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幻騒のカルネヴァーレ  作者: 武石まいたけ
chapter.5 Tomorrow is another day
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7

ほぼ同刻、13番街にある大型公民館にて


「パパー! ママー!! ウォルターお兄ちゃーん、どこー!? 怖いよー!!!」

「警部……」


幼児退行を起こしたアレックス警部を涙ながらに見つめる若い刑事。


彼は毎度記憶処理のお世話になっていたが、今の警部の姿を見て自分の記憶に関する考えを改める決意を固めた。この公民館には警部を含めた多くの被害者が集められており、まさに騒然とした様相を呈していた。中にはエイトやブレンダの姿もあり……


「私、ぶれんだって言うの! あなたの名前は??」

「……サチコです」

「さちこ? 変な名前ね!」

「……」

「ねぇ、何して遊ぶ!? 変な名前のさちこちゃん!」


警部と同じく幼児退行を引き起こしたブレンダが、派遣されたサチコを弄り倒していた。


公民館には彼女だけでなく、ブレンダの部下である生物班のメンバーや協会所属の魔法使いも駆けつけたが、その痛々しい姿を前に思わず皆、涙を流している。ブレンダがこの13番街に訪れた理由は、朝から起きていた集団幼児退行事件の調査の為だ。彼女の知識が何かの役に立つ……と思われた矢先にこれである。


「何して遊ぶ? 私は動物ごっこが好きなの!」

「そうなんですか……」

「さちこちゃんを動物で例えると~……チワワ?」

「ちわわって何ですか……」

「ええ~? さちこちゃん、チワワのこと知らないの~?」


記憶泥棒の実態が掴めなかった以上、未確認の異世界種が関与している可能性も否定できなかった事もあっての派遣だったが、今回は運が悪かったとしか言い様がない。


「パパーッ! ママーッ!! ウォルターお兄ちゃーん!!!」

「アハハハハーッ! あいつ泣いてやんのー、かっこわるーい!!」

「ねぇ、さちこちゃん! 動物ごっこしましょうよ!! 私はアウストラロピテクスでー、あなたはチワワね!!!」

「腹減ったー! 腹減ったー!! 腹減ったー!!!」


警官達やその場に集った魔法使いに救急隊員、そして被害者の家族が途方に暮れている時、微かに聴こえてくるヘリのローター音と共に、空から大声が聞こえてきた。


「リンボ・シティのしょくぅうううん! 吾輩がっ!! 記憶泥棒、ゲインズ・バック・ゲイザーであぁああある!! 聞いてくれ!! 今ッ街を脅かしている集団幼児退行事件、それはッ吾輩を語る偽物が引き起こしたセンスのない模倣犯罪であるぅううううううう!!!」


サチコや刑事を含めた数名は窓に直行して空を見上げる。


そして、彼女達に続くように少女ブレンダや多数の被害者たちも続々と集まってきた。その大声は、協会が所有する白いヘリから聞こえていた。正確には、そのヘリからロープで宙吊りになっている男性からだが。


「……何あれ」

「何って……協会のヘリでしょ、あれ」

「知らない、私 あんな人知らない……」

「すっごーい、何あれぇー! おもしろーい!!」

「ブレンダさん……」


そろそろサチコの精神も限界間際まで追いつめられているようだ。彼女の表情はいつも通りのポーカーフェイスであったが、その眼は虚ろで深い悲しみを背負っていた。


「卑怯な偽物めぇぇぇぇぇえええ! 姿を現せぇえぇぇええいああああ! 吾輩と勝負だぁああああ!! 節操もなく無辜の民の記憶の大半を盗み取るその蛮行、真の記憶泥棒である吾輩が許さんんん!!!」


ゲインズは半分ノリノリで、そして半分泣きながら叫んだ。彼の喉には街を代表する個人装備メーカーであるリンボ・P・ライフ社が開発した『超小型生体拡声器』が付けられており、その声は13番街どころか離れた場所にある魔導協会本営にまで届くレベルに至っていた。


「これで上手くいくんですか!?」

「僕にはわかりませんが、賭けてみるしかないでしょうね」


ヘリの操縦士は同乗している少年アーサーに問い詰めるも、彼は冷静に返答した。アーサーの顔には自然と笑みが浮かぶ、ヘリコプターに乗れたのが嬉しいのかもしれない。


「ウォルター・バートン。彼は任せろと言いました」

「……」

「彼の顔も名前も今日初めて知りましたが、不思議と信用してしまいましたよ。これが魔法というものなのでしょうかね?」


アーサーの記憶は大半が失われている。だが、記憶にはない何かが自分に語りかけていた……あの男を信じろと。



「彼はうまく誘い出せるかしら?」

「少なくとも注意は惹けるはずだ。犯人が、この13番街に留まってさえいてくれればそれで十分さ……」

「俺も餌枠かよ……」

「スコッツ君を信頼しているからだよ、君も大変優秀な魔法使いだしね」

「……お前に言われると何故かムカつくな」


いつもはアーサーが運転している愛車を今日はウォルターが運転し、助手席にはルナが、そして後部座席にはスコットが乗っている。この三人が囮となる被害者役だ。


「さて、みんな配置についたかな? 聞こえているなら返事をしたまえ」


ウォルターは耳につけたイヤホン型の小型通信機兼発信機に触れ、捕獲係一人一人に連絡を取る。この作戦は被害者役と捕獲係との連携が不可欠だ。


『はいはい、聞こえてますわよ旦那様。こちらは準備オーケーですの』

『おうよ、御主人。そのクソ野郎を見つけたら、ぶっ殺せばいいんだな!!』

『こちらロイド……配置に着きました。やりますよ、やってやりますよ!!』

「エクセレントだ、それじゃあ行こうか諸君。終わったらビッグ・バードで乾杯しよう」


ウォルターは街中で停車させ、彼含めた被害者役は車を降りて別々の方向に歩き出す。

上空のヘリでは、少年アーサーがノートパソコンで彼等全員の位置と動きを把握している。年若い少年時代の精神状態からしてこの有能さ、一体アーサーはどんな人生を歩んできたのだろうか。


少年アーサーはふと顔を上げて周囲を見回すと、空が徐々に暗くなっている事に気がついた。先程まで晴天だったと言うのに、何処からか現れた黒い雲が空を覆い始めたのだ。


時刻はまだ午後1時前。だが空には不自然に黒い暗雲が立ち込め、不穏な雰囲気を漂わせていた……。


時々、自分でも子供の頃の感性を取り戻したいと真剣に悩む時があります

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