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第11話 物騒な話と、協力の話をしました。






「って‼︎じゃなくて‼︎色々と忘れてましたけど、殿下の話ですわ‼︎」



色々と崩壊しかけた頭を戻し、メリルが叫ぶ。

ライヴィスは「あぁ、そうだった。少し防音の魔術を発動させる」と言いながら、魔術を展開し、自分達を半透明の膜で覆う。

そして、話し始めた。


「双子には物騒過ぎるから聞かせられないが……実はこの家、王太子の監視がいるんだよ」

「………………え?」


シャロンはそれを聞いていたからあまり驚かないが(聞いた時はかなり驚いた)……メリルは冷や汗を掻きながら、固まる。


「加えて、シャロンへの接触だろ?なんか裏がありそうじゃないか。だから、学園でも味方を作った方がいいかと思ってな」

「…………………」


シャロンから天敵(王太子)達の対処の話と聞いていたが、どうやらもっと、重い話らしい。

メリルは頭を抱えそうになりながらも……令嬢としてみっともない姿は晒せないと我慢した。


「監視されてて、学園でもシャロンに積極的に接触していて。だが、この国の貴族は選民意識が強いのだろう?そう考えると、王太子が庶民のシャロンに積極的に触れ合う理由が分からない」

「……………シャロンさんが好きだからでは?」


メリルは少し強張った顔で言う。

シャロンは思わず嫌そうな顔をしたが……彼は首を傾けた。


「監視までするほど?流石に好きだからってやり過ぎじゃないか?それに……違う目的も考えられる」

「違う目的……?」

「シャロンの力を利用するため」

「………シャロンさんの魔女としての力を……?」

「用途が分からないけどな」


ふぅ……と息を吐くシャロンとライヴィス。

メリルは……恐る恐る、挙手をした。


「その……まず……魔法使いであるという話の前提で進めていたけれど……貴方は本当に魔法使いなのかしら?」

「…………ん?」

「だって、魔法を見てないわ」


そう言っておきながら、メリルは少し目を輝かせていて。

絶対、幻想種が見たいだけだとシャロン達は悟る。

この顔は、幻想種を見るまで話を進めない顔だと………。


「………あー……ババアに力を制限されてるからあんまり使いたくないんだが……仕方ないか……はぁ……」


ライヴィスは『来い、一角兎』と呟くと、白い光と共に小さな兎を召喚する。

だが、それは普通の兎ではなく……小さなまだ生えたばかりのような角が生えているという、変わった兎だった。


『…………あれ?ライヴィスだ。どしたの?』

「………(やっぱり力が制限されてるから、子供しか呼べないな。)あそこにいる双子を、もふもふで癒してくれるか?勉強を頑張ってるんだ」


一角兎は、勉強している双子の方へ視線を向ける。

そして、こくっと頷いた。


『いいよ』

「ありがとう。対価を」


ライヴィスは魔力を渡し、そのまま一角兎は双子に突撃していく。

ふわふわに突撃されても痛くないからか、双子は楽しげな笑い声をあげた。

どうやら、防音の魔術は外からの声は聞こえるらしい。


「うささん‼︎」

「もふもふ‼︎」

『休憩しよ』

「「うん‼︎」」


シャロンとライヴィスはそれを見ながら、ほっこりする。

だが……メリルはそれを見て、目を見開き……輝かせていた。


「本当の……魔法……幻想種……」

「いや、なんでそんなに興奮してるかが分からない。お前はシャロンの従魔を見ているはずだが?」

「え?」

「フェルも幻想種……というか、フェルは?」

「あぁ。最後の授業くらいから私のフードの中で寝てるわ」


ライヴィスはシャロンの後ろに回り、フードの中を見る。

そこには鼻ちょうちんを作りながら、すよすよ眠るフェルがいて。

彼は若干噴き出しそうになりながら、席に戻った。


「まぁ……うん。フェルは子供だからな。うん」

「そうね。フードの中からすぴょー、すぴょーって聞こえるのよ」

「……………ぷぷっ」


ライヴィスは顔を背けて笑う。

だが、メリルは目を見開いて……フードの中を覗き込んでいた。


「……………………え?シャロンさんの従魔は……幻想種ですの?」

「えぇ。終焉の獣の子供よ」

「ただ、名前は呼ぶなよ。幻想種は名を大事にする。親しくない奴と、幻想種に好かれる体質の奴以外に名前を呼ばれたら……下手すると……」


ライヴィスは首に手をトントンと当てて、メリルを脅す。

彼女はゴクッと喉を鳴らして、頷いた。


「さて……話を戻すか。さっきから何度も言ってるが、どうにもシャロンに纏わりつく奴らがキナ臭い。だから、仲間が必要だ。で……あんたに白羽の矢が立った」

「………わたくしが、一番、シャロンさんを敵視していないから?」

「あぁ、それは勿論だが……王太子に近しい人だったら、王太子の行動を少しは知れるだろう?」

「…………確かに。わたくしが適任ですわね」


ライヴィスはゆっくりと息を吐くと、真剣な顔で二人の顔を見た。


「魔法ギルドにある過去の魔法使い達が綴ってきた歴史書のようなモノを読んだことがあるんだ」

「「……………………え?」」

「その中に、国に利用され……苦しんで。搾取されていた魔法使いがいることを知ったんだ。そいつは……兵器として、利用されたらしい」

「「っっっ‼︎」」

「唯一の救いは、シャロンほど幻想種の相性が多くなかったこと。だから、兵器としての利用は規模が小さかったらしいが……シャロンの場合、もっと酷いことになるかもしれない。今回は偶然、俺とシャロンが出会えたから……よかったけど。きっと出会えてなかったら……その本の奴と、シャロンは同じになっていたかもしれない」


シャロンは息を飲む。

隣にいた……メリルも。


「俺はそんなこと、二度と起きて欲しくない。だから、協力しよう。王太子達が、シャロンに近づいている理由が……ただの恋心だったらいい。だけど、違うならーーー」

「……………協力、致しますわ」

「…………メリル様……」


メリルは息を吐き、凛とした顔でシャロンとライヴィスを見つめる。

そして、しっかりと答えた。


「はっきり言いますわ。サウロ王太子殿下は野心家です」

「「っ‼︎」」

「…………………ずっと、側で見てきていましたから……わたくしには分かります。彼は碌でもないことを、しでかしますわ」


メリルは「だから」と目を閉じる。

そして……目を開き、決意を込めた顔で答えた。



「わたくしは、協力致しますの。未来を、最悪なモノにしないためにーーー」



ライヴィスは小さく「ありがとう」と呟くと、目を閉じる。

シャロンも彼女に頭を下げた。


「ごめんなさい。私のことに……協力してもらって……」

「いいえ、構いませんわ。それに……わたくし、知っていましたのよ」

「…………え?」

「シャロンさんが、殿下達を嫌っていることを」

「えっ⁉︎」


メリルはなんとも言えない顔で笑う。

その顔は、少し……悲しげだった。


「ですが……わたくしは貴族。王太子の婚約者。選民意識が高い学園で、王太子が庶民である貴女を優遇すれば、貴族達は不満がる。わたくしまで貴女を表立って庇う訳にはいきませんでしたの」

「……………ぁ……」

「貴族らしくないと思われますが……貴族以外であろうとも同じ魔術師であるなら、共に学べばいいと思っておりましたの。でも、やはりそれも人前で言うことができなかった……だから、協力するのは貴女への罪滅ぼしでもありますわ」

「…………メリル、様……」

「これからもわたくしは、貴女を庇えません。ですが、情報を集めるくらいなら協力できますわ。それで……許して下さるかしら?」

「…………はい……はい‼︎私がアイツらを嫌いだって理解して下さってるなら、全然オッケーです‼︎」

「……………それ、人前では言わないことですわよ?」

「だからいつも我慢してるわ‼︎」


シャロンとメリルは顔を見合わせて……笑い合う。

確かに、二人の間に絆が芽生えた瞬間だった。


「ひとまず今日はここまでだな。メリル嬢、今日聞いたことも誰にも話さない方がいい。結構、歴史の裏ってのは血で血を洗うような殺伐とした世界なんだ。この国で魔術師が誰でもなれると知られていないのは、理由があるんだからな」


シャロンとメリルはそれを聞いて絶句する。

なんで良い雰囲気風に終えようとしたのに、そんなこと言うのかとーーー。


「いや、知っておかないと危ないだろ?」

「もっと早くに言ってよ‼︎」

「折角、いい感じに終わりそうでしたのよ⁉︎」

「そういういい感じ風に終わると、死人が出るのが小説のセオリーだ」


ライヴィスの明け透けな言葉に、二人は更に絶句した。

こいつ、色々と歪んでいる……と。


「歪んでいるとか思ってそうな顔だな……まぁ、いいか。取り敢えず……メリル嬢を先ほどの部屋に転移させる」

「え、えぇ。分かったわ」

「監視には注意を」

「…………えぇ。失礼するわ」


メリルはそう挨拶をすると転移させられる。

転移を終えたライヴィスは肩を揉みながら溜息を吐いた。


「近くの物を転移させたから、さっきより楽だな」


そう言いながら……彼は真剣な顔で見つめてきて、シャロンは息を飲む。

彼女も……真剣な顔で見つめ返した。


「………本当は、ここを離れた方が楽なんだがな」

「………………どういうこと?」

「利用されそうってんなら、俺の塔に住んだ方が良いってことだ。勿論、双子も一緒に」

「……………っっっ‼︎」


シャロンはそう言われて息を飲む。

彼女の力は巨大だ。

それぞれの魔法使いに得意不得意があるのに、シャロンは別なのだ。



全ての幻想種に愛される。


逆を返せば、全ての魔法が使えるということ。



利用されたら……それこそ何が起きるか分からない。

ライヴィスの言葉に従うのが、本当は正解なのだろう。

彼は博識であるし、魔術だって魔法だって教えられる。

だけど……シャロンは頷けない。

何故なら………。


「…………駄目、よ。だって……お父さんとお母さんが……」


今は出稼ぎに出てしまっているが……この家は、シャロン達家族の家なのだ。

もう内装がかなり変わってしまっているけれど……カビやら雨漏りが酷かったから、全然内装が変わることは喜ばしいのだが……だが、この家は父と母を待つ場所なのだ。

だから、シャロンはいけない。


「……………だよな。まぁ、分かっていたが」

「…………え?」

「俺が色々と内装を変えてしまったが、あんなにボロボロで住み続けていたのは待つ家族がいるからだろう?それが普通の家族の絆だというものだと、聞いた」

「いや、流石にいつ倒れるか分からなかったから内装とか補強してくれたのは助かったけど…………え?」


シャロンは固まる。

まるで、ライヴィスの言葉は……家族というものを知らないようで。

首を傾げてしまう。


「……………どうした?」

「…………いえ……なんでも、ないわ」


シャロンは一瞬抱いた違和感に蓋をして、首を振る。

きっと、気の所為だろうと。



「なら、ご主人様が利用されないように頑張るか」



…………。

………………………。

シャロンは息を吐くと、胡乱な目で彼を見つめた。


「……………ねぇ」

「なんだ?」

「完全に師匠感の方が強いのに、なんで自称ペットを止めないの?」

「………………………引きこもりだし。室内犬みたいなものだろう?」

「……………いや、なんでよっっっ⁉︎どちらかと言えば、室内犬より家政婦寄りよ⁉︎」

「俺は使えるペットってことだな」

「だからなんでっっっ⁉︎」


シャロンがツッコミを入れるが、ライヴィスはキョトンとするだけで。

彼女は自分がおかしいとかと思い始めてしまう。

いや、シャロンは別におかしくないのだが……………相手が悪かった。


「頑張ったら、頭を撫でてくれ。シャロン」

「いや、だからなんでっ⁉︎」




我が道を往く(ゴーイングマイウェイ)で変人な自称ペット(ライヴィス)には、ご主人様(シャロン)も勝てないのだ。






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