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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
セーファ大迷宮
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セーファ大迷宮第1階層 石飛礫の嵐

 宿に着いて、一応冒険者協会でめぼしい依頼を受諾した。せっかくセーファ大迷宮へ行くのだから、関連した依頼があるなら、その依頼もこなせば一石二鳥だからだ。

 ちょうど合致した依頼があったので引き受けておいた。


 そして翌日の早朝からセーファ大迷宮へと向かった。クロスト山の麓にある、大きく口を開けた洞窟が、その大迷宮の入口だった。

 入り口は大岩で固めてあって、物々しく文字が刻まれている。


「この門をくぐる者は死を覚悟せよ、だって」

「大迷宮と言うしね。入ったら出てこれない人が多いらしいね」


 セーファ大迷宮は、各階層がアリの巣のように広がっていて、その階層が繋がったり途切れたりしている。なので、グルコス遺跡や大峡谷のように、とりあえず下に行けばいいというものではないそうだ。

 その内部構造は非常に複雑で、踏破どころか入った人間が出てくることも困難。なので多くの冒険者はごく浅い階層で見切りをつける。

 下手を打つと、2階層まで降りて振り返ったら道が3本あり、自分がどこからきたのかわからず、2階層で遭難なんてこともよくあるらしい。


 その点を肝に銘じて、ルートに糸を垂らしておくように子グモに頼むと、任せろといった風に片足を上げて応えてくれた。


 ちなみに子グモは手のひらくらいの大きさだったのが、猫くらいの大きさに成長していて、リュックサックの様に安吾の背中に張り付いている。

 園生の提供する食事が、随分栄養になっている様でなによりだ。


 子グモはクロにばかり名前があるのが羨ましかったらしく、安吾に名前をねだって「おつる」と名付けられていた。安吾の身分証には、しっかりとおつるが契約獣として記されている。

 おつるという名前になったのは、おつるが安吾にハンカチを織った時に、鉄舟が「お礼に機織りって鶴の恩返しみたいだな」と言っていたので、それでおつるになった様だ。

 本人は気に入った様だが、メスなのだろうか。おつるも大きくなったら立派なアラクネになるのだろうか。おつるの成長が気になるところである。


 6人と2匹で大迷宮の門をくぐる。大迷宮なのは分かりきっているので、第1階層と第2階層には、「右手ルート2」「左手ルート5」など懇切丁寧な案内板が各所に立っていた。


 とりあえずルート1と示された細い坑道のような洞窟を1キロほど進むと、そこは少し広い空間になっている。体感としては体育館くらいの規模だ。若干下っている感覚はあったが、この迷宮の構造はどうなっているのか、初っ端から首をひねる。


 一見すると魔物の姿は見当たらないが、理一の索敵には、数えるのも嫌になるほどの魔力像が、周囲の壁に映っている。おそらく洞窟の岩盤に擬態している。


 壁から魔力の高まりを感じて、いち早く察した理一がパーティ全体に光壁を張る。すると、周囲の壁全方位から、石飛礫の弾丸が降り注いだ。

 石飛礫は光壁に当たって砕け散っているが、全方位からの集中豪雨で身動きが取れない。


「こいつはえげつねぇな」

「防御なしでこの階層入ったら、即死だったな。マジでえげつねぇ」


 鉄舟と雄介が、最早呆れた様子で石飛礫の嵐を眺める。しかし眺めてばかりもいられない。一方的に撃たれ続けていても仕方がない。

 しかし、光壁を解除したところで、弾丸の嵐に隙がなさすぎる。いきなり手詰まりになった。


「どうしよぅ〜?」

「どうしたらいいのこれ?」


 園生と菊が理一に判断を仰ぐが、どうしたものやら。


「本当にどうしたらいいんだか……魔物の方も魔力が無尽蔵ではないだろうから、それが尽きるまで我慢比べと行こうか?」

「それがよかろう。あれが当たったところでわしは痛いだけで済むが、主人あるじらはそうもいかんからな。わしとてこの攻撃に身を晒すのは鬱陶しい」


 クロも同意し、安吾も頷く。近頃安吾は理一の魔力切れを心配しなくなった。以前は魔力操作や魔法の練習で気絶して就寝していたが、就寝時間を過ぎても気絶しなくなり、理一が諦めて普通に寝るようになっていたので、魔力量が増えたと安心してくれたらしい。


 というわけで、理一の光壁のなかで一同は敵の魔力切れを待った。魔物の魔力が切れるのが早いか、理一の魔力切れが早いかの我慢比べだ。


 理一は気合を入れ直していたが、意外と早く決着がつきそうだった。体感では30分ほど待っているが、徐々に石飛礫の量が減ってきた。

 全方位からの射撃がまばらになり、ついに2方向からになり、それも散発的になり。お陰で撃ってきた魔物の位置も明白だ。


 理一が光壁を解除し、射撃される2方向のみに光壁を立てると、すぐさまクロが左手に、鉄舟と園生が右手に攻撃した。

 左手の魔物はクロの咆哮から放たれた衝撃波で、岩盤ごとその体を粉砕された。右手の魔物は鉄舟の火魔法によって赤熱化するほど熱された後、園生の水魔法で急激に冷却されて、熱疲労を起こして瓦解していった。


「さすがだよ鉄舟」

「こんなもん初歩だってんだ」


 手放しで褒めると、鉄舟は照れたのか視線を外した。それを見て雄介が胡乱げな目を向ける。


「大人は素直じゃねぇなぁ」

「ツンデレだぜ? 可愛いだろ?」

「アンタに可愛さを求めて誰得なんだよ」

「しつけぇ」


 ついに鉄舟が雄介を小突いて、雄介は鉄舟にブチブチ文句を言っていた。それを横目で見ながら、理一は溜息をついていた。


「みんな忘れてない? 魔力切れしてるけど、ここには魔物がまだ数百匹いるんだけど」

「あ」

「あ」


 忘れていたらしく、途端に警戒態勢に入る愉快な仲間たち。クロも呆れ顔をしている。やれやれ仕方がないと、緊張を解くように安吾の肩を叩いた。


「ごめん、僕が意地悪だった。大丈夫だよ、もう終わってるから」

「はい?」

「遠隔で風化の魔法発動してたから、もう魔物は風化して砂になってるから大丈夫」

「はい?」


 理一の言葉を聞いて、安吾たちは周囲を見渡す。確かに壁際に砂がこんもりと積もっている。いつの間に、と集中する視線に、理一は小さく肩をすくめてみせた。


「最初から。ただ待つのも芸がないし」

「我慢比べじゃなかったんですか?」

「実は僕の方が我慢がきかなかったらしいね。我慢比べは僕の負けだ」


 あははと笑いながら理一が歩き出したのを、何が負けなのかがわからないと、仲間たちは呆れ半分感心半分で追いかけた。


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