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黒犬旅団の異世界旅行記  作者: 時任雪緒
始まりの村
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シャバハの夜:魔法使いラズ

 二つの太陽が沈みゆく、オレンジ色の夕暮れ。篝火を灯された村の外周は、武装した村人達が目を光らせる。村にあった元は「10級:とりあえず使えるレベル」の剣や槍は、いくつかを鉄舟が打ち直したことで、「5級:一流刀匠が遊びで作ったレベル」にグレードアップしていた。


 ちなみにこれは鉄舟に鑑定で見てみろと言われたので見た結果だ。鑑定してみると、色んなものに色んな評価が付いていて面白かった。


 それはさておいて。


 安吾も武装した村人達と一緒に、村の外を警戒している。鉄舟も多少は剣道の覚えがあるらしく、自分で打った剣を持って警戒に当たっていた。


 理一と菊は一番手だと言われて、それぞれ西の端と東の端に配置された。光属性持ちの魔法使いは他にもいるが、2日間も防衛しなければならないので、交代でやるらしい。その一番目に自分たちが置かれた。


 緊張感、不安が理一の中に渦巻いていたが、突如として怖気の走る空気が理一の肌を撫で付ける。そして、磨りガラスで爪を研いだような、聴く者の神経をかき乱すような悲鳴が聞こえた。


 来たぞ、と誰かが言った。それを合図にしたように、村の中央にいるラズから大声で号令がかかった。


「新人! 大至急防御展開っ!」

「「はいっ!」」


  菊と理一は、言われた通りに前を向いて、手を差し出す。魔力を練り上げて、詠唱する。


「光の魔力をもって、ここに壁を示し、我を守れ。“光壁”!」


 出現した光の壁は、一瞬理一の前に白い膜を張ったが、それはすぐに光の粉になって足元に降りていった。魔法が失敗したのかと動揺したが、光の粉が降りていった地面には、円形と線と文字が浮かんでいて、理一の光の魔力がその線をなぞっていく。


 その光の魔力の行方を視線でたどると、円形と文字と線を行く光の魔力は、村の中央にいるラズの足元に集中していった。

 そして、全方位からの魔力が収束した瞬間、更にラズが魔力を練り上げて、その図形に魔力を注ぎ込む。


「光壁防御術式起動!」


 理一達とラズの魔力を受けて、その図形ーー魔法陣全体が光り輝き、立ち上った光が村全体を覆う結界となった。「よしっ!」とラズがガッツポーズをしているのを横目に見て、結界を見上げて理一達は目を丸くしていたが、ラズから怒号が飛んだ。


「アンタ達、呆けてんじゃないよ! 集中して魔力流しなさい!」

「はい!」

「すいません!」


 理一と菊は怒られて慌てて意識を魔法に戻す。

 それにしても、この魔法はすごい。村全体を覆い隠す結界の魔法なんて、きっとすごく難易度が高いに違いない。それを仕切っているラズは、きっと只者ではないのだろう。


 そんなことを考えながら視線を前方に移すと、理一の視界にも亡霊達が映る。ガクン、カチャ、ギシ。およそ生物からは聞こえない音を立てて歩み寄る、骸骨の群れ。精神的に抉られるような悲鳴をあげて飛び交う半透明の亡霊。

 はっきり言って理一は、亡霊達のビジュアルだけで精神崩壊思想だった。


(なんだあれは……あり得ない、怖い、汚らわしい、近づくな、同じ空気を吸うのも嫌だ、受け付けない)


 全身から拒絶を感じている理一の目の前まで、亡霊達が迫る。光の壁のおかげで中に入ってくることはないが、しばらく右往左往して、光の壁に斬りかかって失敗、体当たりして瓦解。それでもバンバンとぶち当たってきて、理一の目の前に骸骨の山が築かれる。

 背筋が凍る光景に、理一はついに叫んだ。


「生理的に無理! 近寄るな!」


 本当に本気で近づいて欲しくない。理一は全力で魔力を練り上げて、魔法陣へと送り込む。それに気づいたラズが、「クラン、ストロ」と仲間の魔法使いを呼び寄せて、理一のいる方を顎でくいっと示す。クランとストロの2人はすぐに理一の側に行って控えた。


 理一は必死になって魔力を注いだ。この村を襲って欲しくなかったし、自分も直接接触するのは本気で嫌だったのだ。だから全力で頑張って、気がついたら目の前がグルンと回転して、強かに後頭部を打ち付けたところで、意識を失った。


 魔力切れを起こして倒れた理一の代わりに、すかさずクランが魔力を注ぎ始め、ストロが理一を引きずって詰所に退避させる。

 それを見届けて溜息をついているラズのところに、ゴードンが腕組みをしながらやってきた。


「織り込み済みって顔だな」

「まぁね。自分の魔力量が把握できていなくて、全力で魔力を使って、魔力切れ起こしてぶっ倒れるなんて、初心者にありがちなミスだからね」

「だから奴らが一番手だったってぇ訳だ」

「そうよ。回復したら、また働いてもらいたいからね。シャバハの夜は長いんだから」


 悪戯っぽく笑うラズに、参りましたとゴードンは苦笑して肩をすくめる。


「おー怖い。元宮廷魔術師殿は怖いねぇ」


 と悪態を吐くと、防衛にあたりつつ理一を心配する安吾に、心配するなと声をかけに行った。


 ゴードンの背中を見送って、ラズは小さく溜息をつく。そして、魔法陣が安定して起動しているかを確認しながら、流される魔力の調整もしていく。



 ラズはこの村の人間ではなかった。元々は他国の人間だ。その国で宮廷魔術師をしていた。


 ラズには仲の悪い同僚がいた。お互いに嫌い合っていた。ラズは関わりたくなかったが、なにかと相手が絡んでは張り合ってきて、本当に嫌いだった。その同僚は国のお偉いさんの愛人でもあった。そしてある時、そのお偉いさんが国庫から横領をしているという事件が挙がった。


 その共犯者として、同僚ではなくラズが仕立て上げられた。これは何かの間違いだと主張しても、誰も取り合ってくれなかった。同僚は、告発した別のお偉方とも出来ていて、摘発された貴族とラズを陥れるために共謀したのだ。


 誰もラズを信じてくれなかった。ラズを信じていても、助けようがなかった。ついに見捨てられて、追っ手をかけられた。

 国から逃亡し、ほとんど着の身着のままで、魔法で力任せに逃げてきた。


 そのラズを受け入れてくれた、この村を。自分を必要としてくれる、この村の人たちを。


(卑怯と言われたっていい。この村を守れるのなら、私はなんだってするわ)


 宮廷魔術師としての力量と知識を、この村は必要としている。この村の魔法使い筆頭として、ラズは必要とされている。

 だからラズは大規模な魔法陣を起動して、毎年この時期は48時間ぶっ続けで戦う。その為にラズが「いい人キャンペーン」で受けた恩恵は、莫大な魔力保有量。


 村の外にたむろする、数えるのも馬鹿らしいほどの数の亡霊達を睨む。あんな亡者達に、この村を蹂躙させたりはしない。


(この村は、私が守るんだから)


 ラズはまたひとつ、新たな恩恵を受ける。理一と菊の魂に触れて、その恩恵はクラスアップされる。


 ジョブ:守護者 を獲得しました。


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