天然無双 イン カジノ
理一が銀狐亭に戻って、しばらくすると安吾も帰ってきた。ちなみに理一と安吾の二人が銀狐亭に宿泊して、ほかの3人とクロは一軒家を借りている。クロをなるべく室内に閉じ込めておいて欲しいけど、何かの用事があってお邪魔した時にクロがいたのでは卒倒しかねないので、窓口になる誰かだけでもどこかの宿屋に泊まって欲しいと門兵にお願いされた。
クロは随分と怖がられているなぁと意外思ったが、自分だって初めて会った時は相当ヤバイ生き物だと認識したことを思い出したので、門兵達の考えは当然だろうと思った。
ただ、窓口を用意して欲しいということは、この町の権力者の誰かが、理一達に用事があって、しかも秘密の話なので理一達に直接持ち込みたいということなのだろう。
理一達としては、妙な話でなければ受けるし、それで金払いが良ければなお良し。別れて宿泊する事にはすぐに同意した。
窓口の件に関しては、折衝経験でいうと理一の右に出る者はないので、理一と自動的に決まり、護衛が側で待機するのは当然だと安吾も決まり。女性とペットだけで家に暮らすのは危険だと考えて、鉄舟は家の方に行ってもらっている。
「アイツらが襲われるようなタマかよ?」
と鉄舟は言っていたが、世の中何が起きるかわからないので、警戒しておいて損をすることはないだろう。
そういうわけで理一は安吾が戻った銀狐亭の一室で、安吾に話を聞いていた。カジノに向かった安吾と鉄舟。軽く遊んでみようと色々物色して回ったそうだ。
「で、どうだった?」
「鉄舟は辛勝といった感じですね。金貨5枚くらいの儲けでした。自分は爆勝ちして、金貨487枚です」
「ぶふっ!?」
まさにカジノドリームである。半日で大金をゲットした安吾はホクホク顔だ。安吾はそんなにギャンブルが強かったのだろうか。尋ねると安吾は簡単だと言った。
「ルーレットですと、まずはディーラーを観察するんです。ボールを転がす時の指の癖、摩擦による抵抗、ボールが転がるスピードなどからディーラーの癖を掴めば、ほぼ百発百中です」
「簡単にいうけど、それは安吾だから簡単なやつだからね?」
そうでしょうかと安吾は宙を仰いでいる。この天然無双めと思いつつ、それは少し面白そうだと理一も興味を持ったようだ。
何しろ理一はギャンブルなど一度もやったことがないのだ。せいぜい仲間内でカードゲームをしたことがあるくらいだ。この世界では理一の動向に目を光らせる人間がいるわけでもなし、興味を持った事にトライすることになんの貴賎もない。
というわけで翌日は理一も安吾と一緒にカジノに行くことにした。ほかの3人は何故かそれに難色を示していたが、鉄舟が「ほどほどにな」というに留まったので、適当に返事を返してカジノに行った。
昨日安吾達が行ったのは、街で二番めのカジノだったということで、せっかくなので今日は街で一番の、町長直営カジノ「カジノインスリーノ」である。
先に結果をいうと、安吾は金貨591枚、理一は金貨1087枚の大勝だった。もちろんなんらかの魔法を使ったりだののズルをしたわけではない。
ルーレットは安吾の言った通りにやってみた。目に身体強化をかけるくらいのことはしたが。あとはポーカーやブラックジャックなどのテーブルゲームで、場に出るカードを全て暗記し、ディーラーとの心理戦に勝利した結果である。
途中から黒山の人集りができて、ディーラーやスタッフから不審そうに見られ、魔法か何かで探られていたようだったが、ズルをしていたわけではないので、痛くない腹を探られても困る。
最終的にはカジノ側の雰囲気が剣呑なものになる前に、スタコラサッサと逃げるように帰った。
やりすぎたかなぁと思っていた理一のところに、客がやってきたと宿の主人が呼びにきた。客の予定といえば色街の少年しか思い浮かばなかった。来てくれたかと少し喜びながら迎えたら、現れたのはシルクハットを被った50台くらいの紳士と、秘書っぽい老齢の紳士だった。
その紳士は帽子を取って、この町の町長であるインスリーノと名乗った。インスリーノは軽く自己紹介をして挨拶を済ますと、理一に真顔でこう言った。
「出禁です」
「え」
「リヒト殿とアンゴ殿…いえ、黒犬旅団はカジノには出禁となりました。これは我々遊戯協会の総意です。あなた方が不正をしていなかったということは、スタッフの調査でわかっています。ですが、これ以上勝たれますと、我々が破産します。ですから、この町およびカジノ運営のために、出禁という処分を飲んでいただきたい」
やはりやりすぎていたようだった。インスリーノ言い分はごもっともで、謝罪しつつその通達を受け入れた。なんなら今日手に入れたお金も返すと言ったのだが、それは記念に取っていただいて結構とのことだ。
「本当は、この街で楽しく過ごせていただけるなら、それで構わないのです。ですが、あなた方の勝ち方を見て、ほかのお客様からも多数のクレームが…」
「それは…大変ご迷惑を…」
理一達だけ贔屓しているんじゃないかと、他の負け越した客が難癖をつけるのも無理はない。これは理一達が全面的に悪いと思って、終始謝罪に徹したのだった。
翌日鉄舟達にその話をしたら、「それ見たことか」と言わんばかりの顔で溜息を吐かれた。
「これだから遊び慣れてねぇ奴は、加減を知らなくていけねぇよ。これでいい勉強になったろ?」
珍しく鉄舟にお説教されて、安吾と理一はギャンブルは自重も大事だと覚えた。