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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
フィンチ伯爵領
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サンセットビーチの怪異

 理一達は、フィンチ領にあるサンセットビーチに来ていた。

 理一も菊達から話を聞いて、これは遊んでいる場合ではないと思った。


 だが、海で遊ぶ予定がパーになる気配を察したおつるが、涙目で「海行けないの?」と安吾に泣き縋り、涙目の幼女という破壊力に勝てなかった安吾が理一に嘆願してきた。

 それで、おつるや織姫達も可哀想ということになり、今日は遊びがてら調査もしようということになったのだ。


 この件は織姫とアマンダには伝えていない。エリザベスには黙っていると後が怖いので話した。

 また心配をかけるかと思ったが、エリザベスは「我が領民を害する者は許せませんわ! わたくしも戦いますわ!」とノリノリだった。


 そういえばエリザベスは、初対面で理一に対戦を申し込むほど好戦的な女の子だった。普段が貴族然としているので忘れていた。

 それにエリザベスは防御魔法学を選択している貴族なのだ。この学科を選択している時点で、貴族の中でもかなり意識の高い方だ。


 今度は理一がエリザベスを心配することになったが、本人によると心配無用とのこと。理一達が訓練をしている間、エリザベスとアマンダと織姫は、三人で色々と訓練をしていたそうだ。

 なんの訓練をしていたのか尋ねると、エリザベスはスッと視線を外した。怪しい。理一が覗き込む。


「ベス?」

「……織姫様に、セーファ大迷宮に連れて行って頂いてたのよ」


 理一の顔から、さーっと血の気が引いて行った。


「三人だけで!? 危ないじゃないか!」

「でも、織姫様がいらっしゃったし、大丈夫だったわ」

「そりゃぁ彼女がいれば百人力だけど、君も大概無茶をするね」

「リヒトにだけは言われたくありませんわ!」


 結局この点では似た者同士だったようで、色々言い合いをしながらも最後は互いに笑ってしまった。

 なんやかんやでエリザベスもパワーアップしたとのことだったので、彼女もやる気だし、そのやる気を削ぐのも憚られたので、理一はそれ以上言わなかった。



 そんなこんなで海にやってきて、現在男子三人は居た堪れない気分になっている。というのも、水着に着替えて出てきた園生を見て、ついうっかり釘付けになってしまい、女子達全員から怒られたからである。

 流石に見かねたのか、織姫が「園生は同性の私でも、つい見てしまうわ」とフォローを入れてくれたので、多少なかったことにしてくれた。


 しかし、これは目のやり場に困る。


 女子達は上はビキニで下はパレオになっていて、それなりに肌を隠している。ビキニトップはそれぞれテイストが違っていて、パレオも全員色違い。

 織姫などはフリルでがっつり胸を隠しているのに、園生は三角ビキニで、しかも若干小さい。たたでさえ大きな胸が零れてしまいそうだ。


「おつる? 話が違うんだけど?」

「おつるのせいじゃないの! 前に測った時より、ソノウねーちゃんが成長してたの!」

「あぁ……そう」


 そういうおつるは、ヒラヒラフリルをふんだんに使った、ワンピースタイプの水着を着ていた。おつるは素直に可愛いと思える。オトナ女子達も可愛いのだが、褒めても褒めなくても怒られそうなので、あえてコメントはしない。


 理一達はなるべく女子達の首から下を見ないように心がけることにした。



 織姫達には事情を話していないので、理一とエリザベスと鉄舟、菊とフレッサと園生で二手に別れて、周囲を散歩するという名目で調査することにした。

 おつるが海で遊びたがっているので、保護者の安吾はお留守番だ。安吾と織姫がいれば、おるつとアマンダは大丈夫だろう。



 鉄舟とエリザベスと三人で海岸を歩く。サンダルの足裏に砂の感触がして、反射した太陽光がジリジリと肌を焼く。


 エリザベスを見ると、つばの広い麦わら帽子をかぶっていた。黒のチューブトップビキニの上から、緩く淡い紫色をした透け感のある布で豊かな胸を覆って、胸の前で交差している。

 黒いビキニの下は、淡い紫色の透け感のあるパレオを羽織って、腰に巻かれた金の装飾がシャリシャリと擦れて揺れ動く。歩くたびにスリットから小麦色の肌が見え隠れするのがヘルシーで色っぽい。

 太陽光を反射した金髪が、潮風に揺れながらキラキラと輝いている。つくづく彼女は綺麗だと思う。


 理一の視線に気づいたのか、エリザベスがこちらを向いた。


「なに?」

「いや、君が綺麗だから見惚れていたんだ」

「なっ、何言ってるのよ!」

「あはは、照れてる」

「照れてなんかいないわ!」


 キャッキャと言い合いをする理一とエリザベスの仲を見せつけられていた鉄舟は、「俺も彼女欲しい」とか思いながら遠くを見ていた。


 鉄舟は割とモテる方なのだが、妙なトラブルにならないように、普段からプロのお姉さんしか相手にしていない。美人なだけの女性なら、レンタルで十分。

 あちこち渡り歩くのが確定事項なので、ステディな相手を作るのは無駄だと思っていたのだが、理一は上手くやったものである。



 三者三様の顔をしながら海岸を歩いていると、海岸線が切れて岩場になってきた。磯は歩きにくいので、理一がエリザベスの手を取って歩みを助ける。


「理一、どうだ?」

「ここからもうしばらく行ったところに、魔法を使った痕跡があるね。この辺りには村はなかったと思うけど」

「ええ。この先は断崖になっているし、崖の上は森になっているから村はないわ」

「人気のないところで魔法を使うたぁ、怪しさ満点だな」

「そうだね、行ってみよう」



 その頃海岸では、おつる達が夢中で貝を拾っていた。アマンダは何故か貝拾いの才能があるらしく、次々に綺麗な貝殻を発掘している。

 だがおつるは中々発見できないので、ムキになって砂浜を歩き回っていた。


「おつるちゃーん! あんまり遠くに行っちゃだめだよ!」

「わかってるのー!」


 織姫が声をかけるが、おつるは夢中になっていて結構距離も離れている。安吾は今しがたトイレに行ってしまって、まだ戻っていない。

 困ったアマンダと織姫が顔を見合わせて、アマンダがおつるについて行こうとその方向を見た時だった。


 おつるの前に黒い人影が立っている。とっさに織姫が駆け出して、自分の血で作った剣を手から引き抜いた。


 いきなり影がさしたので、おつるも顔を上げた。その人物は白い肌をしていて、この暑い中黒いローブを羽織っている。


「おつるちゃん!」


 織姫の声で振り向いたが、その視界は黒いローブに遮られた。そして、おつるが声を発する間も無く、黒いローブの中に抱き込まれたおつるごと、その黒い人影は姿を消した。


 間一髪間に合わず、織姫の剣が空を切った。織姫が周囲を観察するが、現地の家族連れや旅行者以外には黒い人影は見当たらない。

 息を荒げたアマンダも追いついた。


「はぁ、はぁ、織姫様」

「どうしよう! 安吾くんになんて謝ればいいの!」


 うっかり素を出した織姫にアマンダは少し驚いた様子だったが、すぐに気を取り直した。


「とにかく今はサクラダ卿を探して報告しましょう!」

「ええ」


 そうして二人が話している間に安吾も戻ってきて、おつるが拐われたと聞いて、安吾は顔色を青くした後に、魔術師の件を思い出して激怒した。


「俺のおつるを……殺してやる」


 普段物静かな安吾が、これほどに激怒しているのを見るのは初めてだった。安吾から放たれる殺意を浴びて、アマンダは眩暈がした。


 ふらついているアマンダを織姫が見ているというので、安吾はすぐに走り出した。どこに向かうべきかはわからないが、とにかく理一達にも知らせて、協力してもらったほうがいい。


 早くしないと、おつるまで犠牲になってしまう。


 おつるは安吾からもらったご飯を、いつも美味しそうに食べていた。

 安吾を笑わせようとして、変なダンスを踊ってくれたりした。

 いつも安吾にくっついて、学校以外では一緒だった。

 時々ワガママを言う事もあるが、甘えん坊で可愛かった。

 自分に向けられる無邪気な笑顔が、たまらなく愛しかった。


 小さくて可愛らしくて、とても大切なおつる。

 そのおつるを。


 安吾の心の中を、強烈な怒りが支配した。その怒りは禁忌に触れて、ついに憤怒が上限に達する。

 安吾も気づかぬうちに獲得した古代魔法、「災厄の獣」。その効果で、爆発的に身体能力が上昇した。


 怒りに任せて一層加速して、安吾は理一の魔力を辿って走った。

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