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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
新しい仲間とメトホルの町
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初めての野宿

今後の旅生活のためには、冒険者登録は必須だ。その登録ができるのは、ある程度の規模の町にある冒険者協会に行かなければならない。

村長に聞いたところによると、領主のお膝元の町であるメトホルが一番近いらしい。近いといっても馬車で1日という距離なので、徒歩で移動しなければならない理一達は、ゆっくりと3日ほどかけて向かうことにした。


マップには現在地とメトホルが示されているので、迷子の心配はない。心配があるとすれば、道中無事に野宿が出来るかということだ。

野営に関する経験と知識を持ち合わせているのは、安吾だけだ。この辺りは安吾に指導してもらいながら、慣れていくしかない。

はじめての野宿に女子2人は不安そうだが、この世界を旅するなら必ず付いて回る問題なので、これも慣れるしかないだろう。


初日は途中に村があったので、その村の宿に泊めてもらった。ちなみに、お金は村長が餞別として各自に金貨3枚ずつ与えてくれた。本当に頭が上がらない。

その宿は風呂もなく、食事は1階の食堂で簡単なものを注文し、薄汚れたベッドに寝かされた。部屋は男女別で取ったので、安吾と鉄舟がいた。


月のないこの世界は、夜は真っ暗になる。だから、暖炉やランプで明かりとりをするのだが、この宿は夜の明かりは別料金だ。

勿体無いので、理一が魔法で明かりをつける。


「光の魔力を持って、明かりを灯せ。“光灯”」


光の球を浮かべて天井付近に配置する。1個だと少ないので、10個並べてみた。安吾が魔力切れを心配するが、これも訓練だと思ってやってみる。切れそうになったら寝ればいいのだ。

そうして人心地ついたので、理一が口を開く。


「この世界では、このクオリティが普通なのかな」

「それ、自分も思いました」

「俺も」


確かに安かった。でも、これはないだろうと思う。お金を払ってこれならば、正直野宿の方がマシだと思える。


「どうせ泊まるなら、そこそこの宿に泊まるべきだな。それ以外は野宿でいいぜ」

「自分も同意です」

「僕もそう思う。菊と園生はどうだろう」

「女性はこんな宿でも、泊まった方がいいのかもしれませんね。外には獣も虫もいますし」

「この宿もダニとかはいそうだけどな」


翌日さっさと宿を出て、この件を女子2人に相談してみた。虫に刺されたらしい腕をバリバリ掻きながら、交代で結界を貼りながら夜の番をして、自分たちで管理している寝袋で寝た方がマシだと菊が言って、園生も何度も頷いていた。


というわけで、2日目は野宿になった。日が落ちるとすぐに真っ暗になるので、夕方になる前から準備を始めた。誰かが野宿に使用しただろう、道の脇の少し開けたところに腰を落ち着ける。森から焚き木になりそうな枝を拾ってきて、川を探して水を汲んでおく。


今日のところは、ワシントン村から食材を持たされたので、それで園生にご飯を作ってもらう。パンとスープとサラダが出てきた。園生としては調理環境にかなり不満があるらしいので、せめて街に行ったら調理器具を揃えなければと考えた。


検証してみたが、異空間コンテナは時間経過がないようで、ナマモノを入れておいても問題がなかった。

ただ、生き物は入らなかったので、魚などはシメておかなければならない。あくまでも物置だ。


テントを男女別で張って、砂時計を使って朝まで交代で番をする。ここで理一が異議を唱える。


「園生と菊は休んでいてほしい。女性に夜の番なんてさせられない」


理一の提案に、園生と菊は揃って苦笑する。


「また古い考えを持ち出してきたもんだね」

「気持ちは嬉しいけどぉ、大丈夫だよぉ」

「しかし、女性が夜に一人で見張りをするというのが、僕にはどうにも…」

「わかった。じゃぁあたしと園生が二人で夜番するのはどう?」


ちょっと悩んだ理一が、それならと納得して、女性は二人で夜番をすることになった。この件に関して、鉄舟と安吾は特に何も言わなかったし、気にも留めていないようだ。


順番になって、安吾に起こされた菊と園生が夜番を始める。獣除けに火は絶やさないように言われたので、時々小枝を放り込む。


「ねぇ、寝る前に理一が、あたし達は夜番しなくていいって言ったじゃない?」

「うん」

「どう思った?」

「フェリスが恋するのもわかるなぁ、理一って天然タラシだなぁって」

「ぶはっ」


思わず吹き出した菊は慌てて口を手で押さえて、男性テントに動きがないか確認して、声を殺して笑っている。


「菊はどう思ったのぉ?」

「いや、なんか、そういえばあたし女だったんだって」

「忘れてたの?」

「忘れてたわけじゃないけど、女扱いをされたのは、久しぶりのような気がして」

「言われてみるとぉ、四谷園生として尊重はされてたけどぉ、女性として扱われたのは、私も久しぶりかもぉ」

「人間歳をとると、性別なんてあってないようなものだからね」


なので、2人には理一の言動が、なんだか新鮮だった。それに、今は若い体になっているので、今後も男性からは女性として見られるわけである。


「変な男に引っかからないように、気をつけなきゃだわ」

「免疫がなくなってそうだよねぇ。風邪引くみたいに変な人を好きになったらどうしよう〜」

「しばらくは外部を遮断して、理一と安吾と鉄舟で免疫を鍛えましょ」

「そうしましょ〜」


彼女達は火の番を再開したが、彼女達は知らない。男3人が起きていて、今の会話をバッチリ聞いていたことを。安吾は交代で寝るところだったし、安吾が戻ってきたときに物音で鉄舟は目が覚めて、女子二人が心配だった理一は自動で起きた。


一応寝たふりをしていた方がいいというのは、互いの雰囲気で一致している。だから会話もしない。火の明かりがほんのり入ってくるテントの中で、互いに視線で「寝ろ」と言い合って、3人はモゾモゾと寝袋に包まる。


なんだか妙な、複雑な雰囲気を醸し出して男性テントに、ふと菊が視線を向ける。


「どうしたのぉ?」

「なにかいる」


菊がそう発した瞬間、男性テントから3人とも飛び出してきた。すぐさま鉄舟と安吾が構え、理一が光壁を張る。3人がすぐに飛び出してきたことに菊達は驚いたが、菊も園生も立ち上がった。


ガサリとこちらに近づく音がする。警戒する5人は茂みを凝視する。その茂みを割って現れたのは、無残にも鎧を叩き割られ、身体中にべっとりと血糊が付着した、若い女性だった。


「助け…て」


絞り出すような声でそれだけ言うと、女性はその場に崩れ落ちた。

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