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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
始まりの村
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ステータスを見てみた

  はっと気がつくと、理一の目の前には4人の少年少女がいた。5人はお互いに顔を見合わせると、一斉に理一に振り向いて言った。


「陛下は間違いなく陛下!」

「うぐ…その通りです」


  何しろ幼少から毎日のように写真を撮られて、新聞やテレビで報道されてきた理一である。老いていようが若かろうが、あの国の国民が理一に気づかないはずがなかった。それが理一にはちょっとコンプレックスだったのだが、気を取り直して他の4人を見渡してみる。


  身長180センチ以上ある、背の高い短髪の少年。彼は真面目そうな面影もあったしすぐにわかった。


「桜田くんかい?」

「はい」


  すぐにわかってもらえたのが嬉しかったのか、安吾ははにかむように微笑んで返事をした。

  次に視線を向けたのは、170センチくらいで筋肉隆々の、日焼けした目つきの悪い少年だ。単純に消去法で行っても。


「三蔵殿」

「おう」


  見た目は少年なのに、未だに頑固オヤジな雰囲気が漂う鉄舟。間違いなく彼だろう。

  続いて視線を注いだのは、綺麗な黒髪をポニーテールにして、やや釣り目気味だが華やかな美貌を誇る女性。スレンダーで引き締まった肢体が、彼女の職業をすでに物語っていた。


雅楽頭うたのかみ

「はい、陛下」


  菊も若返ったのが嬉しかったのか、自信のこもった声で返事をした。最後に視線を向けたのは園生。日本人にしては色素の薄い茶色の髪に真っ白い肌、垂れ目の穏やかそうな美少女で、やはり小柄だったが、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだスタイル。

  例えるなら、菊がモデルやダンサーなら、園生はグラビアアイドルと行ったところだ。


「四谷家元」


  理一が語りかけると、園生はにっこりと笑ってこう言った。


「私達は、こちらで第2の人生を歩むと決めました。新しい世界では、肩書きなどありません。どうか、園生とお呼びください」


  少々間延びしたような、ほんわかした語り口でそう言ってくる園生に、理一も少し考えて、「そうだね」と笑い返した。


「私…いや僕も、この世界ではただの平民だ。肩書きなど捨ててしまおう。貴方達とは、今後は友として親交を深めたい。どうか僕のことも、理一と」

「はい、理一」


  この2人のやりとりに、他の3人は顔を見合わせたが、最初から割と不躾だった鉄舟が話に乗ってきて、菊も乗ってきて。安吾は最後まで渋っていたが、鉄舟に「ノリと勢いも大事だぜ?」と説得されて折れていた。


「ま、青春を取り戻すつもりで過ごせばいいんじゃねぇか? 理一も素の自分を出しちまっていいんだぜ?」

「素の自分、か…」


  そうしようと思っているのは山々なのだが、素の自分を出さずにいきて90年近かったので、中々難しそうではある。悩んでいると、渋々この状況を受け入れた安吾がぼやくように言った。


「自分には慣れろと言っておきながら、理一さんは慣れる気がないんでしょうかねぇ」

「ふふ、安吾の言う通りだね。降参だ、僕も努力しよう」


  本当は、安吾がちょっとおっかなびっくりそう言うことを言ったことに気づいて、彼の思いやりに絆されてしまった理一は、あっさりと折れてしまった。


  というわけで、平民の友人5人組という関係性をある程度構築できたところで、現状の把握をすることにした。


  現状、彼らがいる場所がどこかというのは全くわからない。今わかっているのは、どこかの道の真ん中と言うことだ。

  山や森じゃなかっただけ安心ではあるが、右も左も分からないとは、まさにこのことだ。この状況から、一体どうしたらいいのやら、さっぱりわからない。

  しばらく待ってみたが人も通らないし、民家なども見える範囲にない。しばらく途方にくれていたのだが、安吾が女神の言っていたことを思い出した。


「ヘルプ機能があると言っていたような…どうやって起動するんだろう? うーん? あ!」


  しばらく顔の前で手を動かしていた安吾は、すぐに理一達に向いた。


「心の中でヘルプ機能のことを考えてください。そうすると、目の前にパソコンのメニュー画面のようなものが展開されます」


  言われた通りに心の中でヘルプと考えると、目の前にちょうどパソコンの画面くらいの大きさのウィンドウが開いた。その画面はメニュー画面そのもので、プロフィール、検索、マップ、名簿やアドレスなどが浮かんでいた。

  みんなで話して、とりあえず相互のプロフィールを閲覧することにした。



 ■桜田安吾 アンゴ=サクラダ


 種族:人間

 LV:1

 ジョブ:騎士 桜田流抜刀術師範 宮内庁警護隊隊長

 スキル:健康体 回復再生 剣術 槍術 柔術 格闘術

 ギフト:女神の祝福 言語干渉 異空間コンテナ 鑑定 リミッター(オフ)

 禁忌:傲慢 6



 ■四谷園生 ソノウ=ヨツヤ


 種族:人間

 LV:1

 ジョブ: 管理栄養士 調理師 華道家 四谷流宗家家元 人間国宝

 スキル:健康体 回復再生 豊穣 水属性 木属性 悪食 料理

 ギフト:女神の祝福 言語干渉 異空間コンテナ 鑑定 リミッター(オフ)

 禁忌:暴食 8


 ■三蔵鉄舟 テッシュー=ミツクラ


 種族:人間

 LV:1

 ジョブ:刀剣金工師 鍛治師 人間国宝

 スキル:健康体 回復再生 鍛冶 造成 成形 発掘 複製 火属性 地属性

 ギフト:女神の祝福 言語干渉 異空間コンテナ 鑑定 リミッター(オフ)

 禁忌:色欲 2 憤怒 4


 ■二宮菊 キク=ニノミヤ


 種族:人間

 LV:1

 ジョブ:雅楽頭うたのかみ 吟遊詩人 宮廷音楽家、宮廷舞踏家 人間国宝

 スキル:健康体 回復再生 カリスマ 言霊 風属性 光属性

 ギフト:女神の祝福 言語干渉 異空間コンテナ 鑑定 リミッター(オフ)

 禁忌:嫉妬 3 傲慢8

 

 ■理一 リヒト


 種族:一応人間

 LV:1

 ジョブ:王 医師 教師

 スキル:健康体 回復再生 学術 探究心 精神耐性 毒耐性 恐怖耐性 知覚過敏 全属性

 ギフト:女神の祝福 言語干渉 異空間コンテナ 鑑定 リミッター(オフ)

 禁忌:なし



  全員のステータスを閲覧して、理一は顎を撫でながら思案する。


「どうして、みんな禁忌が付いているんだい?」

「逆に理一が禁忌が一つもついていないのがすげぇよな。これが育ちの差か」


  理一以外の全員が、鉄舟の言葉にウンウンと頷く。自分だって好きでこういう育ちなわけではないのに、みんなについているものが、自分にだけついていないと言うのは、少し不安になる。それを察したのか、菊が苦笑しながらフォローに入った。


「そんな顔しなくても。禁忌なんて名がついているくらいだから、ロクなもんじゃないさ」


  そう言われて改めて見ると、たしかにロクなものではない。暴食とか憤怒とか色欲とか。どう考えても良くないやつだ。


  とはいえ、これで全員のステータスが大体把握できたわけだが、理一は人知れず落胆していた。


(僕だけ、明確なものがなかったな…)


  他のメンバーは騎士だのなんだの職業が明確にされていたのに、自分にはジョブもスキルもはっきりしたものがなかった。医師や教員だって、これまでの過程で免許を取ったと言うだけで実用の機会はなかった。今までの自分はただの象徴であり、生まれ変わってその肩書きがなくなれば、本当に何もない人間なのだと思い知らされた気分だった。


  でも、だからこそ。この新しい人生を、謳歌する価値があるのだと思う。少なからず、平民になりたいと思ったこともあったし、学術スキルがあるなら、これから色々学んでいけばいいとも思えた。

  なにしろ、この肉体と人生は、新しく与えられたのだから。


「それにしても、理一の“知覚過敏”ってのは、冷たい物食べた時に歯にしみるアレか?」

「そんなスキル欲しくなかった…」


  鉄舟の言葉に、理一はいい年こいてむせび泣いた。



  落ち込む理一と慰める安吾を眺めて、残りの3人は呆れとも関心ともつかない顔をした。


「理一が落ち込む理由がさっぱり理解できねぇ」

「全くだよ。大体、「一応人間」ってなんだろうね? やっぱり神話の時代から連なる一族って、本当だったのかね」

「魔法も全属性もっているみたいだしねぇ。色々な耐性がついているのも、これまでの職業柄なんだろうねぇ」


  鉄舟、菊、園生と口々に言って、黒髪の少年になった理一に向かって、こっそり溜息をつくのだった。

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