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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
芸能とギャンブルの町ピオグリタ
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インスリーノ町長からの依頼

出禁になったとはいえ、2日で金貨2000枚以上稼げたのは僥倖だが、5人で割ると一人頭約400枚。若者の貯金額としては悪くはないが、今後のことを考えると不安がある。ついつい老後のことまで考えてしまうのは、彼らが元日本人の元高齢者なのだから仕方がないのかもしれない。

現代日本では老後資金の理想的な金額は約3600万と言われているが、これは有料老人ホームなどのサービスを満足なレベルまで充実した場合の試算だ。この世界にはそもそも介護福祉サービスなど存在せず、家族が面倒を見て老いに任せるのが普通なので、QOLが著しく低下する代わりに、あまりお金はかからない。


「でも、お金はあって困るものでもないしね」


と、理一は世界一安全な金庫である、異空間コンテナに自分の取り分の金貨を放り込んだ。スリの件以降、財布には小銭しか入れないようにした。もちろん身分証だって異空間コンテナに保存だ。

こっちの世界はこう言った危険が多いので、スリやカツアゲ対策に、お金を分散して服に隠している人も結構いるのだとか。この辺りは理一達も認識を改めるべきだと思った。これこそまさに平和ボケという奴である。


「それで、町長の話はなんだったの?」


鉄舟からお説教を受け、カジノで稼いだお金を分配し終わると、菊がそう尋ねてきた。


窓口を作ってくれと門兵に託けている時点で、おおかた町長あたりが用があるのだろうと推測はしていた。やはり町長の用事は出禁の件だけではなかったようで、その後に話が続いた。町長としては、出禁にした後ろめたさもあるが、依頼も引き受けて欲しくて、カジノで稼いだお金は返却不要にしたのだろう。


町長によると、この町に冒険者が根付くことはほとんどないとのことだった。ここは娯楽の町だし、魔物などの脅威もない。せいぜい街で暴れる暴漢を取り締まる程度のものなので、それは兵士にも務まる。なので、この町に来る冒険者は、仕事よりも遊びが中心で、ほとんど根付かないそうだ。


「その為に、この町には魔法使いが非常に少なく。日常生活や劇場での演出に用いる魔法には事欠かないのですが、それ以外ではとんと…」

「街中にも魔法使いが店を開いているのを見かけましたが?」

「あれは、カジノで勝つお守りなどを販売している者でして」


魔法使いにも色々あるものだ。この世界における魔法使いは、職業の一つと捉えられているのでそれを生業にしている人もかなりの数がいる。

それでも、走ることは誰にでもできるが、誰でもは陸上選手になれないのと同じで、魔法も誰にでも使えるが、誰でも魔法使いになれるわけではない。この街では、その魔法使いの絶対数が圧倒的に不足していたのだ。この町は観光客まで含めると常に数千人が生活している都市なのだが、町長が把握している魔法使いの人数はたったの5人だそうだ。


「それは少ないですね。この規模の町なら、他から流れてきても良さそうですが」

「来たところで需要がないのですよ。花街は私が、色街は顔役が取り仕切っていて、原則この町は平和ですから」

「その平和なピオグリタで、魔法使いを必要とする事態が起きたということですか」


理一の問いかけに、町長は幾らか眉を顰めて、床に視線を落とした。


「実はその、色街の顔役の男ーーチアゾリッジというのですが、彼は数日前から行方不明になっているそうでして…彼の側近や私の手の者を使って行方を捜しているのですが、全く彼の行方が掴めずにおりまして」

「彼の存在が反社会的な人間の抑止力になっているのなら、そのことを公表して大々的に捜索することもできないし、手に詰まっているということでしょうか?」

「そのとおりです。ですから、放浪の冒険者である黒犬旅団に、秘密裏に彼を探し出して欲しいと、こちらに参った次第です」


インスリーノは神妙な調子で、理一にそう言った。確かに生活魔法に毛が生えた程度の魔法使いを投入したところで、索敵も捜索も攻撃魔法もできないのであれば、チアゾリッジを探すことはできないだろう。

そこへ偶然話題の冒険者がやってきたのだから、インスリーノとしては渡りに船だったのかもしれない。


店から上納金をもらう代わりに、色街で無体を働いたり、娼婦を乱暴に扱うような横暴な客は、チアゾリッジの手下にぶっ飛ばされるのが、色街名物でもある。それが国賓に対しても同様に行われるので、その点はインスリーノとしては頭が痛いが、恐れを知らない任侠の男として、チアゾリッジは色街のヒーローなのだ。


昔を懐かしむように、インスリーノが言う。


「14歳の頃から、彼は私の護衛でした。ギャンブル好きで遊び呆ける私、喧嘩と女に目がないチアゾリッジ。バカ息子同士気があって、二人でよく悪さをしたものでした。彼はこの町にも、私にとってもかけがえのない友人なのです。ですからどうか、力を貸していただきたい」


そう言ってインスリーノは、深々と頭を下げたのだった。



その話を一通り聞いて、園生が理一に尋ねた。


「その話は引き受けたのかなぁ?」

「みんなにも意見を聞きたいからと保留にしてあるよ。明日の正午に町長の使いの人が返事を聞きに来る」

「理一はどう考えるのぉ?」

「そうだなぁ…」


金払いは悪くない。成功報酬は金貨500枚。成功するかはやってみなければわからないので、なんとも言えない。もし死んでいた場合は金貨10枚。ほとんど活動に使った諸費用のみの金額だ。チアゾリッジが生存していなければ意味がないので、当然と言える。


色街に行った時のことを思い出してみる。娼婦たちは派手だったが、嫌々やらされているような退廃的な雰囲気は感じなかった。どうせやるなら楽しくやろうという雰囲気で、妖艶でもあったが明るさもあった。それは色街を管理する人間が優れているからだろう。

しかし一方で、あのスリの少年のようなダークサイドも存在していた。この世界の風俗街に児童福祉まで求めるのは難しいのかもしれないが、チアゾリッジにも目が行き届いていない場所があるという証左でもある。

チアゾリッジの仕事柄、味方も多いだろうが敵も多そうだ。


「チアゾリッジが自発的に居なくなった分には問題ないけど、そうでなく誘拐などだった場合は、マフィア抗争みたいなものに巻き込まれる可能性はあるね。まぁ相手が魔物じゃなく人間というだけで、気分的にはまだいいけれど」

「…マフィアを相手にするかもしれないのに、気が楽に感じるって大概よね。まぁ、あたしもだけど」


菊の言葉に全員で苦笑する。色々懸念がないわけではないが、とりあえず依頼は引き受けると言うことになった。

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