表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻騒のカルネヴァーレ  作者: 武石まいたけ
chapter.6 Where there is a will, there is a way
72/123

プロローグ

台風に怯えながら唐突に湧いたイメージを文章にしました。

いつも、昔の事を思い出す。まだちっちゃいガキだった頃の事だ。


そうそう、あの頃は毎日腹が減って仕方なかった。それこそ、その辺を走り回るネズミやら虫やらがご馳走に見えたくらいだ……やべえだろ?


だって金がなくて食い物が買えなかったんだよ。


食い物自体は街に出ればいくらでもあった。屋台じゃ肉やら魚やら、あと虫か?なんでもいいがとにかく美味そうに調理された奴がごろごろ並べられてよ。ちょっとくらい、貰ってもいいんじゃねえかと思って手を出したら叩きのめされた。


だから俺はまず、飯を買う金を手に入れるために何でもやろうと思ったんだ。


そう、何でもだ。



「あー、住めば慣れるっていうけどなあ」


自販機からタバコを取り出し、俺は空を見た。俺の頭ん中には、今朝見た夢の光景がまだこびり着いてやがる。嫌な夢ほど、長いこと残るんだよな。


空には体が風船みたいに膨らんだ、鳥みたいな奴がピョアピョアとか変な鳴き声出しながら飛んでやがった。なんつう声してやがるんだよ、耳に残るわ。視線を下に下ろせば、街を通るのは異人の奴等だ。頭が二つあったり、そもそも頭がなかったり、身長4mくらいあったりーと。


とにかくこの街はとんでもねぇ所だ。何でこんなところに住もうと思ったんだろうかね。


「はいはい、お金の為ですよっ……と」


俺は自嘲気味に笑った。


そうだよ、外に出るにも金がいるんだよ畜生。おまけにこの『脚』の代金も払わないといけねえんだわ……。ガキの頃、この街に捨てられなくてよかったと心から思うね。


俺は前まで人に言えねえような仕事をしてたんだが、今は足を洗って別の仕事に就いている。そう簡単に洗えるもんじゃねえんだが……そこは『命の恩人』にお世話になったのさ。


街を歩いていると、どっからか爆発音が聞こえてきた。それから少し経ってもっかい爆発の音。暫くしたらパトカーのサイレンが聞こえ、何やらひと騒ぎが起きてるという事がわかった。


「あー、こええなあ。やべーなぁ」


とか呑気な言葉を呟いて、俺は職場に向かって歩きだした。


だってよ、今更遠くから爆発音が聞こえたくらいじゃ驚かないんだわ。

何でかって? そりゃあ、この街はそういうところなんだよ。気にしたら負けだ。俺の周りを歩く奴等も、みんな大して気にしちゃいねえ。もしかしたら、あの爆発が起きたところじゃ誰かが死んだのかもしれないがそれでも気にしねえんだ。


だってこの街はリンボ・シティなんだからな、暮らしてるのも頭のネジが一つや二つ飛んでる奴ばっかりなのさ。そりゃ、普通の人間も住んでたりするけど……そいつらがどんな目に遭うかはお察しくださいってところだ。俺はまぁ、普通の方だと自分じゃ思ってるけど最近ちょっとやばくなってきたかもしれねえわ。


「おや、エイト君じゃないか」


後ろから聞き覚えのある声がする。ああ、やばいやつの声だ……俺は聞こえないように小さく溜息をついて後ろを振り向いた。


「ああ、どうも。ウォルターさん」

「どうしたんだい、浮かない顔して。ただでさえ老け顔なのに、益々老けて見えるよ」

「おいやめろ、気にしてんだよ!」

「あら、エイト()()。今日もお仕事? 大変ね」


振り返ると、そこにはウォルターとかいう眼鏡かけたやべーやつと……俺の初恋の人が立っていた。いつ見ても綺麗だなあ、この人は。


「ええまぁ、生きてくには稼がねえといけないんで」

「そうだよ、生きるために頑張りたまえ。あと僕への恩を返すためにもね」

「あ、うん。頑張るよ……」

「君が忘れても、僕は忘れないから安心したまえ。大丈夫、忘れたら取り立てに行くだけだから……」


涼しい顔してえげつねえ事言いやがるよこの眼鏡。そう、恩人ってのはこのウォルターって奴だ。全く、とんでもねぇのに関わっちまったなあ……そのおかげでルナさんに会えたんだけど。今日も綺麗だなあ、羨ましいなぁ……ホント勿体無い事したなぁ。


「あんまり虐めちゃ可哀想よ、ウォルター。彼だって私たちの恩人なんだから」

「勿論、半分はジョークさ。ルナは優しいなぁ」

「私は、覚えてないけれど……」


今日のルナさんの服装は白地のワンピースの上に、白いケープを羽織ったお洒落なもんだ。対する眼鏡の服装は、いつものアレだ。もうこの色の服を見るだけでビビるようになっちまったよ。ま、俺だけじゃねえか……この眼鏡が苦手なのは。


あとルナさんから、さりげなくすげえ傷つく一言を言われちまったが俺は黙って耐えた。


話を聞くまでは、急に俺の事を覚えてねえって言うんだからショックだったよ。そりゃ、ショックのあまり吐いちまったくらいだった。今まで優しくしてくれたのに、急に素っ気なくなっちまって……。やっぱり殺されてもいいから襲っておけばよかったかな……、それは駄目だよな。


結局俺は、ルナさんに美味い紅茶を飲ませてやる事は出来なかったよ。


「じゃあ、僕達は用事があるから行くよ」

「またね、エイトさん」

「用事って、もしかしてあの爆発か??」

「まさか、あれくらいで僕が呼ばれることはないよ。この街の警察はとっても優秀だからねー」

「あ、そう……」

「まぁ、どんなに優秀でも無理な時は無理なんだけどね。その時は()()手伝ってあげるさ、友人からのお願いは聞いてあげないとね?」


この眼鏡は満面の笑みで言い放ちやがった。うわあ、こりゃ嫌われるわ……。こうして二人は何処かに向かって歩いて行った。ご丁寧に道を歩く人に挨拶してるが、皆ビビッて避けてやがる。絶対あれビビらせたくて声かけてるよな、街の人の反応見て楽しんでるよな。


「おっかねぇなあ」


俺は振り返って歩こうとすると、何かにぶつかった。ぶつかったのは俺よりも1mは背が高い異人の二人組だ。顔は目が沢山ある深海魚みたいな感じで、結構グロイデザインだった。そいつらは俺にメンチ切って、威圧してきやがった。


「あ? どこ見て歩いてんだ兄ちゃん」

「ちゃんと前見ろよ、あぶねえだろ? ん??」

「ああ、すまねえ。余所見してたわ……気をつけるよ」


適当にあしらって俺は通り過ぎようとするが、そいつらの片割れが俺の肩を掴んで引き止めた。


「待てや、どこ行くんだよ」

「職場だよ。食うために働いてんの、常識だろ??」

「おいおい、人にぶつかっといてその態度はないんじゃねえか?」

「だなあ、ヒューマンの分際で調子乗ってやがるぞ」


ああそうそう、居るにはいるんだよ。異人の中にもこういう奴等が……そりゃー見た目が違うだけで中身は俺らと大して変わんねえんだからなあ。当然だよな、当たり前だよな。


「やめてくれよ、ちょっと当たっただけじゃねえか。図体デカいくせして繊細すぎだろお前ら……そんな調子で彼女できんの?」

「ああ、決めた。このヒューマンちょっと捌くわ」


おい待て、さばくって何だよ。


「だな、ちょうど小腹も空いてきたところだ。」


小腹? 待て待て、もしかしてこいつら俺が食物に見えてんの? マジで??


「ちょっと来いやヒューマン」

「え、待って? 考え直そ?? どう見ても俺不味そうじゃん??」

「皮を剥いだらヒューマンはみんなおんなじだぜ? 猿って生き物知ってる?? あれと全然変わらねえよ」

「あれ、なんか今凄い格言聞いた気がする。皮はいだらヒューマンみんな同じか、いいねそれ……ってふざけんな!!」


そいつらは俺の腕をがっしりと掴んで、ずるずると引きずりやがった。ちょうど近くには人気の少ない路地があって……あ、やべえわこれ。


「はははは……誰かぁーッ! ヘールプ!!! プリーズ、ヘールプ!!!!」

「おいおい、叫んでも無駄だぜ? お前みたいなヒューマンなんか誰も助けちゃくれねえよ」

「助けに来た奴が新しいおやつになるだけだしな?」


ああ畜生、こういう街だったよココは。その言葉の通り、俺が必死にヘルプコールしてるのに皆そっぽを向くか、こいつらにビビって足早に逃げちまう奴ばかりだ。あ、体が大きくてムキムキなお兄さんが慌てて通報してくれてる。うれしーなー、間に合うかなー?? いや、さっさと助けろよ、何の為のマッスルだよてめぇ!!


そのまま俺は暗い路地に引きずり込まれちまった。ああ、ついてねえ……。



「あー、心が痛むわ」


俺の足元にはさっきの奴らが転がってる。あれから何が起きたって? そりゃあ、蹴り殺したんだよ。昔の職業柄、ちょっとばかし体鍛えてたし、俺の脚はウォルターが用意してくれた『異界の技術で作られたとってもクールですごい義足』らしくてな、人間だろうが異人だろうが軽く殺せるだけの蹴りが放てるんだ。


そりゃ、俺も最初はビビったよ……。


ようやく歩けるようになった時、リハビリついでに公園歩いてたらサッカーボールが目の前に転がってきた。公園の原っぱでサッカーしてた、スポーツ好きの元気そうなガキ共からの贈り物だな。んで、『こっちにそれを蹴ってよ、おじさーん!!』と頼むそいつらの為に、軽くシュートしてやったらなんか凄い勢いでぶっ飛んでな、そいつらの近くにあった木にめり込んじまったんだ。そいつら目を丸くして驚いてたなー、いや 俺も同じような顔になったけど。


まぁ、そんなシュートを放てる足で本気の蹴りを食らわされたら……死ぬよな?


「う・・・・・げ・・・・・」


あ、生きてたわ。やっぱ異人って丈夫だな、羨ましいよ。


「おう、生きてるな。でもやっぱりここらで動かなくなっとけ」

「ちょ、待っ────ぽぎゅしっ!!」


そいつの顔面目掛けてもう一発蹴りをくれてやる。すると、その首がやべえ角度に曲がった。ついでだから、隣でもう動かなくなってる奴にも同じように蹴りを食らわせた。俺の経験上、こう言う奴は半端に生かしておいたほうが面倒くさいんだよ、仕返ししてくるからな……。


「ごめん、聞こえなかったわ。もっかい言って?」

「……」

「流石に首折れたら無理か……でも食われるよりはマシだよな??」


それに、こいつら人を食いやがる。それも、皮を剥いでからな……同じ人間としてほっとけねえんだわ。冗談だったかもしれねえけどよ、冗談でも言っちゃいけねえ事くらいあるんだ。


やっちゃいけねえ事をやってきた俺が言うんだ、説得力あるだろ?


俺は暗い路地から上を見上げた、そこにはガキの頃に見たのと同じ色の空があった。あの頃の俺が、今の俺を見たらどう思うんだろうな?


生きてく上じゃ、どうしても何かをやらなきゃいけねえ時がやってくる。

それがどんな事でも、やらなきゃ何にもならねえ。だって生きる為なんだからよ……。


お前だって、俺と同じ立場だったら 何だってやったよな??




chapter.6 「Where there is a will, there is a way」 begins....



お好きな飲み物と一緒にのんびり読んで頂けると、目から紅茶流しながら喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ