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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
インスリーノ辺境伯領レオザイミの町
45/115

レオザイミの冒険者の洗礼

みんなで冒険者協会にやってきた。

インスリーノ伯爵は、滞在する間は城で生活していいと言ってくれた。有難いことだが、仕事はしなければならない。ピオグリタで菊が金貨で2000枚近く稼いでいたが、それはそれ。お世話してくれるインスリーノ伯爵にお土産くらい必要だ。


この町の冒険者協会は規模も大きく、出されている依頼も沢山あり、掲示板が依頼用紙で埋め尽くされている。

ランクが上がるごとにその数は減っていき、自分のランクであるBランクのエリアの掲示板は、3枚しか貼られていなかった。

たったの3枚であることに少々驚きを感じつつも、依頼内容を見てみる。


1つ目。ガーゴイルの角の採取


■ガーゴイル

逢魔の森の奥にある精霊の谷の入り口を守護する石の怪物。遭遇すると大体死ぬが、行き着くまでに大体死んでいる。


パス。

2つ目。アラクネの糸の採取


■アラクネ

逢魔の森の浄賢の滝に巣を貼る蜘蛛。糸と毒と子蜘蛛に注意。男は特に注意。


死ぬとは書かれていない。最有力候補。

3つ目。ユニコーンの角の採取


■ユニコーン

逢魔の森の清廉の泉付近にいる角のある大きな一角獣。非常に獰猛で処女がいないと大体死ぬ。


若返った彼女たちが処女にカウントされるのかが不明だし、一緒に掲示板を見ている彼女たちにこの話題を振る勇気がないのでパス。


「えーっと、僕はアラクネの糸の採取でどうかと思うんだけど、どうだろう?」


振り返り尋ねると、みんなも掲示板を見ながら考えている様子だった。しかし、仲間より早く反応したのは、さらに後ろにいた男たちだった。

4人の屈強そうな男がいて、ニヤニヤと不快な笑みを浮かべながら言った。


「おいおい、お前ら掲示板間違えてるんじゃねぇか?」

「色白は掲示板も読めねぇのか」

「女連れかよ。こんな弱そうな奴らより俺らが守ってやろうかぁ?ギャハハ」


絡まれたことに、武闘派の安吾と菊と鉄舟が早速「アァン?」とメンチを切り始めるが、調停者の理一と園生が宥める。


「僕らは文字は読めますし、彼女達は守ってもらわなければならない程弱くありません。それに掲示板も間違えていません、僕らBランクですから。ご心配には及びません」


身分証を見せながら、男達の言い分に対して一々丁寧に返してみたら、それが逆に癇に障ったらしく、男達はさらに詰め寄って理一の胸ぐらを掴んだ。


「お前みたいなひ弱そうな奴がBランクだと? 色白が、どうせその身分証も偽造だろうが」


更に殺気立つ武闘派。安吾が鯉口を切ったのをみて、慌てて視線で止める。目の前の男と仲間を止めないといけないので、理一は大変である。

なんとなく周りを見ると、周りも自分達を見てプークスクス言っている。新参者イビリに色白差別が加わって悪質化してしまったんだろうとあたりをつける。

ということは、この洗礼を受けて納得してもらうしかないわけだ。


反撃しない理一に、すくんでしまったと勘違いしたのか、男達はいよいよいきり立ってきたようだった。


「なんとか言ったらどうだぁ? それともこっちのボインな姉ちゃんを差し出せば許してやろうかぁ?」


男の下品な物言いと下卑た視線に、園生は自分の体を抱いて鉄舟の陰に逃げて、男の視線から隠れた。女性は男性よりも視線に敏感なので、あんな見られ方をされたら不快に決まっている。

仲間を攻撃されて黙っているわけにもいかないので、理一は安吾に視線を向けた。


「安吾、いいよ。峰打ちでね」

「ありがとうございます」


安吾が御意を得て、言い終わるか終わらないか、その瞬間には理一を掴む男の右腕が、曲がってはいけない方向に曲がっていた。

突然開放骨折した腕の激痛で、男は呻きながら後ずさる。その仲間が攻撃されたことに気づいて、武器を取り出して殺気立つ。


「てめぇ、いきなり何しやがる!」

「先に仕掛けてきたのはそちらだ。文句を言われる筋合いはない。売られた喧嘩を買ったまで」


安吾が腰を落とし、刀を下段に構える。すると受付嬢が窓口から叫んだ。


「すいませーん! 他のお客様の迷惑になりますので、外でお願いしまーす!」


それはそうだと理一は納得して、受付嬢に軽く謝罪。そして胸ぐらを掴んでいた男に笑いかける。


「続きは外でしましょうか。偽造でないことを証明できると思いますので」


理一がスタスタと表に向かうと、安吾達もすぐに後に続いた。そして男達も悪態をつきながら出てきた。途中、モヒカンの男が骨折した男に治癒魔法をかけていた。


理一達が5人、相手は4人。見たところ相手は全員戦士ぽいが、全員それなりに魔法を使うだろう。


「理一さん、ここは自分一人で大丈夫です」

「そう? 一応相手の魔法使いだけやろうか?」

「では魔法使いだけお願いします」


安吾と話している間にも、モヒカンの男が呪文を詠唱し、こちらに炎弾を撃っていた。気が早いなと思ったが、先に攻撃したのはこちらなのでお互い様だった。

仕方がないので水玉でレジスト。もう一つ水玉を飛ばして、モヒカンの頭にはめる。どんなに外そうと暴れても、モヒカンから水玉が取れない。ボコボコと泡が口から逃げるだけだ。


その一方で、安吾は骨折した男の片手剣を弾き飛ばしもう片方も骨折させ、その隙をついた両手剣の男が繰り出した突きを紙一重で避けて首筋を峰打ち、突き出される槍を掴んで取り上げ、逆に男に突き付けていた。


両腕を折られて悶絶する男、首を打たれて気絶する男、水玉が取れず溺れる男、武器を奪われて狼狽する男。素晴らしい負けっぷりに周囲からヤジが飛んだ。


とりあえず理一は、武器を奪われただけの男に、モヒカンを指差して言ってみた。


「あの彼、あと5分もあのままにしておくと再起不能になるけど。というか死ぬけど、放っていていいの?」


それを聞いて男は一層狼狽する。


「でも、俺、治癒魔法が使えない」

「治癒魔法が使える人間なんて真っ先に潰されるんだから、救命措置くらい覚えておいたほうがいいよ」

「ど、どうしたらいいんだ」


仕方がないので理一が男に指導して、モヒカンは無事に息を吹き返した。新人イビリはこれで決着が着いたし、今後彼らが理一達に喧嘩を売ることはないだろう。

回復したモヒカンが仲間に魔法をかけ始めたのを見届けて、理一達が協会に戻ると、理一達が戻ってきたことで勝敗が明白になったようで、その後は誰も絡んでこなかった。


そして改めて受付窓口に行って、アラクネの糸の採取を受けると申請。受付嬢が書類にサインをしながら確認した。


「はい、では期限は1週間になります。黒犬旅団でアラクネの糸の採取。お間違いございませんか?」

「はい」


受付嬢の言葉が聞こえていたのか、協会内がざわついた。


「今、黒犬旅団って言ったか?」

「言ったよな…」

「奴らに目ぇつけられたら、バンダースナッチの餌にされるんじゃねぇか」

「やべぇ…俺喧嘩売らなくてよかった」


周りの囁きを聞いて、この点に関してクロが怖がられているのはよかったなと、色々と優秀なクロに理一達は感謝したのだった。


「先に言っておくべきだったかなぁ?」

「先に言ったところで彼らは信じなかったと思う。これでよかったんだよ。手加減もしたし」

「そっかぁ」


協会を出ようとする理一と園生の会話を聞いて、手加減された上にボロ負けしたのでは、奴らも気の毒だったと、協会内の冒険者達はモヒカン達の冥福を祈った。

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