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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
グルコス遺跡
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リベンジ 地下第3階層 リッチ戦

それから数日後、理一達は再びグルコス遺跡に来ていた。ちなみに今回は寄り道なしで、理一と安吾と、菊も自力で走ってきた。

踊り手というのは、相当運動神経が良くないとできない。しかも菊は踊り手と歌い手として、人間国宝にまで登り詰めた女性だった為、菊はすぐに魔力操作の身体強化を習得して、安吾に迫る勢いで成長を遂げていた。

ついでに、彼女の運動神経に目をつけた安吾が、訓練もつけていたらしい。


「菊はとてもセンスがあります。自分もうかうかしていられません」

「安吾の教え方が上手いのよ。流石は桜田流の師範ね」


そう言って笑うと、菊は異空間コンテナから武器を取り出した。鉄舟に頼んで作ってもらった菊の武器は、薙刀だった。


「婦女子の武器は薙刀ってイメージだったから…」

「確かに女流の武道で薙刀術がありますね。薙刀はリーチが長くそれでいて室内でも使える武器ですから、家にいることの多かった女性や子どもの武器になったんでしょう」


ちなみに安吾の流派は剣術メインだが、槍術にも応用が効くようなものらしい。薙刀は槍と刀の特徴を備えたものなので、安吾の教えで十分活用できるそうだ。


そうしてみんな少しずつパワーアップして、もう一度グルコス遺跡に臨む。やはり表層はスケルトン等の魔物が徘徊している。

それを理一が光輪を無詠唱で発動し、あっという間に一掃。地下第1階層に降りると、すぐに鉄舟が土壁で通路を遮断して魔物の侵入を防ぎ地下第2階層へ。

階段を降りる前からたむろしているゾンビ達を、菊が風魔法で吹き飛ばして、その階段を降りた。トン、と足をついた菊が、理一を見上げる。


「どうする? ここをもう一度探索しておく?」

「いや、ここにいたら安吾がやられた時のことを思い出して、腹が立って全滅させたくなりそうだから、次に行こう」

「呆れた…安吾のこと大好きね貴方…」

「そりゃもう。安吾も僕のこと好きだろう?」

「えぇっ、は、はい。それはもう」


理一が茶化しに茶化しで返して、菊は苦笑する。巻き込まれた安吾は当然恥ずかしそうだが、園生が頬を染めて目を輝かせていた。それを鉄舟は訝っている。


「どした」

「これが、主従BL…ふつくしいねぇ…」

「おい園生、その扉開けて本当に大丈夫か。戻れるかお前?」

「わかんなぁい…」


戻って来いと本気で心配しだす鉄舟と、腐りかけの園生は置いておくとして。

一行は前人未到の第3階層へ向かった。


階段を降りる前から不愉快極まりない悲鳴が聞こえてくる。ここはレイスの巣窟なのだろうと考えて、理一が光壁を張る。

レイスは幽体の魔物で、物理攻撃が一切通用しない。魔法の攻撃はどんなものでも効果があるが、レイス自体も魔法で攻撃してくる。

レイスの使う闇魔法は、体力や精神力を削るものだったり、恐怖や混乱に陥ることもあるらしいので、レイスが他の魔物と一緒に出てきた時に攻撃されたら、相当に苦戦する。なのでレイスからの攻撃は、とにかく防ぐに限る。


光灯で照らされた石の階段を降りる。第3階層も石の回廊と言った感じで、途中途中に部屋がある。だが、その中空をレイスが飛び回っており、壁の中からもレイスが湧いて出る。

これではどこかの部屋に腰を落ち着けて休憩するわけにはいかない。理一は光壁を張りっぱなしでいられるよう、気合いを入れ直す。前回のように、動揺していつのまにか解除されていたなんてことになれば、あっという間にレイスの餌食だ。理一は油断なく周囲を伺う。


気配感知の網を広げると、四方に強い反応がある。レイスの親玉はひとかたまりにはなっていないようだ。一気に攻撃されない分まだマシだが、戦闘回数が増えたのは厄介だ。

理一達は光壁の周りをひゅんひゅん飛び回るレイスを光輪で消しとばしながら、一先ず西側の反応のある場所へ向かった。


通路の角を曲がった所に、その反応はあった。曲がり角のところで、一旦身を潜める。

その魔力の気配で察したのか、クロが「あれも食えん奴ではないか」とガッカリしている。この遺跡にはクロの食料になりうる魔物が出ないので、クロとしては旨味がないらしい。文字通り。


曲がり角からひょこっと顔を覗かせる。奥の方にローブを着た大きな幽霊が浮かんでいる。先制攻撃で隠れながら無詠唱で光輪を打ってみた。

すると、敵のローブの下に魔法陣が浮かんで、放たれた黒い魔法がぶつかると、光輪が相殺されてしまった。


「うわ、結構強い」

「隠れていても仕方がなかろう。もう奴にはバレておる」


確かにクロの言う通りだ。その魔物は待ち構えているかのように佇んでいる。初めて見る魔物だ。そういえばと思い至り、出る前に鑑定してみる。



■リッチ


永遠の命を得るために、自らアンデッド化した高位魔術師の成れの果て。物理攻撃は通用せず、魔法のレパートリーに富み、強力な闇魔法を使用する。かなり強い。食用には向かない。



鑑定結果を見て、なんで概要しか表示されないのかも気になったが、それ以上に結果内容が問題だ。


「これはハズレを引いたようだね」

「まずいわ、あたし帰りたくなってきた」

「クロぉ、あれやっつけてぇ」

「言ってる場合ではない! 来るぞ!」


クロの声の直後に、リッチが魔法を放つ。いく筋もの黒い固まりが尾を引きずって、理一達のいる場所へと蛇のように迫る。

その一つ一つに菊の放った光輪の光の帯が絡みついて相殺される。相手はリッチだし、これは確実に魔法戦になりそうだ。


隠れていても無駄なのは承知だ。意を決して理一達が通路に出る。リッチはすでに次の魔法を打とうと、両手を掲げてこちらに向けたところだった。また闇魔法が来ると思ったが、リッチが放った魔法は炎幕。ぼうっと音を立てた炎が、理一達の周囲を取り囲む。ここは地下だから、空気も無限ではないのに。このままでは蒸し焼きだ。


「あんにゃろう! 自分は死んでるからって!」

「なんでアンデッドなのに火魔法使うのよぅ! 信じられない!」


園生が水魔法の水壁を出すと、じゅうと音を立てて蒸気が上がる。それでいくらか炎を消すことは出来たが、リッチはすでに次の攻撃に移っていた。

リッチが地面に手を向けると、先日鉄舟が練習していた土槍の魔法が襲ってくる。どどどっと言う音ともに地面から突き上がる槍に泡を食って逃げ出そうとすると、クロのかまいたちが槍を斬り払った。


「狼狽えるでない! 陣形を組直せ!」


完全に浮き足立っていた理一達が、クロの叱咤で落ち着きを取り戻した。どんな攻撃をされようが、落ち着いて見極めれば迎撃できている。リッチにも付け入る隙が生まれるはずだ。


「クロ、ありがとう」

「礼を言うのはまだ早いぞ」

「わかってる」


あちらにばかり好き勝手させるのは我慢ならない。嫌な思い出もあることだし、やっぱり安吾のことを根に持っている理一は、ちょっとイライラし始めた。

理一が光鏡の魔法を展開する。一つが直径60センチほどの8角形の鏡が10枚、理一の前に出現してリッチに光の魔力を浴びせかける。

これにはたまらなかったのか、リッチはその光から飛んで逃げ出す。そこで理一は更に光鏡を10枚、通路の右側に展開。

リッチが鏡を割りながら光線を躱すので、更に左側に10枚、天井に、床に展開し、いつのまにかリッチは鏡に包囲されている。ついにリッチに向かって全方位から光鏡の光が浴びせかけられた。


「ギィィィィ」


耳を劈くような断末魔をあげて、リッチは引きちぎられる様な残穢を残して消滅した。


ふぅ、と溜息をついて、少しふらつく体を支えようと、今回も鉄舟に掴まる。


「度々、ごめん」

「いいけどよ。時々暴走する理一のそれ、どうにかならねぇのか」

「鉄x理も中々エモい…」

「園生はマジで黙れよ?」


1体倒すのにやっとかっとでこのザマ。やらせたら出来る子達だが、そこに行き着くまでがわっちゃわっちゃする。1分1秒が命取りになることもあると言うのに。

今日も先が思いやられると、リッチの忘れ形見であるローブを口に咥えて、クロは溜息とと共に引きずってくるのだった。

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