか軽く言ってのけるが、いつの間にそんな情報を集めたのだろうか。
黙り込んだシャロンに、ライヴィスは首を傾げた。
「どうした?」
「……………結婚?」
「あぁ、結婚」
「男女が誓うアレ?」
「だな。男女が婚姻を結び、一緒に暮らす。そして、性交渉を持って子孫を残すヤツだ」
なんて、なんて情緒のない言葉のか。
普通、結婚は愛し合う二人が永遠を誓う儀式といった表現が多いのに。
シャロンは思わず(この表現はないわ……)といった顔になる。
「多分、近づけなくなれば他の婚約者達も安心だろうし、シャロンも纏わり付かれなくなる。ただこの魔術は離婚時と相手が死ねば解けるらしいから……もし、シャロンが誰かのモノになると困るって向こうが思ってたら、俺を殺そうとしてくる奴が来るだろうが……まぁ俺ならなんとかできる。いや、それどころか敵を引きずり出す良い機会か。結構良い作戦だと思うんだが、どうだ?」
シャロンはゆっくりと息を吐く。
……………彼女が思い出していたのは、出会った当初のライヴィスが言っていた……彼がの追い出された理由。
情緒が未熟。
分かりやすく言えば、ちょっとズレてる。
結婚を……天敵対策に使用するところは、まさにそれだった。
「結婚をそう簡単に言えちゃうあたりが、情緒が未熟って言われる理由だと思うわよ」
「………………ん?」
「……………(……どうしよう……ライヴィスの方が歳上なのに、なんか私が情操教育をしてあげた方がいい気がしてきた……)」
魔法使い、魔術師としてはライヴィスの方が格上だ。
だが、人間的にはシャロンの方が上だった。
「で?どうする?」
「いやいやいや、そんな軽くする話じゃないからね?結婚って愛し合う者達がするものだからね?」
「政略結婚だってあるぞ?」
「普通は愛し合う男女なのよ‼︎」
あぁ……どうしてシャロンがこんなに虚しくならなくてはいけないのか。
いや、絶対に彼の変な価値観の所為である。
「でも……法的にも俺の庇護下に入るから、何かあったら介入しやすいんだが」
「うっ」
「それに……安全になったら、離婚すればいいし」
「………それ、は……」
「要するに、身分が高い奴らに贔屓されてる……というか、男女的な接触をされてるから、周りから嫉妬されてるんだろ?俺と結婚してしまえば、そいつらと恋愛ごとになるって可能性はゼロになるし、ちゃんと身分を弁えているっていうかパフォーマンスになる。何より日常的な悪意が改善される見込みがあーーー……」
「………けっ、結婚するわ‼︎あの人達にもう絡まれたくないっっっ‼︎」
だが、しかし。
シャロンも悪意に晒される日々に、地味に追い詰められていた訳で。
どうせ離婚する前提ならば、問題ないと思ってしまったのだ。
これを、ストレスにより判断がまともにできなくなっている状況……という。
こうして、打算による結婚が決まったのだった。