地下第1階層
この遺跡は長さ約100m幅30m程の範囲で基礎が残っており、その上にその規模の建物があったことを示している。その上層には先程理一が一掃した亡者達が常に徘徊しており、奥の一部分からまた新たに湧き出ている。
多少はこの遺跡も調査されており、現時点では岩山を活用した遺跡は地上部分ではなく、地下部分に階層が伸びており、地下2階までは確認されている。
地上部分に湧き出てくるゾンビやスケルトンを薙ぎ払いながら、地下へと続く階段を見つけた。その階段に向かって、菊が炎弾をぶつけて蹴散らす。とりあえず階段が人2人が通れる程度の狭さなので、亡者を吹き飛ばさないと邪魔だからだ。それ以降は火気厳禁。地下は空気が循環しにくいので、火を使うと窒息のリスクがある。
古い砂岩が、足を進めるごとに階段の角から崩れる。一体どれほど昔の遺跡なのだろうか。外構もなにもかも風化しているのを見ると、数百年とは言わないはずだ。
階段を降りるにつれ、そのからの光が薄らいで暗闇に支配される。理一が光灯の魔法で明かりをつけると、降り立った地下一階のフロアには、ゾンビ映画もかくやという数の亡者が出迎えた。
背後を菊の光壁で守りながら、園生の指示でクロが風を纏った爪を振ってかまいたちを起こしてまとめて10体ほど切り裂き、安吾が1秒に1体という的確さで首を斬り飛ばし、鉄舟が力任せに、鉈でかち割っていく。鉄舟が鉈を使っているのは、普段の仕事が金槌で鉄を打つという、振り下ろす動作が多いからだ。打撃と斬撃を同時に与えられる鉈という道具は、鉄舟には使い勝手が良かった。
理一はというと、後衛に徹して安吾の刀に、光魔法の属性を付与し続けている。鉈は鉄舟が作っているときに理一の光属性の魔力を流しておいたので、光属性が付与されているのだが、安吾の刀はどういうわけか前世から持ってきたものだ。刀は剣士の魂らしいので、持ってこれたのだろうか。
理一専属護衛として護り続けてきた愛着のある刀らしいが、ただの刀でもあるので、光属性を纏わせているのだ。
ただ、安吾の刀を鑑定したらしい鉄舟は首を傾げていたが、それは今は割愛するとして。
同時に理一は気配感知で索敵も行なっている。
最終確認としてスルホン村にいるときに、ステータスチェックをしたらスキルが増えていた。いつの間にやら増えたのか不明だが、これは使わない手はないとみんなで訓練した。というのも、新しく手に入れた魔力操作というスキルは、多少の訓練が必要な代物だったからだ。
■魔力操作
自身や他者の魔力の流れを感知し、それを操作するもの。他者の魔力の感知、魔力の相殺、部分的な身体強化、魔力の放出などが可能になるが、これには修練を要する。
検索するとこういう結果が出てきて、他者の魔力の感知だけでも出来るようになれば、索敵に有利だということになった。
鉄舟と菊と園生は、気配を感知するというのが中々出来ずにいるが、理一と安吾は割と簡単に出来るようになった。
安吾の方は職業柄、殺気や気配というのに敏感だったし、理一も知覚過敏のスキルを持っていたので、おそらくその相乗効果だろう。
今まで自分の知覚に意識を向けたことがなかったが、これも意識していれば練度が上がるに違いない。
当然理一達の目の前には沢山の亡者がいるので、索敵に引っかかるどころではないのだが、探しているのは大きく強い魔力の持ち主だ。ソナーのように広がる理一の網に、一つの反応が引っかかった。
この階層にある、なんの反応もない部屋になんとか滑り込み、クロのお尻でドアを抑えてもらい、ひとまず腰を落ち着ける。
休憩は大事だ。町の薬屋で買った栄養剤を飲んでおく。回復再生はあるが、理一は同時進行で複数の魔法を行使しているので、中々疲れる。こんなところで魔力切れを起こすくらいなら、多少薬を無駄にしたほうがマシだ。
「今の道をまっすぐ行って、突き当たりを右に曲がった方向に、強い反応があった」
「じゃぁそこを目指すんだねぇ」
はぁ、と鉄舟が溜息をつく。彼も疲労した顔だ。
「あの数が相手となると、流石に肉弾戦は疲れるぜ。なぁ安吾?」
「自分はそうでもありませんね。まだいけます」
「お前の体はどうなってんだ、この体力オバケ」
「」
何故かディスられた安吾は閉口してしまった。だが、みんな多少なりと疲労はしているので、休憩は必要だ。とは言え、時間的な問題もある。
出来れば今日中に大物を一体でも倒したいが、それが出来ないならここに野営しなければならないのだ。出来ることなら、それは避けたい。
ドンドンとドアを叩く振動を尻に感じているらしいクロを見上げる。
「クロ、腹時計はどんな具合?」
「昼にはまだ少し早い。出されたら食うが」
クロの腹時計はかなり正確だ。時計がわりにもなる、全く優れた犬である。
クロの言葉から想像すると、恐らく11時ごろだ。今から昼食にして敵のところに向かったほうがいいだろう。
理一にお昼ご飯と聞いて、クロが長い尻尾を嬉しそうに振っている。こういう状況で呑気に園生にクッキングしてもらうわけにもいかないので、園生にはご飯を作り置きして異空間コンテナに保存してもらっていた。食いしん坊のクロがいるので、相当な量を作り置きしたらしい。
とりあえず昼食は、クロが獲ってきた牛っぽい魔物の肉を使ったハンバーガーで済ませた。クロにはハンバーグだ。
「む、これは美味い。肉汁がたまらん」
クロが口の周りをデミグラスソースと肉汁でベチャベチャにしていたので、園生が水を魔法で出して洗っていた。その間もクロの尻は外から壁ドンされていたらしく「ええい邪魔するな」と外に威圧して黙らせていた。
クロにとって食事の時間は、妨げることの許されないプライスレスな時間である。
昼休憩が終わって、一旦外に出る。すぐそばに亡者がたむろしているのは分かりきっているので、クロのかまいたちでまとめて吹っ飛ばして出た。
疲れも取れて腹もくちくなったので、元気の出た5人と1匹は素早く強い反応のあった場所へと向かう。
そこには2体の反応があった。これだけ近寄れば、気配感知など使わなくてもわかる。50体ほどのスケルトンの向こう側に、スケルトンジェネラルが2体いた。
安吾と鉄舟が前衛で構え、その後ろに園生とクロがたち、後衛に理一と菊が控える。理一が周囲に光壁を張ると、まずは梅雨払いとばかりに、菊の光輪が辺りを眩しく照らした。




