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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
フィンチ伯爵領
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劉の自白

 劉の死刑が確定して、この事件自体は終息した。だが、これで終わりでは無いと理一達は考えていて、現在取り調べをしている。


 とっくにバカンスは終わり、織姫達を含めて、みんなには先に学院に戻ってもらった。理一とエリザベスだけがフィンチ領に残っている。


 死刑宣告を受けたショックから、劉は塞ぎ込んで中々口を開いてくれなかった。地下牢の獄卒が「拷問しましょうか?」と言ってきたが、遠慮した。

 それで情報を得られるならいいが、得られない可能性もあるし、単純に拷問は寝覚めが悪い。

 劉のような人間には拷問は効果的かもしれないが、それでもだ。



 独房で自分の膝を抱いて、わかりやすく塞ぎ込んでいる劉に、理一が魔法をかける。

 それは闇属性魔法の自白の魔法。


 闇属性は、人間が保有していることは極めて稀だと言われている。闇属性を持つのは、魔族と魔物だ。そして魔族だからと言って、全てが闇属性な訳でもない。


 織姫の魅了のように、闇属性には人の心を操る魔法が多い。持っている人間が多ければ、きっと世界は混乱する。この辺りは神の采配もあるのかもしれない。



 理一の魔法によって、劉がややぼうっとした顔を上げた。獄卒に鍵を開けてもらって、理一が中に入る。


 魔法をかけてまで、理一が聞きたかったこと。


「劉、君に魔法を教えたのは誰だい?」


 この世界の言語を一ヶ国語も操れないのに、魔法だけは操れるなど、これはどう考えても作為的なものを感じる。

 現に劉は、詠唱だけはこちらの言語で出来ているし、魔法陣を描くにあたり魔法言語も習得している。


 どうせなら劉に挨拶の一つでも教えてあげれば良かったのに、その相手は魔法だけを教えた。

 いや、魔法しか教えなかった。


 劉がぼうっとした様子のまま答えた。


「ジョージ・クルス」

「その人も余所者?」

「そうだと言っていた」

「何者だい?」

「創神魔術学会の幹部」

「やっぱり……」


 予想が確信に変わった。魔術を極めれば、自らが神に至ると謳う創神魔術学会。その幹部が余所者で、きっと彼らが神殺しを訴える「頭のおかしい色白」の終着点。

 宗教という形態で人々を惑わし勢力を広げ、その一方で劉の様に路頭に迷った余所者を救済したかに見せかけて、その実唆している。


 理一が、劉は利用されたと考えるのは、あの召喚魔法に欠陥があったからだ。「どこから召喚するか」この要素が抜け落ちていた。

 召喚魔法において、どこからどこへというのは、非常に重要な要素だ。それを忘れるなどあり得ない。

 きっと劉は最初から、この点を教えてもらっていない。


 おそらくジョージ・クルスという人物は、劉に魔神を召喚させる気などなかったのだ。この地で魔物を呼び出して、混乱させるための当て馬。


 何のために?


 そこまで考えて、理一はハッとした。


(しまった、僕らはまんまと罠にはまったんだ)


 この事件を機に、色白や余所者への差別は一層加速する。理一達は確かに大丈夫だが、理一達以外の人達はそうはいかない。


 差別され迫害された色白の中には、劉の様にこの世界の人間達を恨む人が現れるかも知れない。その人達に、創神魔術学会が悪魔の囁きを吹き込む。そうして一層勢力を拡大する。

 この世界を壊そうとする勢力が。


 そのために、ジョージ・クルスの企みのために、劉は操られ死んでいく。


 理一は劉をとても憐れに思って、変わらずぼうっとする劉を抱きしめた。


「ごめん。君を早く見つけられなくてごめん。僕らなら、君にもっと違うことを教えてあげられたのに。言葉も、この世界が素晴らしいことも、僕なら教えてあげられたのに」


 この世界に絶望して、死を待つしかない劉が気の毒で。

 やはり劉はぼうっとしながらも、理一の温度を感じていた。そして、ぽつりと言った。


「もっと早く、お前に出会いたかった」


 劉の言葉に、理一の目から涙が溢れた。

 それと同時に、創神魔術学会に対して、強烈に怒りを感じた。



 独房から出て、地下牢を歩く。


(創神魔術学会。許すものか。これ以上、劉のような人間を作ってはいけない)


 理一は余所者を救済と、創神魔術学会の打倒を決意した。

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