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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
魔術公国トゥーラン
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魔法剣士学での模擬戦

 休みが明けて学院の授業が始まった。


 学院の授業は選択式で、任意の学科に希望して受講することができる。

 とはいえ、理一達は織姫の護衛兼ご学友なので、その辺りの自由はない。織姫の選択したクラスに共に足を運ぶ。

 織姫が選択したのは、魔法剣士学と防御魔法学だ。学院の学生の頃割合は、七対三で平民が多いが、防御魔法学は同率くらいだった。

 織姫もそうだが他の貴族も、自分の身も領地も自分で守れるようになりたいという思いがあるのだろう。


 女子の制服は、ボレロタイプのジャケットにワンピースだった。淡い紫色の制服を着た織姫も、黒い制服を着た菊と園生も、とても可愛らしい。


 そして織姫がクラスに姿を現すと、途端にどよめきが起こった。気持ちはわかる。

 人間のみが入学できる学校だったせいで、男子も女子も織姫の美貌と魅了にまんまと引っかかり、織姫は登校1日目には学院のアイドルになり上がった。



 早速織姫にアプローチしようとする不遜な貴族子息が現れだしたので、初日から理一達は護衛の仕事に当たることになってしまった。


「織姫様、学生はまだ若いため、分別のつかない人もいるでしょう」

「うん、誤解を招くような行動は控えろってことだよね。お父様にも言われたし、わかってるよ」

「出すぎたことを申しました」

「ううん、いいの。心配してくれたんだよね、ありがと」


 菊の忠告に織姫はそう返した。織姫が物分かりがいいのが救いだ。

 織姫は見た目こそ理一達と同じく十五歳くらいだが、理一達より歳上なのだ。この辺は一応信頼している。



 案の定クラスにはライオネル王子もいて、理一は睨まれるかと思っていたが、初日に限ってはそんなことはなかった。

 ライオネル王子も例に漏れず、織姫に釘付けになっていたからだ。


 なるほど、と理一は思う。

 国王は織姫の美貌を武器に使う気なのだ。加えて織姫は性格も美人である。身も心も綺麗な人に親切にされたら、誰だってほだされてしまうだろう。このあたり国王はさすがである。




 ライオネル王子はどうやら少し前からこの学院に来ていたようだが、理一達は今期からのスタートだ。なので、魔法剣士学の授業の初めに自己紹介を兼ねて、入学前の検査の結果を先生が報告した。


「織姫=ソドゥクルス=ドラクレスティ王女殿下の魔術適性は闇魔法で、魔力量は非常に膨大。吸血鬼なので種族特性の能力もあるようだが、しっかりと魔術を学んでほしい。

 アンゴ=サクラダ卿は魔術適性はないが、魔力量は多い方だ。魔力操作にも長けているようだ。他の学部では苦労するかもしれないが、魔法剣士学では君の才能を発揮できる可能性がある。努力したまえ。

 キク=ニノミヤ卿は、魔術適性は光と風。魔力量も大きく、身体能力も高い。君はどの分野でも活躍できる、非常に高いポテンシャルを有している。

 ソノウ=ヨツヤ卿は、魔術適性は水と木。エルフ族の種族特性である木属性を有する、非常に珍しいタイプだ。加えて、バンダースナッチの契約者でもある。魔力操作と魔力量の増加を行えば、君は歴史に名を残すだろう。

 テッシュー=ミツクラ卿は、魔術適性は火と土。保有する魔力量も多く、魔力操作の資質は随一と言っていいほどに緻密だ。君はその才能に気づいていないようだが、魔力操作は努力だけでなくセンスも必要だ。研鑽を積めば、君のその才能はさらに花開く。

 そしてリヒト=トキノミヤ卿。魔術適性は全属性の虹の魔力。私の教師人生で、これほど膨大な魔力を有している学生を見たことはない。現存する魔法のほとんどを修めているばかりか、私の知らない魔法まで習得している。正直私は、君がここにいるのが不思議だ。私の方が君に魔法を教わりたいくらいだ。さすがは、かの有名なSランク冒険者のリーダーというだけはある。数々の死線をくぐり抜けてきたからこそ、今の君があるのだろう。君たちをこの学院は歓迎する」


 小さな声でざわめきながらも、学生達は拍手を送る。それを理一は見渡して、拍手喝采する平民や、胡乱げにした貴族を目にする。態度に出てしまうあたりは、やはり子どもだと理一は心の中で苦笑した。



 一人の学生が挙手をした。それに教師が発言を許す。


「説明のみでは彼らの能力が図りかねます。試合を希望します」

「たしかにそうかもしれないが……」


 相手は青い制服、つまり侯爵家の子息の提案だ。少し困った様子の教員がこちらを向いたのに対して、「構いませんわ」と答えたのは織姫だった。


「試合の相手にご希望はありまして?」

「トキノミヤ卿と一戦所望したく」

「よろしくてよ。理一」

「はい」


 王女バージョンの織姫の言葉に、理一は素直に前に出た。

 教師の案内で、魔法剣士学練習場へと移動する。そこには結界が張られていて、結界が致命傷を負うと判断すると、即座に外に押し出される仕組みになっていた。

 貴族の子女もいるので、死なせては不味いという配慮だろう。結界の外には治癒魔法師と思われる人間が二人待機していた。


 理一は魔法剣の修練をしたことがほとんどなかったので、正直な話不安だらけだった。負けて織姫の顔に泥を塗るわけにはいかない。

 だが、理一に渡されたのは練習用の木剣。これはどうにかこうにかやるしかない。


 相手はグレゴリー=バージェス。ある国の騎士団長の息子らしい。十分すぎるほど剣に覚えのある対戦相手に、理一は早々に帰宅願望に駆られたが、泥を塗るなと言った時の国王の顔を思い出して、木剣を握りなおした。


 グレゴリーは闘志のこもった視線で理一を睨む。これは魔法剣士学の授業の一環なので、普通の魔法を使うのはルール違反。魔法剣術と身体能力のみでの戦い。

 これははっきり言って、理一には相当分が悪い。



 念には念を入れて、魔力操作で身体強化を重ねがけする理一の魔力の層が見えているのか、グレゴリーもまた身体強化で身体を包んでいく。


 グレゴリーの身体が、淡い青色の魔力で覆われているのを見て、ふと理一は気づいた。彼は水属性だ。


 それに気づいたのと同時に考えた。自分の属性が相手にわかるのは、結界の効果なのか、身体強化を重ねがけしたせいなのかは不明だが、前者の理由ならともかく、後者の理由なら非常に有利だ。今後もガンガン身体強化をかけよう。


 そんなことを考えていると、教員が開始の合図をした。




 その合図と同時に、二人は地面を蹴った。


 理一は魔力操作で土の魔力で更に身体強化を重ねがけ、木剣にも同様に魔力を纏わせた。

 木剣の芯に魔力伝導率の高い金属でも入っているのか、思っていたより浸透率が高い。


 とりあえず、と言った感じで振り下ろされる理一の木剣を、グレゴリーが受け止めて薙ぎ払う。

 開いた理一の胴にグレゴリーが打ち込もうとするが、理一はそれをバックステップで避けて、着地したその足で踏み込んで再度突っ込んだ。


 理一がその勢いで突きを放つと、同時に解放された魔力で地面が盛り上がり、土槍を形成して槍がグレゴリーを襲う。

 グレゴリーは跳躍してそれをかわした。


 着地して間合いが開いた先で、グレゴリーが何やら呪文を唱え始めたのを見て、理一はそうはさせまいとすぐに次の攻撃に移る。


 足に更に強化を重ねて、飛び出した理一が前方の土槍の先端を蹴りつけると、槍の先端がいくつも礫となってグレゴリーに襲いかかった。


 呪文を唱えている途中だったグレゴリーはそれを中断して、避けたり木剣で弾くなどして回避したが、続けざまに槍の礫が飛来するので、呪文を唱える隙もなかった。


 それを見ている学院生達は、呆気に取られていた。



「無茶苦茶だ」

「剣筋も無茶苦茶なら、戦い方も無茶苦茶だ」

「あの魔力量と無詠唱魔法がなければ、彼はとっくに負けていてもおかしくないわ」

「彼は本当に戦闘経験があるのかい?」


 学院生からの質問に、安吾達は苦笑している。


「理一さんが剣を握ったのは、今回が初めてですよ。魔法戦なら百戦錬磨なのですが、こういう対人戦は初めてのはずです」


 道理で、と学院生達は納得して試合に視線を戻した。


 学院生達が視線を戻した時、理一は大きく木剣を振りかぶっていた。そして力一杯地面を叩きつけると、地面が広範囲に渡って陥没し、ひび割れた。

 それに足場を取られたグレゴリーがよろめいて、そこに跳躍した理一が斬りかかった。


 一旦受け止められた剣は切り結ぶ事ができず、理一の土の魔力によってコーティングされた木剣に、水の魔力をまとった木剣が耐えられずに折れてしまい、その衝撃がグレゴリーに伝わった。


 地面に叩きつけられたグレゴリーは、失神したようでそのまま起き上がらなかったので、教員が試合を止めた。

 すぐに結界が解かれて、治癒魔法師がグレゴリーを回収しに来たが、その頃には理一がある程度治癒魔法をかけ終わっていた。


 グレゴリーは既に意識を取り戻して怪我も治っていたが、念のために医務室に連れていかれた。

 それを見送った教員が、頷きながら学院生を見渡した。


「面白い試合だったな。剣の達者なグレゴリーと、ど素人のトキノミヤ卿。結果はトキノミヤ卿の勝利だった」

「先生、なぜトキノミヤ卿が勝つ事ができたのですか?」

「まずは魔力量の差、そして身体強化の質。相手の弱点属性を見極める事。トキノミヤ卿はこれができたから、強い相手にも勝てる。実戦でも相手の属性がわかれば、その弱点属性となる味方を当たらせる事ができる。これは非常に有利に働く。身体強化については言わずもがなだな。これまでトキノミヤ卿は、よほど身体強化の修練をしてきたんだろう。魔力操作にしてもそうだ。みんなも日頃の訓練を怠るんじゃないぞ」


 子どもの頃から剣の訓練をしてきたグレゴリーに、初めて剣を握ったという理一が勝ったというのは、学院生達にとっては衝撃だった。


 教員からの言葉に素直に頷く学院生がいる一方で、嫉妬を孕んだ胡乱な目が、一部から理一に向けられていた。


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