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第9話 彼女も闇抱えてました。


ハイファンタジー小説、不定期で始めましたw

書きたくて書いてるので、興味がある人はよろしくね‼︎







居心地が悪い。




シャロンはそう思いながら、一人、席についていた。

朝の騒動。

従魔が主人を守るものだと、皆が知っているから……シャロンに、フェルに非がないことは理解している。

しかし、それでもサウロは王太子。

王太子に対して、貧乏人の従魔が噛み付くなど……と、生徒であり貴族である彼らはシャロンへの敵意を更に募らせていた。




「まともに従魔の躾もできないなんて……貧乏人は高が知れているわよねぇ」

「そうね」

(陰口のつもりなんでしょうけど、普通に聞こえてるわよ)


シャロンは溜息を吐きながら、頬杖をつく。

すると……フェルが膝の上に登ってきて、しょぼんっとした顔で聞いた。


『シャロ。僕の所為で迷惑しちゃった?』

「………………どうして?」

『悪意、いっぱいだ』

(あぁ……フェルは悪意が分かるんだったわね)


きっと、周りの視線や悪意のことを言っているのだろう。

シャロンは凹むフェルの頭を撫でて、微笑む。

その身体を持ち上げた、その小さな鼻にキスをした。


「もう……フェルは悪くないでしょう?主人を守ろうとするのが従魔なのよ?怪我だってさせてないし……凹む必要なんてないわ」

『…………そう?』

「そうよ。それに、フェルに守ってもらえて嬉しかったわ。ありがとう」

『………‼︎うんっ‼︎』


尻尾をふりふりと振りながら、満面の笑顔を浮かべるフェル。

シャロンはそんな可愛い仔犬……仔狼に頬を緩めた。




シャロンは、授業が始まるまで……フェルと戯れていた。






*****






「ふふふっ……あははははははっ……」



ゆらり、ゆらり。

シャロンは幽鬼のような足取りで、中庭に向かう。

足元では心配そうな顔をするフェルがついて来ていたが……ちょっとシャロンがヤバすぎて声をかけられなかった。


「あはははははは」


シャロンは壊れたように笑う。

目は据わってしまっているし。

フェルは真顔でスンッと理解する。


『(これはヤバイヤツだ)……えっと……』


中庭の隅。

シャロンはそこに座り、虚ろな顔で空を見上げる。

そんな時、タグから声が聞こえた。


『おーい。なんか、フェルから連絡が来たんだが……どうした?』

「……………ライ、ヴィス……?」

『ん?』

「………あぁ……伝達魔法……」

『大丈夫か?』


ライヴィスの変わらない声に、シャロンは泣きそうになる。

そして……叫んだ。



「大丈夫な訳ないでしょぉっ⁉︎あのクソ野郎どもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっっっ‼︎」



『うわぉ、ハウリング』


どうやらシャロンの叫びに、ハウリング(キィィィィンってなるヤツ)が起きたらしい。

ライヴィスの声は呆れた様子だった。


『なんだ。悪口でも言われたのか?』

「悪口?悪口なら軽い方よ。嫌味を言われるのも、昨日休んだことをチクチク言われるのも良いわ。でも、あのクソ野郎ども……全員揃って私のことを食事に誘いやがったのよ」

『…………いや、詳しい話を聞いてないからあのクソ野郎どもと言われても反応の仕様がないからな?』

「あ、そうね」


シャロンはハッと我に返り、ライヴィスに説明し始めた。



シャロンは成績優秀者であるため、Sクラスに所属している。

Sクラスともなると、そこにいるのは身分が高い人ばかりで……レベルが高い。

そうなると、サウロ王太子を始めとするシャロンの天敵達も同じクラスになるのだ。

そんな天敵達は、今日。

食事に誘ってきた。

ナンパのような感じで。



………自分達の婚約者を差し置いてっっっ‼︎



「貧乏人で庶民の私でも分かるのよ。婚約者を蔑ろにして、他の女性に現を抜かすのはいけないことだって。今までだって、昼は私じゃなくて婚約者達と食事を取ってたのよ?なのに、急に私を誘ったらどうなるかなんて分かるじゃない?クソよ、クソ‼︎」

『…………はぁ……取り敢えず、女の子だからクソと言うのは止めておけ』

「分かる⁉︎私、何も言ってないのに‼︎向こうが勝手に誘ってきて‼︎でもそれを見た婚約者の内の一人が泣き出しちゃって‼︎私が悪い訳じゃないのに、こっちが悪者扱い‼︎ふざけんなっっっ‼︎」


ライヴィスは(かなーり鬱憤が溜まっているのだろうなぁ……)と思わずにいられない。


声だけなのに、闇が凄い。


鬱々感が凄い。


怒気が凄い。


まさかの、シャロンも闇抱えてる系だったらしい。


『…………で?結局どうしたんだ?』

「教室が二階だから、窓から飛び降りて逃げたわ」

『…………お、おぉ……なんか凄いな』

「…………………はぁ……」


シャロンはもう涙ちょろちょろで(うずくま)る。

ライヴィスは少し黙ってから『あぁ、そうだ』と呟いた。


「え?」


ライヴィスの声とシャロンの声が重なると同時に、彼女の目の前に魔法陣が構築される。

そして、そこから……何かの包みと水筒が現れた。


「うわっ⁉︎何⁉︎」

『お届け物だ。中を見てみろ』

「え?」


シャロンは言われた通りに包み開く。

すると……そこには小さな箱と、メッセージカードが一枚。

カードを開くと……そこには、拙い文字で〝お姉ちゃん、頑張れ〟〝美味しく食べてね〟の文字。

慌てて箱を開くと、そこには色とりどりのサンドウィッチとポテトサラダ。

シャロンはそれを見て目を見開いた。


「これ……」

『俺も手伝いはしたが、殆どサイファとキャロルが頑張って作ったんだ。シャロンのために何かしたいってな』

「サイファと……キャロルが……」

『あぁ。だから、闇は取り敢えずしまって美味しく食べろ』

「………………うん。頂きます」


シャロンは鶏肉の挟まれたサンドウィッチを取り出し、パクリっと口に含む。

もぐもぐと咀嚼して数秒。

そして………。



「かっっっらっっっっ‼︎」



叫んだ。



『うぉっ。またハウリング……これらちょっと調節しないとダメか?』


ライヴィスはそんなことを言っているが、シャロンは聞いている暇がない。

水筒を慌てて開けて、ゴクゴクと飲む。

暫くして……シャロンは咳き込みながら、涙の滲んだ目尻を拭った。


「辛かったんだけどっっっ⁉︎」

『……………あぁ……もしかして、サイファが塗ったマスタードソースか?量が多かったのか』

「冷静な判断ありがとう‼︎というか、双子に食べさせてないでしょうね⁉︎」

『双子の分は俺が作った。安心しろ』

「なら、良いわ」


シャロンはもう一度水筒に口をつける。

本当にヤバかった。

鼻をツーーーンッと抜ける、あの辛味が凄かった。


『まぁ……でも。サウロ王太子が庶民であるシャロンに接触してくるのは、変じゃないか?この国は選民意識が強いよな?』

「そうなのよね……ずっとそれが謎で」

『……………………』


ライヴィスが黙り込み、シャロンは首を傾げる。

暫くして……彼は唐突に質問してきた。


『…………天敵達の婚約者の中で、毒にも薬にもならなそうな人、あるいは味方になりそうな人はいるか?』

「……………………え?」

『王太子達がシャロンに纏わり付いているのは、シャロンの力に気づいている可能性がある』

「……………………………は?」


シャロンは頬を引攣(ひきつ)らせる。

そして、ふるふると頭を振って応えた。


「待って?私の力を知ったのって昨日よ?なのに、殿下達はそれより先に知ってたってこと?」

『……………否定はできない。魔法の力があるくらいだ、不思議な力があって……気づいた可能性だってある』

「………………」

『だから、味方は多い方がいい』


シャロンは思い出す。

天敵達の婚約者。

同じクラスの貴族令嬢四人。

ペルサの婚約者には、完全に敵視されていて。

マーチの婚約者は、今日号泣した人。

マリオンは、完全に興味がない様子で。

サウロの婚約者は…………。


「殿下の婚約者の方なら……もしかしたら」

『なら、直ぐに接触した方がいい。あれだったら……』


ライヴィスは、サウロの婚約者への接触理由を一緒に考えてくれる。




そして……午後も色々あって、放課後ーーー。





シャロンは深い紫の髪の令嬢の前に立った。



「メリル・トラバス公爵令嬢様。少し、お時間よろしいでしょうか?」



赤い瞳が大きく見開かれる。



これが……後に親友になる二人の初めての会話だった。






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