冒険者協会と子グモ
今回は逢魔の森で2泊した後、レオザイミの街に戻った。アラクネを倒した時点で猶予は残り4日あったので多少はゆっくり森で魔物討伐を楽しんだが、期限ギリギリまで引っ張る必要はないので、さっさと戻った。依頼がなくても森にはいつでもいける。
冒険者協会に行って、受付嬢に依頼を達成したことを報告すると、鑑定窓口というところに回された。鑑定窓口の受付嬢に依頼を達成したことを報告すると、身分証と依頼品の提示を求められたのでそうする。
他にも買い取って欲しい素材があることを伝えると、記入台で複写になっている用紙に記入して、用紙の1枚目を鑑定窓口に、2枚目を納品窓口に素材と一緒に提出する様に言われた。
この街の冒険者協会は冒険者の数も多く建物も多い。窓口が多いのは当然だ。言う通りにしますとも。
納品窓口は大きな商品を納品できる様にか、裏の倉庫へと繋がっているようだった。作業員風の丸い獣耳がついた獣人のおじさんに、納品用紙を渡す。最初に獣人を見たときは驚いたものだが、流石に理一達も慣れてきた。
このおじさんはタヌキの獣人だろうかと考えていると、用紙を眺めていたおじさんが、品物を台車に置く様に言ったので、その通りにした。
ファイトラビットの毛皮 7枚
ブルーファングの毛皮 3枚
ブルーファングの牙 12本
グレーターワームの牙 2本
グレーターワームの毒袋 1個
グレーターワームの皮 1枚
オーガの皮 3枚
オーガの所持品 サファイア1個 ガーネット2個 ラピスラズリ4個 トパーズ1個
どうにか台車に乗せて、宝石類は袋に入れておいた。タヌキおやじが台車を見て唸っている。恐らくグレーターワームに驚いているのだろう。理一達も驚いた。何しろ4mを超える超顔が怖い巨大なミミズである。あまり気乗りはしなかったが、子グモもクロも「あれは意外にイケる」と言うので、渋々狩ったのだ。2泊目の夜に恐る恐る食べてみたら、クリーミーで意外と美味しかったのが逆に衝撃だった。早速園生がグラタンにアレンジしていて、大好評を博していた。
ちなみに狩った魔物の肉は自分たちのものだ。人数も増えたし大食らいがいるので肉は渡さない。
タヌキおやじからは、預かった素材の確認に時間を要するから、今日の午後以降に改めて来るように言われた。理一達以外にも納品している人はいたし、倉庫を見ると沢山の品物があったので、おじさん達も忙しいのだろう。わかりましたと返事をして納品窓口を出た。
続いて鑑定窓口から呼ばれた。依頼品の鑑定は、納品窓口とは異なるらしい。依頼者からの信用問題もあるので、当然かもしれない。
鑑定士の鑑定の結果、アラクネの糸で間違いはない様だが、想定していた倍以上の量の糸があって、その量でも買い取るか、それとも依頼分だけ買い取るか依頼主に確認するので、明日まで待って欲しいと言われた。
そのくらいの事は予め確認しておいて欲しいと思わないでもないが、それに気付いたのか受付嬢が言った。
「そもそもBランク以上になると、依頼が達成される事自体が多くありませんし、苦戦することが多いので、依頼主の希望した量を下回ることが多いのです。今回の案件の方が異例です」
非常識は自分たちの方だったらしい。受付嬢に謝った。どの道こちらも明日以降ということなので、今日のところは冒険者協会を引き取ることにした。
インスリーノ城に戻って、伯爵に報告をした。一応伯爵へのお土産も持って帰ってきた。紙に包んだそれを差し出す。伯爵が受け取って紙を開いた。
「これはタイかな?」
「ええ。ブラックウィドウの糸で編んで、ブルーファングの毛を織り込んであります」
「これは絹を超える、見事な質感だ。金糸の様に煌めく青い糸も美しい。ありがとう、気に入ったよ」
「光栄の極みでございます」
これを作ってくれたのは子グモである。ご飯のお礼にと安吾に蜘蛛の糸でハンカチを織ったのが事の始まり。そのハンカチはオーガンジーの様に透けている薄布なのに、手触りが滑らかで伸縮性もあり、吸水性も抜群で丈夫だった。これは素晴らしいと全員で大絶賛して、子グモにお願いしてタイを作ってもらうことにした。
子グモは喜んで引き受けてくれて、ブルーファングの毛を織り込むというデザイン性まで発揮してくれた。この子グモは優秀なデザイナーである。
ちなみに子グモは鑑定したらブラックウィドウという種類の蜘蛛だった。
■ブラックウィドウ
大体どこにでもいる黒い毒蜘蛛。弱毒性。成長するとあらゆる個体に分岐する可能性を秘めているが、いかんせん弱いので生き残れないことが多い。普通の虫以外の餌を自分で取れないので、共喰いすることもある。
前世の虫でも共喰いは珍しいことではなかった。安吾が子グモにその点を尋ねると、アラクネと上位の蜘蛛達がメインで餌を取ってきていたが、兄弟間やアラクネに共喰いされるのもよくあることだった。なので普段はアラクネ達から隠れて過ごし、アラクネ達が獲物をゲットしたであろう戦闘後に出て行って餌にありついていたらしい。なんともしたたかな子グモである。
ちなみに理一達もこの3日で子グモに慣れた。慣れてくると、沢山の足を動かして、一生懸命ジェスチャーでコミュニケーションを取ろうとする子グモが可愛く見えてくるので、不思議なものである。
伯爵に喜んでもらえたので、子グモも嬉しそうだ。安吾の頭の上でワッショイワッショイと万歳していた。
翌日になって冒険者協会に再度足を運んだ。依頼品は全部買取ということになって、追加報酬が発生した様だ。ありがたい。
「成功報酬と納品分の代金は、会計窓口でお支払いしますので、こちらの書類を持って会計窓口へお願いします」
鑑定窓口の受付嬢にそう言われて、会計窓口に並んで順番を待った。会計窓口の受付嬢に2枚の書類を渡して、しばらくするとカルトンに代金を乗せて出てきた。
白金貨8枚、金貨58枚。しめて858万の報酬である。流石にこれには驚いて、領収書に書いてある明細を確認したが、間違いではなかった様だ。アラクネの糸だけで500万以上の値がついていた。思っていた以上に高級品だ。ならば伯爵に渡したタイや安吾のハンカチも、相当な値段のするものだろう。
子グモは訳もわからず「お金いっぱい」と喜んでいるが、この子グモは大事に育てようと理一達は誓った。




