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幻騒のカルネヴァーレ  作者: 武石まいたけ
chapter.4 One may cry or laugh one's life away
42/123

4☆

午後12時40分、リンボ・シティ5番街にあるホテルの一室。


その部屋には黒いスーツ姿の男達が集まっていた。


「……見失ったようだ」

「くそっ、冗談だろ!? どうやったら逃がすんだよ!!」

「知るか! 相手がそれだけ化物だったってことだろうが!!」


例の追っ手の仲間と思われる男達は焦っていた。彼らはある人物に金で雇われた【誘拐屋】だ。

恐らくはこの街の外から来たのだろう。メンバー全員が人間で構成されていた。


「……で、どうする?」

「……手当たり次第に探すしかないだろ?」


誘拐屋の男が左手首に付けられた腕輪のような器具を忌々しげに触る。


彼らは知る由もないが、これは異界の技術で作られた道具の一つで、【主従の誓い】と呼ばれるものだ。


それを付けられた者である【奴隷】は自分の意思では外せず、それを使用した【御主人様】と設定されている人物のみがその腕輪を外す事ができる。御主人様はその腕輪を奴隷に付ける前に、簡単なワードを複数入力する。この場合、御主人様の居場所、正体、目的に関わるいくつかの言葉だ。


それを口にしようとする、あるいはそれに繋がるような言葉を言おうとしただけでこの腕輪の仕掛けは作動する。


仕掛けが作動した場合、腕輪から奴隷の体内に特殊な半液状の薬剤が注入される。それは生き物の血液と混合すると徐々に膨張し、血管や筋肉、内蔵などを破壊しながら奴隷の体を風船のように膨れ上がらせる。最後には奴隷の身体が破裂してしまうのだが、その薬剤は血液と混ざり合った状態で外気に触れると強い爆発性を有するようになる。破裂した途端、奴隷の肉体は瞬時に爆発して周囲にまで被害を齎す悪趣味な生きた爆弾となる。


その腕輪には連帯責任という嫌がらせのような機能も搭載されており、周囲10m範囲内に同じ腕輪をつけた奴隷がいた場合、()()()()その仕掛けが作動する。


当然、こんな道具を魔導協会が放っておける筈もなく一斉摘発によって製造者や所有者に至るまでを問答無用で拘束し、その腕輪も見つけ次第処分してきたが未だ根絶させるには至っていない。異界の技術はこの世界に大きな恩恵を齎すが、場合によってはこのような悪趣味極まりない道具も生み出してしまうのだ。


「見つかったのか?」


その部屋に赤いコートを着た男が入ってくる。


エマリーの護衛達と魔法使いのゲイルを殺害した男だ。その瞳は暗い紅色、髪も色素が抜け落ちたかのような鈍い灰色で、とても人当たりが良さそうな人相には見えない。彼の姿を見る誘拐屋達もおびえている。


「それが……まだ探してる途中で」

「まぁ、精々頑張ることだな。俺には関係ないがお前たちは命懸けだろう?」


男は皮肉げに言い放つ。しかし、その言葉には若干同情も混じっている。彼はこの街に住んでいる為、その腕輪の悪趣味さを知っているのだ


「わかってるよ、ハンクス……さん」

「別に敬称はいらん。ところで、その御主人様は何処へ行った?」

「ああ、何か出掛けましたよ。……自分で探すつもりなのかね、あの

「おい!!」


隣に居た仲間は思わず制止する。爆発すると思ったからだが……どうやら今回はセーフのようだ。その事に安堵し、胸を撫で下ろす。


「……くそっ!」

「愚痴も言えないとは、嫌な御主人様に雇われて災難だな」


赤いコートの男【ハンクス】はそう言って鼻で笑い、部屋を出た。彼は協会に所属せず、また他の如何なる勢力にも属さない無派閥の魔法使い(ウォーロック)。その実力は協会に属する優秀な魔法使いをも真正面から倒してしまう程で、危険因子として指名手配されている。しかしこの目立つ格好をしていながらも、彼は一度も捕まった事がない。その理由は()()ある。


一つ目、それは彼自身が強力な魔法使いだからだ。


魔法の使えない者達では相手にならず、かと言って下手に魔法使いを当たらせても返り討ちにあってしまう。かのウォルター・バートンも一応、協会から要注意人物として扱われているが彼は基本的に関わらなければ無害であるので、存在がある種のブラックジョークないし度を越して傍迷惑な隣人、あるいは 局地的な自然災害 として街の人々に認知されている。


しかし、ハンクスは違う。彼は明確な意思を持って、魔法の力を破壊や人殺しの手段として行使しているのだ。今までに何人もの協会所属の魔法使いが彼に襲われて重傷を負い、最悪の場合はゲイルのように殺害されてしまっていた……。



同じく5番街 大型ドレスショップ【Jupiter】にて


「凄い、こんなに沢山のお洋服が……」

「どれに致しますか? お嬢様」

「ま、待って、少し考えさせてっ」


ドレスショップ Jupiter はリンボ・シティでも有名な服飾店だ。各国の有名ブランドをはじめ、リンボ・シティ限定のオリジナルブランド品も取り揃えている。その品揃えに、エマリーは思わず目を輝かせた。


「そうですお嬢様」

「え?」

「女性はそのようなお顔でなければなりません。特に、貴女のようなお方はね」

「ふふふ、面白い人なのね。アーサーは」


アーサーは小さく笑う。実は彼、子供好きなのである。元からそういう気質なのか、それともこの歳になってからかは不明だが。今のアーサーは普段の冷静かつ冷めた態度の彼からは想像できないような好々爺と化している。マリアが見たらどんな顔をするであろうか……。


「これ……ああ、これも!」

「どちらもお似合いですよ、お嬢様」


エマリーは明るい表情で服を選ぶ。本来の彼女はこのように周囲にいつも笑顔を振り撒く女の子で、ややお転婆である。彼女が手に取る服はどれも高級ブランド品だが、アーサーは穏やかな笑顔で見守っていた。利用客や店員も彼女の愛らしさに思わず笑みを浮かべるも、その少女が大貴族の娘という事には全く気づいていないようだ。


「これもどうかしら? 少し、子供っぽい?」

「いえいえ、そのような事は決してございません。お嬢様が着れば、どの様なお洋服もたちまち立派なレディの衣装に早変わり致します。」

「うふふふっ」


ちなみに今日の服の請求は全部ウォルターに押し付けられる。


「アーサーは、誰かの使用人なの?」

「はい、一応は」


エマリーはアーサーに問いかけるが、彼は冷めた反応を示す。人の苦労を知らずにウォルターとルナが和気藹々と市場街でデートを楽しんでいる姿を想像して、ちょっとした苛立ちを感じてしまっているらしい。老齢に差し掛かって鳴りを潜めていたが、彼は昔からそこそこ嫉妬深い性格だという。


あの主人にしてこの執事ありという事だろうか。


「どうかなさいましたか?」

「な、何でもないわ……あと、これも!!」


エマリーはどうやらアーサーが気に入ってしまったようだ。マリアがこの光景を見たらどんな反応を示すだろうか。笑ってからかうだろうか?それは誰にもわからない。



「ねぇ、ヘクター」

「なんだい、ルナ君」

「アーサーが迎えに来ないわ」


老執事から事情も知らされず、4番街に取り残されたウォルター達はジュースを飲みながら彼が迎えに来るのを待っていた。この一件以降、ルナは暫くの間アーサーに対する態度が冷たくなったという。


暑いけど紅茶はホットで飲む方が好きです

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