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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
グルコス遺跡
28/115

修行が必要

遺跡から持ち帰った剣や盾、小手などの武具は、中古の市販品であったものの、新品より安値で買えるので買う人が多い。冒険者や傭兵、兵士などの多くいるこの世界では需要があるので、そこそこの値段で売れた。大体は中古の剣1本で銀貨1枚から金貨1枚、防具の方はピンキリだったが、そもそも相当な数を拾って持ってきたので、売却価格は金貨83枚と銀貨7枚と青銅貨4枚になった。


そして、スケルトンジェネラル2体と、ヴァンパイア3体を倒した成果報酬で金貨50枚。回収してきたスケルトンの骨とヴァンパイアの牙は、道具作りの素材にもなるらしいので、それも買い取ってくれて金貨5枚。

やっとマトモに収入を得られたことで、気持ち的にも落ち着いた。


「とはいえ、5人分の収入としては心もとないわ」

「そうだな。安吾と理一が問題ねぇなら、また遺跡に行きてぇけど」

「うぅ〜ん、安吾は良いって言いそうだけど、理一はどうかなぁ」

「あいつ結構潔癖なとこあるしな」


収入が得られたとはいえ、元々上流階級の元高齢者達は油断できない。手に入ったお金をぱーっと使うような愚を犯すことはないし、この収入で足りると全く思っていなかった。


お金を稼ぐにはグルコス遺跡に再度赴くのが最も手取り早いが、理一と安吾がトラウマになっているのではないかと考えると、3人は簡単にそれを口にしていいのかがわからない。


あれから数日経って、安吾も町の外周をジョギングできるくらいには回復している。というより本当に安吾の体はどうなっているのか一同は気になるところである。

どういう心境の変化か、理一も安吾と一緒にジョギングするようになった。最初は短距離でヘトヘトになっていたが、次第に疲れにくくなり、今は安吾のスピードになんとか追いついている。


「あのもやしっ子の理一が…」

「魔力操作で身体能力と身体強化を底上げしてるんだと。理一は魔力操作も相当訓練してるぞ」

「えぇ? じゃぁ一日中魔力操作してるの? 理一の魔力量はとんでもないことになっていそうだねぇ」


長距離走とは思えないスピードで駆け抜けていく安吾と理一を見ながら3人はそんな風に言って、諦めたように菊が立ち上がった。


「あたしもトレーニングをサボっていたから、体がなまってるわ。踊り手も体力勝負だし、あたしも混ざってくるわね」

「俺も魔法の練習すっかな」

「私はぁ」

「おい、わしの飯はあるのか。遺跡に行くなら作り置きを絶やしてはならんぞ」

「わかってるよぉ。じゃぁ食材取りに森に行こうねぇ」

「よし」


頑張っている安吾と理一を見て、それぞれ発奮したようだった。菊もジョギングに混ざり、鉄舟は町の外に出て土魔法の練習。園生とクロは森へ狩りに出かけていった。




「はっ、はっ」


自分の吐く息が耳につく。筋力や持久力が大幅に増えたわけではない。だが、短距離走の選手よりも早いスピードで走り続けている自覚はある。魔力操作で筋力を増強して、筋肉が活動によって消費した酸素を効果的に供給するために、心肺機能も強化している。空気を取り込むために風魔法でCーVAPを作って口元を覆っている。


体を動かしながら魔力を操作するのは難しく、毎日練習しないと勝手を掴めそうになかった。その魔力操作をずーっと続けなければならないジョギングは、良い練習方法だった。

とはいえ、そう言ったスキルも使わず、ナチュラルに魔力を筋力に変換し、ぐんぐん自分を置いていこうとする安吾は、本当になんなのだろうかと苦笑する。


安吾には魔法の属性がない。世の中には稀にそういう人もいるようだ。魔法らしい魔法が使えない代わりに、安吾の魔力は全て身体機能の上昇に使われている。だから常識外れの動きが出来るし、回復力も並ではない。その内人間ではなくなってしまいそうだ。


この間のヴァンパイアとの戦いで、理一も多少は格闘が出来るようになっていた方がいいと思った。しかし、あんな風に急接近されたときに、すぐに剣を構えられるかはわからない。安吾も至近距離での抜刀は難しいと言った。


「格闘技も良いとは思うんですが…こう言ってはなんですが、武道にはセンスも必要なんです。時間はかかっても理一さんは無詠唱魔法を極めた方がいいと思います。光壁などは既に出来るんですし」


安吾の言う通り、自分に武道のセンスがあるとは思えなかった。なので素直に魔法の練習にシフトチェンジする。


無詠唱について、以前ラズが言っていたことを思い出す。着火の魔法は簡単な魔法だから、慣れたらすぐに無詠唱で出来るようになると言っていた。


「慣れたらって、何にだろう?」


着火の魔法の呪文に? 着火の魔法のイメージに? 着火の魔法を出すこと自体に?

いや、運転などは慣れればアクセルだのブレーキだの考えなくても体が動いたし、スピードや停止の感覚なんかも無意識に認識出来ていた。慣れるということは、体が覚えるということだ。


では魔法における、体が覚えるというのはどういうことだろうか。やろうと思ったときには自然に発生させられるということは、どういうことなのだろうか。


(魔法を作り出す回路が定着しているということかな)


呪文というのは、その魔法を構成する道筋を立てるものだと理一は考えていたから、そんな風に考えた。



考えながら町の外に移動すると、そこでは既に鉄舟が魔法の練習をしていた。


「よ。ジョギングはもう終わったのか?」

「うん。鉄舟は土魔法の練習かい?」

「土魔法は俺の仕事にも役に立つしな」

「なるほど」


鉄舟はすぐに魔法の練習に戻る。土槍という魔法を使っていた。土が地面から槍のように突き上がる魔法だ。それを見ていて思い出した。

ヴァンパイアと戦って安吾が負傷したとき、自分は鉄舟に鉛の壁を立てろと言った。x線を使うつもりだったから、被曝しないようにだ。土属性のある鉄舟なら出来ると思って咄嗟に言ったのだが。


「鉄舟」

「あん?」

「鉛の壁を作ったとき、どうやって作ったんだい?」

「あ? どういう意味だ?」

「だって、あの遺跡の地面は普通の石や土だったよね。その中からどうやって鉛だけを?」

「そりゃお前、鉛だけを抽出しようと思ったからだろ」

「詳しく」

「俺は仕事柄、鉱山に眠ってる鉛のイメージは簡単に浮かぶわけだ。で、それがこう、モリモリっと出てくるイメージでだな」

「イメージ…詠唱は?」

「鉛だけを出す魔法の詠唱なんか知らねぇよ。土壁の魔法を詠唱しながら、鉛のこと考えてたんだよ」


ふむ、と理一は顎に指を当てて考える。即座にというわけにはいかなかったようだが、鉄舟は詠唱せずイメージで魔法を行使したことになる。

そもそも詠唱というのが、魔力に対してこういう魔法になって欲しいと構成するためのもの。つまり、その魔法を構成するためのイメージが、即時魔力に働きかけるなら、無詠唱が可能になるということだ。

では、どうしたらいいのか。


イメージは脳が作り出す。魔力は心臓が生み出している。脳が作り出したイメージを一瞬で心臓まで届けて魔法を発現させるには、速度が重要。そして人体の中で最速を誇るのは、神経の伝達。

活動電位を散発し脱分極を起こさないように、神経伝達のスピードそのものを上昇させるように、魔力操作で神経を強化する。

そして、脳で作ったイメージを、自律神経を使って一瞬で心臓に届けるように魔力操作でルートを構成する。


道はできた。あとはやってみるだけ。

地面に手を向ける。そして鉄舟の言っていたようにイメージする。そのイメージが前頭葉から頚神経叢を経て心臓の魔力回路に到着するまで、0コンマ数秒。心臓から腕頭動脈を流れた魔力が手のひらに到達するまでに1秒。

高さ2mほどの、やや燻んだ灰色の金属板が理一と鉄舟の前に聳えた。


「できた…」

「すげぇ、マジかよ…本当に無詠唱魔法やりやがった…」


無詠唱魔法をシステムとして構築出来たことに理一は充実感でガッツポーズをし、そんな理一を鉄舟は呆れとも関心ともつかない気持ちで見つめるのだった。


ちなみにこの方法はみんなにも解剖図付き(作画理一)で説明したのだが、理一ほど魔力操作の訓練をしていなかったので、みんなが無詠唱で魔法を使えるようになるのは、もう少し先になりそうだ。

もう少し修行が必要だ。そうして、またあの遺跡にリベンジする。


「あそこの魔物には安吾の仕返しをしてやらなきゃ、僕の気が済まないよ」


と理一が言ったので、また冒険者として遺跡に行けることになり、残りの3人は俄然やる気が出たのだった。

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