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第10話 常識が崩壊しました。





「…………で?話とは?」




学園のサロンの一つを借りて、シャロンとメリルは向き合っていた。

シャロンはごくっと喉を鳴らしつつ、側に控えていた侍女に視線を向けた。


「二人きりに、なれませんか?」

「………………何故?」

「大事な話があるからです」


互いに視線を交えて数秒。

メリルは、侍女達に下がるよう命じた。

侍女達は渋々と言った様子で部屋から退室していく。

それを確認してから、シャロンは頭を下げた。


「ありがとうございます」

「感謝されるようなことではないわ。早く話をして下さる?わたくしと貴女、共にいて悪者にされるのはわたくしなのよ」


シャロンはそう言われてハッとする。

あの天敵は、下手に会話をしていたら……。

シャロンは慌てて、本題に入った。


「貴方の婚約者を初めとした、私の天敵達の対処をご相談したかったからです」

「………………何故、わたくしに?」

「メリル様だけが、さり気なく私を庇って下さっていたからです」


そう……他の人は違ったけれど、彼女は〝彼女を相手にする方が時間の無駄〟と称して、悪口を止めてくれることが多かったのだ。

だから、シャロンは彼女に話すことにしたのだ。

だが、ここで話せない。

シャロンは懐から紙とペンを取り出し、サラサラと文字を書いた。


『どうか驚かずに、声をあげずにお願いします。私は、サウロ王太子に監視されています』

「…………………は?」


シャロンは意味が分からないと言った顔で固まるメリルに、真剣な顔で頷く。

只ならぬ彼女の気配に、メリルは息を飲んだ。


『理由は分かりませんが……私には特別な力があります。なので、その力を求めて私には接触している可能性が高いそうです』


メリルは(特別な力……?)と首を傾げるが、シャロンは文字を書き続けた。


『この学園でも監視されている可能性が高いため……できれば、私の家で話したいのですが。よろしいですか?』

「…………………(こくりっ)」


メリルが頷くと同時に、彼女は立ち上がろうとするが……シャロンはそれを手を繋いで引き止めた。

そして、タグを介して彼に声をかける。


「ライヴィス」

『タグを媒介に位置情報を取得。空間接続、転移経路の固定完了。対象把握。空間転移発動』



パリィンッ‼︎



何かが割れるような音と共に、空間が光り、シャロン達は転移する。

そこはシャロンの家で。

メリルは目を瞬かせて、絶句した。


「ま、まさかっ……転移の魔術⁉︎」

「って、ライヴィス⁉︎大丈夫⁉︎」


シャロンはギョッとしながら、地面に膝をつくライヴィスの元へと駆け寄る。

彼は汗を拭いながら、苦笑した。


「…………あのババア……魔法制限の呪いのだけじゃなく、高位魔術の発動阻害の呪いもかけてやがったらしい……無理やり耐性レジストして、遠くからの転移を発動させたから疲れただけだ。直ぐに治る」

「…………大丈夫なの?」

「あぁ、大丈夫だ」


ライヴィスは大きく息を吐き、メリルに視線を向ける。

彼女は、白皙の美青年であるライヴィスに見つめられて頬を赤くした。


「彼女が王太子の婚約者か」

「………えぇ、メリルよ。貴方は?」

「ライヴィス。シャロンのペットだ」

「……………は?」


それを聞いて固まるメリル。

シャロンは慌てて訂正した。


「ペットじゃなくて、師匠です‼︎」

「師匠より先にペットになったぞ?」

「どうしてそのスタンス崩さないのよっっっ‼︎」


思わずツッコミを入れるシャロンは、頭を抱えてしまう。

だが、そんな彼女の服を引っ張る存在がいた。


「「お姉ちゃん、おかえり‼︎」」


シャロンの優先第一位の双子の弟妹である。

彼女は思考を放り投げて、双子をぎゅうっと抱き締める。


「ただいま。サイファ、キャロル」

「お昼美味しかった?」

「頑張ったのよ」

「美味しかったわ。ご馳走さま」


なんかもう、それだけで今日一日の荒みが癒されるようだった。

好奇心旺盛な双子は、今だに呆然としているメリルを見て首を傾げる。


「あの綺麗なお姉ちゃんは誰?」

「凄い美人さん。お姫様?」

「私のクラスメイトよ。少しお話しするから、二人は待っててくれる?」

「「うん‼︎」」

「なら、今日教えた文字の書き取り練習だな。できるか?」


シャロンは横から、ライヴィスが双子に紙とペンを渡すのを見て目を見開く。

いつの間に双子に文字を教えていたのか。

彼はそんな疑問に答えるように、苦笑した。


「生憎と外には出れないからな。代わりに勉強を教えることにした。…………ちなみに…やろうと思えば古代文字まで教えられるんだが、どの程度教えてやったらいい?」

「いやいやいや、古代文字とか完全に研究者の域よね?ひとまず、一般的なモノを教えてからサイファ達が学びたいと言ったことを教えていくという感じにして」

「分かった。一般教養は基礎だから、教えるぞ」

「えぇ、それは勿論」


双子は「「きゃっふ〜♪」」と楽しそうに笑いながら、これまたいつの間にか用意されていた丸くて小さな子供机に向かって駆け出す。

シャロンはそれを見て、また驚いた。


「………小さな机が増えてるわ…」

「リフートに造らせた。無機物を造らせるには、リフートが一番だから。ちなみに、孫にプレゼントを贈るジジイの如き喜びようだったぞ。多分、これからちょくちょく遊び道具とか贈ってくると思う」

「………完全にお爺ちゃんね……」


なんてほのぼのと会話をしていたら……やっと我に返ったメリルに声をかけられる。

だが、彼女はその綺麗な顔の眉間に皺を寄せて……唸っていた。


「………ちょっと待って下さる……?頭がついていかないんだけど……?」

「言葉に出すと整理がつくぞ」


ライヴィスに言われた通り、メリルは声に出して状況整理を始めた。


「えっと……わたくし達、学園にいたわよね?」

「ライヴィスの魔術で、私の家に転移したわ」

「……………で……ここで貴女達は暮らしている……というか、シャロンさんは子持ちなの?」


シャロンは思わず転けそうになる。

そして、叫んだ。


「いや、冷静に考えて分かるでしょう⁉︎流石に私がこんな大きな子供持ってる訳ないじゃない‼︎」

「…………………彼の連れ子とか……」

「私の弟妹よ⁉︎顔似てるでしょう⁉︎」

「……………はぁ。取り敢えず、最初から説明した方が良いと思う」


そう言われてシャロンは説明を始めた。

行き倒れがいて、双子にお願いされて、助けたら《虚無の魔法使い》ライヴィス・クロノスだった。

重度の引きこもり過ぎて、もう外に出たくないからとペット宣言。

なんだかんだで、ライヴィスがこの家に住むことになって、シャロンも魔女になって、今ここ……という話をしたら、メリルは頭を抱えていた。


「まず第一」

「はい」

「魔法使い?魔術師じゃなくて?彼が?」

「ん?何言ってるんだ?魔法使いだからつて魔術師じゃないとは限らないだろ?」

「え?」

「は?」


ライヴィスとメリルは顔を合わせて固まる。

彼は大きく息を吐いてから……呟いた。


「詳しい説明は後にして。第一ということは、第二があるんだろう」

「はっ……そうですわ‼︎第二に、危機管理能力がなっていませんわ‼︎」

「え?危機管理能力?」

「見ず知らずの男を簡単に家に上げるんじゃありません‼︎犯罪者だったらどうするんですか‼︎」

(ご正論だーーー‼︎)


シャロンとライヴィスは顔を合わせて、そりゃそうだと頷く。


「でも……最初は犯罪者云々だと思ってたけど、直ぐに警戒心がなくなったかもしれないわよね」

「………………まぁ、うん」

「引きこもり、外に出るとパニック発言が衝撃的だったから?それとも双子の面倒を見てくれるって言ったから?よく分からないわ」

「いやいやいや‼︎その程度で信用するのって変ですわよ⁉︎」


メリルはかなり常識人だったらしい。

学園ではかなり孤高の華を気取っていたのに……シャロンは首を傾げた。


「メリル様って親切な方なのね。なんか、凄くまともなこと言ってるわ」

「いや、普通ですわよ⁉︎この程度で親切言われても困りますわよ⁉︎」

「よし。じゃあ、講義を始めようか。魔法使いと魔術師の違いはシャロンには教えたが……うん。勉学はおさらいが大事だと何かの本で読んだし。もう一度、説明するか」


ライヴィスはそう言うと、二人に席に座るように指示する。

素直に座った二人を見て、彼は講義を始めた。


「では、本日のテーマは『魔術師と魔法使いの違い』だな。一応、教え済みだからそこから応用編に進もう」

「はい」

「えぇ」


ライヴィスはそこから説明を始める。

魔術師は、自身の魔力で陣を構築し、それにさらに魔力を通すことで魔術が発動させる。

魔法使いは、異なる世界、幻想種を認識して力ある言葉で願いを告げ、対価に魔力を捧げることで魔法を発動させる。


「簡単に言えば魔術も魔法も同じ超常現象を起こすんだが、過程が違う。魔力消費量が一定で威力が低いのが魔術。同じ魔法を発動しても、魔力消費量がランダムで威力が高いのが魔法だな。ちなみに、魔法使い、魔女と言った名称は幻想種を魔法が使える者を示す言葉であるが、だからって魔術が使えないってことにはならない。というか……魔術は元々、魔法を模倣したものでもあると言われているから、下手したら魔法を間近で見ている魔法使いの方が魔術が得意ってパターンもある。ここまでで分からないことは?」

「ないわ」

「わ、わたくしの常識が……魔法使いは、魔術が使えないって……教わったのに……」

「ちなみに、名高い魔術師達は魔法使いを嫌っている。そりゃそうだよな。魔術は魔法の模倣……なんて言われたら、自分の今までの頑張りが‼︎ってなるな」


愕然とするメリルは、動揺を隠せていない。

小さい頃から、家庭教師に魔術師がどんな素晴らしいか。

いかに歴史を重ね、その叡智を気づいてきたか。

魔法使いという存在がどんなに曖昧かを習ってきたが……。

だが、今まで習ってきたどんな教師よりもライヴィスの講義は分かりやすかった。


「まぁ、魔法使いは素質がある奴しかなれないが……魔術師は誰でもなれるからな。自分達の歴史が、たかが威力が高い程度の魔法に負ける訳にはいかないとでも思ってるんじゃないか?」

「「…………………ん?」」

「ん?なんだ?」

「魔術師って……誰でもなれるの?」

「貴族だけじゃなくて?」

「………いや、魔力は全員あるんだぞ?なれないはずがないだろ」

「「えぇっ⁉︎」」


シャロンとメリルはガタンッ‼︎と立ち上がる。

ライヴィスは「うわっ」と若干、引いた。


「えっ⁉︎嘘っ⁉︎だって、魔術師は貴族だけって……‼︎」

「……………シャロンだって、魔術師の学園に通ってるじゃないか」

「私が特例なだけなの‼︎」

「うん?つまり……この国の奴等は、殆ど〝開放〟してないのか?」

「「〝開放〟?」」

「他者の魔力を自身に流してもらうことで、自分の中で眠っていた魔力を目覚めさせてもらうんだよ。魔力の放出口を作ってもらうとも言える。だから、開放」

「…………あっ‼︎《成人の儀》ですわね⁉︎」


どうやらメリルは心当たりがあるらしい。

この国の成人……十五歳になると、《成人の儀》を行い、魔術を使えるようになるんだとか。


「十五歳?随分遅いな……開放なんざ、小さい頃からいくらでもできるのに」

「えぇっ⁉︎じゃあ、私は⁉︎」

「小さい頃に誰かに開放してもらったか、自力で開放できる人もいる。まぁ、どっちかだろ」



シャロンとメリルは互いに顔を見合わせて……。




今まで習ってきた常識がボロボロと崩壊していく気がした。






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