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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
グルコス遺跡
23/115

何事にも準備は必要

理一達が力不足であることは、自分たちもわかっているつもりだ。あの亡者達とちゃんと戦った訳でもないのに、その巣窟に足を運ぶなど、自殺行為だと言われるのは当然だろう。

冒険者協会に遺跡調査の依頼を受けに行った時も、Dランクとはいえ登録したての新人には無理だと、受付嬢に心配された。


だから、その前に冒険者協会の協会長に話を持って行ったのだ。話題の冒険者である、黒犬旅団には協会長も興味があったらしく、会いたいと受付嬢に伝えたら、すぐに予定を教えてくれた。

協会長に持ちかけた相談というのは、領主と連携して、軍と協会で大々的に討伐軍を編成できないかという相談だった。


亡者達は強いというより、非常に面倒くさい敵であり、しかもその数がとにかく多い。ならばこちらも数をぶつけようと、以前も何度も同じように混成軍を編成して、討伐に向かったことはあるのだそうだ。だが、どうにも決め手に欠けて、攻めあぐねている。


協会長は黒犬旅団の、主にクロの存在によって、もしやと考えたらしいが、領主の方が最近は及び腰になっているそうだ。

年に2日のことであるし、ワシントン村を初めとして、光属性の魔法使いによって、ある程度は防衛が出来ているというのも、領主が積極的になれない理由だったし、小さな村の点在するこの領地で、無闇に徴兵した兵士を死地に追いやるべきではないと考えているようだった。


とかく、政というのはあちらを立てればこちらが立たないもので、そこに立つ人間が選択できるのは、ベストではなくベター。そのベターが現状維持という訳だ。

協会長も白髪の目立つ髪を、わしわしとかいてみせる。元冒険者らしい無骨な手だ。


「君達の言っていることもわかるんだ。諸悪の根源であるグルコス遺跡をどうにかしない限りは、シャバハの夜が明けることはない。だが、我々だけではどうにも出来ない。それが現実なんだ。一応改めて募集の告知はしておくが、数を揃えるのは諦めてくれ」

「わかりました。その代わりと言ってはなんですが」


というのは建前で、実はここからが本題だったりする。領主の軍と冒険者の混成軍を一朝一夕で作って出すなど、出来るわけがない。最初から却下されるのは織り込み済みだ。というより、却下させるのが目的だった。一回断らせた方が、断った方は良心の呵責で次の要求を飲み込みやすいというのは、使い古された心理戦だ。


「なんだ?」

「僕らがグルコス遺跡に赴いたところで、いくらクロがいても、完全踏破は困難だと考えています。ですが、僕はそれでいいと思っているんです」

「なんだって?」

「勿論、完全踏破出来ることがベストではありますが、光魔法を使ってシャバハの夜から村を守ることを生業としている人もいます。その人から仕事を奪うのは良くない」

「確かに、そういう面もあるな」

「あの亡者達の中に、スケルトンジェネラルなどの高位の魔物の存在を確認しています。高位の魔物さえ倒してしまえば、他は数が多くとも光壁での防御が可能な有象無象。ですから、高位の魔物を討伐した時点で、ある程度依頼を達成したと認定して欲しいんです」

「うぅーむ」


しばらく協会長は自分の手を見つめて考え込んで、うんうん唸った後膝を叩いた。


「グルコス遺跡にどの程度高位の魔物が存在しているかは不明だ。だから、それらを討伐しただけで依頼を達成したと認定するのは難しい。だが、亡者達が高位の魔物の指揮下に置かれていることを考えても、君の提案は有益だと私は考える。遺跡調査と別に、高位の亡者討伐として新たに依頼を出してもらえるよう領主様に進言しよう。その依頼を受けて達成とする。それでどうだろう」

「いいでしょう。それでお願いします」

「あいわかった」


そういう風に話がまとまって、領主もそれならと納得し、新たに高位の亡者討伐の依頼が出された。これは討伐した亡者とその数によって報酬が支払われる事になる。

これには雑魚は含まれないが、この依頼を受ける冒険者達が高位の魔物を標的に行動した方が、効率的に討伐が進むと考えたからだ。




その依頼を受けた形で、スルホン村を経由した後岩山を超えた。

岩山を登って、その頂上から100mほど下ったところに、その遺跡はあった。残されているのは基礎だけで、そこに何があったのかは判断がつかない。風の噂では神殿だったとのことだが、その詳細も不明だ。


眼下に臨むその遺跡の周辺には、朝だというのに幽体のレイスや骸骨のスケルトンがたむろしている。この世界のオバケに、日光の有無は関係ないらしい。


光魔法を使えば、アンデッドは消滅することができる。一応物理攻撃や火魔法でも倒すことは出来るが、時間が経つと復活するそうだ。何度倒しても復活してくる、この厄介さがアンデッドの特徴で、これに長年苦しめられているわけだ。


「とりあえず、ここは一掃しよう」


この範囲にいる亡者達を片付けない事には、近づくこともできない。入ってから背後を取られてもまずいので、ここにいる亡者は全滅してもらう。


「光の魔力、x線γ線をもって、収束し放て。“光鏡”」


きらり、と10枚ほどの8角形の鏡が、理一の前に展開される。その鏡は太陽の光と放射線を収束し、位相を揃えて一気に亡者達の広範囲へと照射される。その光を浴びたレイスは溶けるように消え、スケルトンは瓦解し、ゾンビは腐り落ちる。


一撃で殆どのアンデッドを無力化した理一に、仲間達が驚愕の視線を向けるが、驚かれても困る。理一はそれどころではないくらい結構疲労してしまって、つい鉄舟に掴まった。


「これすごく疲れるよ…魔力だいぶ持っていかれた…」

「そんなんで大丈夫かよ…」

「一応回復再生はあるけどねぇ」

「しばらくはあたしが頑張るから」


なんだか先が思いやられるなぁと、クロはこの未熟な人間達に溜息をついたのだった。

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