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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
セーファ大迷宮
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セーファ大迷宮 吸血姫との邂逅

 ガーゴイルは、逢魔の森ではなにかを守護する役割を持っていた。ならば、この大迷宮でもそうかもしれない。

 そう考えて理一達は近辺をつぶさに調べていた。


 時々罠に引っかかって毒煙などに巻かれたりもしたが、安吾達が着地した近辺に、それらしきものを見つけた。

 それは石碑というにもおこがましい、空き缶ほどの小さな四角い石だった。

 そこには「神討つ日を待つ者」と記されている。


「今度は英語か」

「日本を問わず、召喚された地球人が結託してるってことかもな」

「この世界の色白達は、何で神を殺したいんだろうねぇ」


 そんな風にぼやきながら、その石碑の周囲を探る。理一がなんとなくその石碑に魔力を流してみると、ゴゴゴと音が響いて、目の前の岩壁が音を立てて開いた。

 縦三メートル、幅三メートルの正方形に開かれたその岩の扉の中に歩を進める。




 扉の向こうは見事に整地された正方形の回廊が続いており、天井からは魔法なのか明かりが灯っている。理一の光灯を必要としないほどの光量が降り注ぐその回廊は、ひたすら真っ直ぐに伸びている。


「大峡谷の神殿も、こんな風だった?」

「ああ、いきなり人工的になったもんで、あの時は俺もビビった」


 雄介のいうとおり、人工物以外の何物でもない回廊を進んでいく。




 そうして進んでいくと、一つの部屋が正面に現れた。これも大峡谷の迷宮と同じ作りらしかった。やはり正方形の両開きのドアを開く。

 そのドアの向こう側は巨大な執務室のような設えになっており、両側と正面には壁面を埋め尽くす書棚があり、中央には石でできたデスクが鎮座していた。


 だが、理一達が最も驚かされたのは、その文明的な部屋でも、貴重であるはずの大量の本でもない。

 そのデスクには、先客が腰掛けて本を読み漁っていたからだ、


 その人物も理一達に気づいて顔を上げた。

 その顔は、この世のものとは思えないほどに、美しいものだった。

 波打つ艶やかな烏の濡れ羽色さながらに黒い髪。透き通るほどの白い肌。光の加減によって赤くも見えるエメラルドのごとき緑眼。珊瑚のような桃色の唇。まるで絵画の女神のような肢体。無国籍な美貌を誇るかんばせ

 その姿に非常によく似合う黒のゴシックドレスが、彼女の美しさを引き立てている。


 理一達がそこにいた少女の、あまりの美貌に息を飲むのを、その少女はキョトンとした顔をして見返した。

 そして、極上の美貌を持つ少女が、その珊瑚色の唇を動かした。


「えーっと、貴方達がここの持ち主じゃ、ないよね?」


 すずが転がるような声。少女の問いかけに、理一達は勢い込んでブンブンと顔を横に振る。それに少女は安心したように溜息をついた。

 そして少女は理一達をじっと観察するものだから、理一達は思わず緊張した面持ちになる。


 左からクロ、園生、菊、理一、鉄舟、安吾、おつる、雄介。

 しばらく観察した少女は、ちょっとニヨニヨして、持っていた本を閉じてデスクから飛び降りる。


「ていうか、貴方達日本人?」


 少女の言葉に硬直する理一達の反応を見て、少女は少女は喜びを隠しきれない様子で駆け寄ってきた。


「やっぱりそうよね! 私も何人か余所者アウトランダーに会ったことはあるの! ていうか真ん中の貴方! 依一よりひと様に超似てない!?」


 少女の言葉に全員度肝を抜かれて、少女を凝視してしまった。震えそうになる声を抑えて、理一が答えた。


「依一は、僕の祖父だ」

「やっぱり! 絶対子孫か親族だと思ったの! そっかぁ、孫かぁ、もうそんなに時代が進んだのね」

「あの、貴方は……」


 理一の祖父を知っているなら、最低でも50年以上生きていることになる。しかもあちらの世界でだ。理一の問いかけに、少女は少し得意そうに答えた。


「私はこの大迷宮を超えたところにある、吸血鬼の王国「ミレニウ・レガテュール」の王女、織姫=ソドゥクルス=ドラクレスティ。この世界に転生する前、約100年前は日本人だったの」


 そう言ってその少女、織姫はドレスの裾をつまんで優雅に礼をする。それに理一達も礼を返しつつ尋ねる。


「織姫様」

「依一様の孫ってことは、貴方も皇族なのでしょう? 様なんてつけないで」

「この世界には私の権威など」

「私がそうしたいの」

「では織姫」

「うん」

「いつからこの世界に?」

「五十年くらい前よ。吸血鬼だから成長が遅くてやだな。まぁ前世より暮らしやすいけど」

「そうでしょうか?」

「そうだよ。だって地球では吸血鬼なんて迫害されっぱなしだったもん」

「えっ」


 思わず息を飲んだ理一に、織姫は美しい唇に弧を描いて、いたずらっぽく笑う。


「皇族でも知らなかったの? 私、日本にいた時から吸血鬼だったんだ」

「そんな、ばかな」

「ホント。十九歳で吸血鬼化して、私はお父様の兼愛隷属となった。70代でこの世界に来て、120代で死んで、そしてお父様の娘として生まれ変わった。私の仲間たち、我が王家と側近は、ほぼ全員が地球産の吸血鬼なの」


 思考の整理が追いつかない。大迷宮で出会った少女は吸血鬼で、しかも王女で、しかも元日本人で、転生者で、転生する前から吸血鬼で。


 思考回路がショート寸前な理一に、さらに織姫は追い討ちをかける。


「そういえば、この部屋にあった魔法? 私が閲覧したら消えちゃったみたいなんだけど、もしかしてこの魔法が目的だった?」


 まさしくその魔法が目的でした、と理一たちは膝から崩れ落ちた。

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