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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
新しい仲間とメトホルの町
19/115

入るだけでも一苦労

理一達がメトホルの町に着いた時、門の前では5組ほどが入門待ちをしていた。理一達がその順番待ちに並ぼうと近寄ると、先に並んでいた隊商が恐慌状態に陥り、旅人が泡を吹いて倒れ、門兵達が剣を構え、魔法使いが詠唱を始めた。


「え、待って…」

「ひっ!」

「やっぱりか! 」


いきなり殺気立つ門前で、コリンと園生は狼狽えていたが、理一はなんとなくこうなる予感がしたので、すかさず光壁を展開して防御した。

とはいえ、こんなに突然攻撃されると思っていなかったので、咄嗟に無詠唱で出したので、普段ほどの堅牢さは無かったが、魔法使いの炎弾の魔法は弾けたので良しとする。


ちょっとダメかなと思っていたが、やっぱりダメだったので、クロにお願いして少し離れたところに行ってもらい、理一だけ門前に進んだ。

そして、悪魔の使いを見るような目で理一を睨む面々と、メトホルの門兵に、努めて明るく笑いかけた。


「驚かせてしまって申し訳ありません。あれは仲間のペットです。町では大人しくするように躾ていますので安全です。あのペットの背中に、重傷を負った怪我人が乗っています。恐らくこの町の冒険者だと思うので、医者に連れて行きたいのです。ですから、僕らも中に入れてもらいたいのですが」


門兵達は信じられないものを見るような目をして理一を見ている。だが、時間をかけて混乱状態から回復してくると、理一の言ったことが理解できたようで、一人の兵士が「なんだ、契約獣か」と言ったことで、一気に門前の空気が和らいだ。


「あれ、バンダースナッチだろう? 魔の島から脱走したとは聞いていたが、まさか契約獣になっているとは驚いた」

「そんなに有名なんですか?」

「知らないのか? 災害指定魔獣で、全国に討伐依頼が出ていたのに」

「山に篭っていたものですから」


門兵の与太話に付き合わされたが、一応中には入れてくれると言う事になった。それでクロを呼び寄せると、良いと言った割に、クロの姿を見た人達はやはり怯えている。その態度が気に入らなかったのか、クロの雰囲気に不穏なものが混じり始める。


「もぉ〜、クロ? 脅しちゃダメよぅ、メッ!」


園生にそんな叱られ方をされた災害指定魔獣は、自分の身の上が情けなくなったのか、すぅっと目から光と元気が無くなった。

食いしん坊だったがために、プライドも何もあったものではない。旅の恥はかき捨てとは、まさにこれである。


一方周りの人達は、その様子を見てちゃんと躾が行き届いていると安心したのか、もう攻撃をしてきたりはしなかった。逃げられはしたが。


順番が回ってきて、身分証の提示を求められる。村長からもらったカードを差し出すと、門兵は理一の身分証を見て首を傾げた。


「何故ファミリーネームが無い?」


その質問には理一は本気で困った。


「代々我が一族の直系には苗字というものがありません。何故なら「その家の理一」ではなく、「この国の理一」だからです」


とは口が裂けても言えない。通用するだろうかと考えながら、途中で考えた設定を小出しにしてみる。


「孤児でして、家はありません」

「孤児で身分証を手に入れられたのか。珍しい…」


言いながら門兵は理一からクロに視線を注ぐ。その視線がもう一度理一に戻ってきて、なんとも言えない顔をしている。

その顔には、バンダースナッチを連れている時点で、ある意味普通じゃ無いのだから、身分証を持っているくらいで、最早驚きもない。そう書いてあるのが見て取れた。


あっさりと門兵は理一を通すと、今度はビクビクしながら園生の身分証を確認し、恐る恐るクロの動向に注意をお願いしていた。

クロの上から顔をのぞかせていたコリンも門兵に身分証を差し出し、難なくクリア。ようやく3人と1匹はメトホルの街に入ることができた。


門前の近くには案内所があって、そこで医者の場所を聞いた。医者の家までのっしのっしと歩くクロは、非常に悪目立ちしていたが仕方がない。ペットにした以上は、責任を持って飼うつもりだ。今更放し飼いにはしない。


クロは言いつけ通り、町中で威嚇したりはしなかったが、クロを見て勝手に倒れる分には、それはもうどうしようもなかった。精神的ショックに効果があるかは不明だが、一応治癒魔法をかけて回った。


コリンを医者のところに預けに行く。医者の見立てでは、殆どの外傷は治癒しているとのことだったが、外傷によって失われた血液が回復していないので、貧血が治るまでは療養が必要とのことだった。

コリンは数日、元々取っていた宿で療養する事になり、彼女の世話のために、理一達もその宿に泊まる事にした。


「全く問題ない。わしがその辺の魔物に劣るわけがない」


とクロが自信満々に言うので、クロと園生には安吾達の所に呼びに戻ってもらった。


女性の部屋に入るのは少し抵抗があったものの、コリンを寝かしつけてコリンや仲間の荷物を整理させてもらっていると、コリンが身じろぎをして声をかけてきた。


「リヒト、色々ありがとう。本当に助かったわ」

「いいんだ。困った時はお互い様というからね」

「親切な人ね」

「そうでもないよ。君が元気になったら、冒険者協会に案内してもらおうという下心があるからね」

「ふふ、そんな事? お安い御用よ」


話しながら手早く荷物を整理して、荷物の中から手拭いを引っ張り出した理一は、魔法で水を出してそれを濡らし、コリンの額の上に置いた。


「まだ少し熱がある。みんなが戻るまでは僕がいるから、休んでいるといいよ」

「ええ、ありがとう」


コリンのベッドのそばに椅子を引きずってきて、理一もそこに腰掛ける。それを見届けたコリンは、静かに目を閉じて寝息を立て始めた。

居るだけで何もすることがないので、理一は久し振りにヘルプ機能を立ち上げる。


検索:契約獣


■契約獣

相互の取り決めによって、契約者と被契約者間で主従関係を決定するもの。主に魔物が使役される。契約の際名付けをすると、契約獣はより高い能力を獲得できる代わりに従属し、契約者は生涯契約獣を管理監督保護する義務が生じる。


要するに、雇用契約みたいなものだ。園生に生涯クロを保障する義務があると言うことは、クロは園生に永久就職したようなものだ。クロは園生の命令を聞く代わりに、対価として餌が与えられる。この二者間ではそういう契約だ。

災害指定魔獣とか言われている割に、本当にそれで良かったのかと思わなくもないが、言い出したのはクロの方だ。理一は何も言うまいと自分を納得させる。



続いて、と理一は寝ているコリンに視線を注ぐ。人に対してこれをするのは如何なものかと思ったが、寝ているならバレないのではないかと、誘惑と自制心が葛藤する。でもちょっとだけ。


■コリン=エステル

種族:ハーフエルフ

LV:34

ジョブ:Dランク冒険者 射手

スキル:狙撃 木属性

ギフト:強運

禁忌:なし


鑑定してみた。人に対して鑑定を使ったのは初めてだったので、なんだか緊張した。主にバレないかどうかでだが。

人に対して鑑定をしたのは初めてだからわからないが、案外スキルなどはさっぱりしているものだ。こう言うものなのだろうか。


それに、耳が尖っていると思ったが、やはり彼女は人間ではなくハーフエルフだったらしい。ハーフということは、エルフと他の種族の合いの子なのだろう。

などとコリンを見ながら考えていたら、コリンがこちらを見ている事に気が付いて、パチリと目が合った。


「あ…」

「そんなにジッと見られると、流石に恥ずかしいわ」

「いや、その、そうだよね。失礼だった。謝罪するよ。そう言うつもりじゃなかったんだ」


鑑定をしている間は、相手の正面にステータスが表示されるものだから、相手にしてみたらジロジロみられているように感じるようだった。

それをどう受け取ったのかは考えたくないが、顔を赤くしてシーツで半分顔を隠すコリンに居たたまれなくなり、理一は「失礼する」と呟くように言って、コリンの部屋を退室した。

出て行く理一の背中を見送って、やはり少々赤面しながら、コリンは愉快そうに「ふふっ」と笑い、シーツに顔を埋めた。


そうして、妙な空気から脱走した理一が1階の食堂で待つ事数分、ようやく園生に連れられた安吾達が合流したのだった。

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