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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
魔術公国トゥーラン
82/115

定期報告は時間厳守で

アウトランダーズ〜異世界でチート転生できると聞いて〜

黒犬旅団の異世界旅行記


にタイトルを変更しました。


アウトランダーズで検索してみたら、同名の漫画作品が出てきてびっくりしました。

アウトランダーでもドラマ作品が出てきたので、更にびっくりしました。

なので慌ててタイトルを変えました。


このくらいの事は事前に調べておけよというお言葉は、全く仰るとおりでございます。本当にすみません。

読者様には突然のタイトル変更にご迷惑をお掛け致します。

 鍵を開けて寮のドアを開けると、ドアの内側から明かりが漏れてきた。

 既に人がいるようで、理一は焦ってドアを開け放った。


 案の定、理一のデスクの椅子には、スーツを着た金髪の青年が腰掛けて本を読んでいた。

 ドアが開いたのに気づいて、本を閉じて理一に営業スマイルを向けてくるのに、理一は冷や汗が流れた。


「理一さん、あぁ、騎士爵でしたね。まだ慣れず失礼を。理一卿、お疲れ様です」

「おっ、お疲れ様です、太政大臣閣下。お待たせしてしまい、申し訳ありません」

「私を待たせている間、エリザベス=フィンチ嬢とのデートを楽しんでいる様子でしたので、今回は大目に見て差し上げますよ」


 なんで知ってるんだとか、また不法侵入されたとか、本当に何でもありだなこの人はとか、色々言いたいことはあるが、太政大臣の営業スマイルは、笑みが深くなればなるほど怖いので、ここは飲み込むところだ。


「ありがとうございます」

「ですが私も多忙な身ですので、遅刻は今回限りです」

「はい、申し訳ありません」


 素直に謝罪した理一に、太政大臣もそれ以上は何も言わず、報告を促した。

 毎日夕刻の日暮れの時間は、太政大臣への定期報告タイムである。毎日わざわざ太政大臣が空間転移を使って報告を聞きにくる。


 こういうのは普通下っ端の仕事だと思うが、わざわざ太政大臣が報告を聞きにくる理由を知っている。

 理一の報告会が終わった後、太政大臣と織姫はこっそり密会しているからである。

 国王は引き離したつもりになっているかもしれないが、国王の目がない分、二人は夜のデートを楽しんだりしている。

 太政大臣は本人も言った通り多忙で有るし、このデート時間を削られたくないので、遅刻厳禁なわけである。


 太政大臣と織姫のデート時間を削らないように、理一は要点を纏めて報告し、必要に応じて質問に答えるというのが、最近定着してきた報告形式だ。


 理一からの報告を聞いた太政大臣は、営業スマイルを崩しはしなかったが、小さくため息をついた。


「全く、織姫様はどこに行ってもストーカーを作るので困りますね」

「これが初めてではないのですか?」

「数えるのも馬鹿らしいほど、織姫様に入れ上げる人は多いんですよ。この点に関してはマニュアルもあるので問題ありません」


 ストーカー対策マニュアルまで用意されているとは余程である。思いついて検索してみると、ミレニウ・レガテュール法典の中に「ストーカー規制法」が制定されていた。流石は国王、既に法制度が整っている。


 だが、愛する婚約者の尻を追いかけ回す相手を、太政大臣が簡単に許せるはずもないようで、「暗殺できれば、それが一番楽なのですが」と言っていた。

 心中お察しするが、それはやめてほしい。

 冗談で言ったそうだが、本当に冗談だろうか。ずっと営業スマイルなので本音が読めない。太政大臣のこういう所は本当に怖い。


 ちなみに後日談として、この話が国王に行った時、国王はマシュー王子が第一王子でさえなければ暗殺していたのにと悔しがっていたそうだ。

 自分で定めた法律をガン無視して法を犯そうとするあたり、やはり国王はブッ飛んでいる。


 ちなみに理一達は織姫の魅了が効かなくなるお守りを持たされている。王宮に来る国賓や、働いている文官や武官などにも配られているものだ。王宮に入るときに配られて、出るときに回収される。


 妻に操を立てているのを裏切りたくないとか、こんなトラブルで取引をご破算にしたくないとマトモな人間なら思うので、ちゃんと魅了対策はあるのだ。

 お陰で理一達は平常心で織姫のそばに居られるので、安心である。


 学院でも配給できればいいのかもしれないが、魅了の効果を無効化するお守りがおいそれと外に漏れるのもよくないので、学院では配られていない。

 魔法学院なだけあって、教員達は自作のお守りを持っているそうだ。その効果には個人差があるようで、織姫をついつい贔屓してしまう教員もいる。

 場合によっては織姫の魅了も使えると国王は踏んでいるようだ。今回はトラブルの種になったようだが。




 ストーカーについては任せておいて、多分大丈夫だ。多分。

 気分を切り替えて、理一はもう一つ報告をした。


 今は亡国となった、クリンダ王国の王子であるライオネル王子のことだ。

 ライオネル王子は半年ほど前からこの学院に在籍していた。ちょうどクリンダ王国が宣戦布告してきたくらいの時期だ。


 なぜそんな大事な時期に王子を国外に出したのかというと、ほとんど追放に近い形で宰相に追い出されたそうだ。

 原因は国王の不興を買ったということらしいが、詳細はわからない。


 結果としてライオネル王子は処刑されずに済んだので、追放されてよかったのかもしれない。


 だが、宣戦布告や王子の追放など、同時多発的に大きな出来事が起きたのだから、その背景にはなにか不穏な動きがあったと考えられる。


 その背景として噂に登っているのが、クリンダ王国内で高位貴族達が信仰していたらしいという、新興宗教だ。

 その宗教の教義は、魔術を極めることこそが人として高位に至る唯一の手段であり、真に魔法を極めたものは、神に至るとしている。そしてこの世界に現存する他の宗教を全て否定し、現状神はいないと断定している。


「その宗教の名は……」

「創神魔術学会、ですね」


 太政大臣は既に知っていたようで、知っていたのなら教えてくれてもよかったのにと、理一は心の中でブツクサと文句を呟いた。


「アタックス元侯爵が、その宗教の名を口にしていました。魔術を極めれば不老不死がどうのこうの、怪しいものですよ。宣戦布告してきたのも、不老不死である私達や、長命な国民に対する嫉妬もあったようです。そして魔力量の多い我が国民を生贄にして、自分たちが不老不死になろうとした。権力者の考える事というのは、世界や時代が違っても変わらないものです」

「そんなことのために戦争を……人の生には終わりがあるからこそ美しいのに」

「同意です。元から不老不死であれば話は別ですが、人は百年以上生きられる精神構造は持ち合わせていないと私は考えます。それに耐えられるような精神性を持つ人間は、そもそも宗教などに縋ったりしない。私やあなたがそうであるように」

「はい」


 あの国の重鎮達が不老不死に縋ったりしたのも、単純に老い先が見えて怖くなったとか、ずっと高い権力を有していたいとか、たくさんお金集めをしたいだとか、どうせそう言った理由だ。

 魔術研究所所長のように、魔術を極めるために延命するような、本物の魔術オタクはごく僅かだろう。


 ふと、理一は太政大臣が、吸血鬼になった元人間だということを思い出した。彼はなぜ吸血鬼になったのだろうか。


「私は元から不老不死でしたが、ある時能力を消されて死にかけたことがありまして。私が死んだら、織姫様や子ども達を悲しませてしまいますから。また同じ事が起きても殺されないように、予防的手段として吸血鬼化しました」

「子ども達? お子さんがいらっしゃるのですか?」

「養子ですよ。以前は孤児院の院長をしていましたので」

「そうだったんですか」


 太政大臣は家族のために、死ぬわけにいかなかったのだ。元から不老不死だったのならば、若い頃など相当無茶をしたのだろう。殺されそうになるくらいだから、きっとそうだ。


 しかも今は国を背負うナンバーツーだ。尚更死んでもらっては困る。もし太政大臣がいなくなれば、この国は途端に混乱するだろうと以前織姫が言っていた。



 その一方で、クリンダ王国は不老不死を望んだばかりに国が滅亡してしまった。高望みは良くない。

 人に余計な高望みを抱かせる創神魔術学会は、クリンダ王国のみならず、他の国でもその触手を伸ばしている可能性がある。


 人に不老不死の夢を抱かせ、魔術を極めさせて、一体何をしたいのか、今のところは目的が見えない。


 だが、王侯貴族の子女などが若さゆえに与し易いと狙われる可能性もある。多くの子女が集うこの学院にも、創神魔術学会の影が潜んでいるかもしれない。


「学院内に不穏な動きがないか、注意しておきます」

「お願いします。おっと、大分時間を使いましたね」


 窓の外を見ると、とっぷりと日が暮れていた。デートを楽しみにしている太政大臣の時間をかなり使ってしまったので、理一はちょっと焦ってしまった。


「すみません。織姫様がお待ちですよね」

「彼女は気が長いので、少しくらいなら大丈夫でしょう。よろしければ今度ダブルデートでもしましょうか。織姫様が喜びそうですし」

「えっ、いや……私は別にデートなど……」

「そう恥ずかしがらずとも良いのに。ではお疲れ様でした」

「はぁ、お疲れ様でした」


 黒い霧と共に姿を消した太政大臣の言葉に、デートじゃないんだけどなぁと理一は後ろ頭をかこうとして、未だに髪を結んだままだったことを思い出した。


 髪が邪魔にならなくて楽だったし、鏡を見てみると侍の総髪のようでイケてる気もする。明日からこの髪型にしよう。


その流れで自然に市でのエリザベスの様子を思い出して、つい思い出し笑いをした。


(今日は楽しかったな。本気で嫌われてなかったら、またベスを誘ってみよう)


 太政大臣の提案したダブルデートも悪くないかもと考え直しながら、理一は髪紐を解いて、浴室に入った。

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