エピローグ☆
少し長いお話になりましたが、何とか完結致しました。
朝、珍しく自分から目を覚ました。何でだろう、いつもは一人じゃ起きられないのに。
でもその理由は、すぐにわかった。目の前で寝てるこいつらのせいだ。
「あーあー、幸せそうに寝ちゃってさぁ……妬いちまうぜ? お二人さんよ」
御主人とルナがオレと同じベッドで寝てる。ルナはどういうわけか下着姿だ、そしてオレも下着姿だ。昨日の晩に何があったのかがよく思い出せない……思い出すのがなんとなく恥ずかしい気がする。
うん、やっぱり思い出せないままにしておこう。
「うーん……」
御主人が気の抜けたような声をあげて目を覚ます。右腕折ってるのを忘れたのか癖なのか、無意識に折れた右腕を上げようとしてた。
「ぬぐぁあ! いっ、いたたたたたた!」
「よー、御主人。目が覚めたかー?」
「……やぁ、アルマ。君が僕より早起きなんて、珍しいね。いたたたた」
オレはそんな御主人を見て笑っちまった。本当にこの御主人サマはよー、困った奴だよ。
「派手に怪我したなあ、例のセンセーもちょっとやばかったとか言ってたぜ」
「明日には治るさ……歳のせいか、傷の治りが少し遅くなった気もするけどね」
右腕、右鎖骨にヒビが入って、右の肋骨が三本折れて一つがどっかに刺さって、大丈夫そうに見えた左腕も内出血してて おまけに頭も血が出るくらいに強く打ってた。それと長い間雨ざらしのびしょ濡れになったせいで肺炎ってやつにもなりかけたとか……すげーよな。
「とにかく、生きてさえいれば御の字さ。こうして君たちと素敵な朝を迎えられたしね」
「でも毎回、あんな無茶してたらそのうち死ぬぞ?」
「はっはっ、気をつけるよ。……うん、気をつけるとも」
オレはちょっと体を擦りむいて、全身打撲とか深めの引っ掻き傷とかそういうので済んだ。
なんかもう治ってるけど。男より丈夫な女っていうのもなんかやだなー。
「それにしても……ルナは怒らせると怖いなあ」
「御主人のせいで酷い目にあったしな?」
「あー……うん、ごめんなさい」
「オレに謝んなよ。それに、昨日のルナは下着を着てたからまだ手加減してくれた方だろ?」
「……流石に、この怪我で本気になられると死んでしまうよ」
妹のルナはまだ幸せそうに寝てる。こいつはまー面倒くさい女だ。
普段は落ち着いてて大人しいやつだと思ったら、突然感情的になるわ、ヤキモチ焼くわ、おまけに怒ると人の話も聞かなくなるわ……すごく面倒くさいけど、可愛いやつなんだ。姉のオレがなんとか面倒見てやらねーとな。
でも今は、もう少し御主人と二人きりでいさせてもらおうか。
「そういや御主人。もし、あの時助けが来なかったらどうしてたんだよ」
「ん? 何が??」
「恍けんなよ」
「……」
オレは御主人に顔を近づけて気になっていた事を聞いた。
そもそもなんであの広場に行ったんだろう。大きく開いた場所におびき寄せたほうが戦いやすいんだろうけど、それにしたって『もっと来いー!』とかまるで自分の周りに白い奴らを集めようとしてるみたいだった。
「なーぁ? どうするつもりだったんだ?」
「過ぎたことは、もう良いじゃないか」
「なーぁ?」
御主人の考える事は昔からよくわからんけどな、気になるんだから仕方ないよな。御主人は話を逸らそうとしたけど、あんまりじろじろ見られるからか根負けしてボソボソと話し出した。
「……僕が本当に動けなくなった時に奴らが周囲に集まってきたらね、地面に向けて特大の雷撃を放つつもりだったのさ」
「はぁ?」
「地面も雨に濡れてるだろう? 奴らも、雨で濡れた地面にしっかりと足をつけている。水に濡れたものは雷、つまり電気をよく通す……その地面に特大の雷を落とせば、どうなる??」
よくわからん。
つまり、御主人は地面に雷を落として 周りの奴らをまとめて始末する気だったらしい。それができるなら早くやれって言いたいんだが……。
「問題はそれで仕留めきれなかった場合だね。それに雷は
「そんなことをしたら、貴方は死んでいたかもしれないのよ」
ルナが小さく言いやがった。どうやらさっきの話を聞いてたみたいだ。さっきの声から察するに、物凄く機嫌が悪くなってるな。やだなぁ……こいつ、こうなると面倒くさいんだ。
「……いや、でもね」
「あの杖は、それを握る手は守ってくれるけど……貴方の足元までは守ってくれないわ」
「……よく知ってるね」
「貴方が教えたくれたの、杖のことになると夢中で話し出すじゃない」
「あぁ、はい……」
「そんなところに放てば、貴方もタダじゃ済まなかったのよ? ……ヴィカス君」
ヴィカスって誰だよ。そういや、こいつ朝起きるたびに御主人の名前忘れるんだったな。
どうして忘れるのかはルナにもわからないし、オレにもわからない。ずっと前から、こいつがこうなった時から御主人の名前を忘れるようになった。
「御主人、そんな危ないこと考えてやがったのかよ!!」
「いや、はい……でもあいつr
「ヴィカス君?」
ルナはもう御主人の話を聞く気がないみたいだ。
まぁ、当然かな。つまり御主人は、いざとなったらあいつらを道連れにして、自分ごと仕留める気だったって事だよな。濡れたものは雷をよく通すって言ってたしー……
待てよ、じゃあオレは? あの場にはずぶ濡れのオレもいたんだけど。
「おい待て、御主人。それじゃあオレにもその魔法当たってたんじゃね?」
「はい……でも君は生き残ったよ、うん。アルマの体は特別だからね」
さすがにオレでも今のはカチンと来たね。さて、どういじめてやろうか。
「ヴ ィ カ ス 君?」
「はい……その、仕方なかったんだ。あと僕の名前痛ァ!」
ルナは治りかけの肋骨を強めに撫でる。完全に怒らせちまったな御主人。
「もう少し、お仕置きが必要ね?」
「いやいや、もう反省してるから。もうしないってあぎゃあ!!」
「あー、ごめんね う゛ぃかすくーん。ちょっと手が滑ったー」
オレは折れた右腕をちょいとキツめに叩いた。うーん、これは怒っても仕方ないよな。うん、これはもう許されねえや。もう謝っても許さねえからな?
覚悟しろよ、御主人。お仕置きの時間だ。
「ま、待ちたまえ……あと僕の名前はウォルター……
「ウォルター?」
「御主人?」
「あはははは……ごめんなさい」
「「駄目」」
「……せめてお昼まで待ってくれないかなー?」
「「駄目」」
「……あ、はい」
オレとルナは顔を合わせて笑った後、動けない御主人に擦り寄った。
オレの名前はアルマ。今の所 それだけだ。
誰が付けたのかはわかんねえ。それに特に考えた事もねえ。オレの体もルナみたいにちょっとワケありだ。詳しい体の仕組みはオレにもわかんないけど。
それでも、心は他の奴らと変わらないと思う。
だって、好きな奴がいるんだ。誰かを好きになれるってのは、オレがちゃんとした人間だっていう証だよな? ちょっとワケありだけど オレも女の子だから。
だからたまにはいいよな? 御主人様に思いっきり……イタズラしちゃってもさ!
「あ────っ!!!」
階下の二人は今朝も聞こえてくる男の悲鳴と少女達の愉しそうな声、そして何かが大きく軋む音に耳を澄ませてコーヒーを口にしていた。彼等の表情はとても穏やかなものだった。
「いやはや、今朝も激しいですな」
「うふふふふ、女を怒らせると怖いですわよー」
「女とは恐ろしいものですな……」
「あらあら、誰のことを言っているの? アーサー君??」
「はて? 何の話ですかな」
「ひょっとして 私のことかしら??」
「貴女のように、被害妄想の激しい女性は男に恵まれませんぞ??」
静かに談笑する二人。上の階からは今尚何かが軋む音が聞こえてくるが、よく聞くと別の音も混じっていた。
それは複数のヘリコプターのローター音のようだった。
chapter.3 「More haste less speed」 end….
冷たい飲み物と一緒にお楽しみください。オススメは勿論、アイスティーです。