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幻騒のカルネヴァーレ  作者: 武石まいたけ
chapter.3 More haste less speed
27/123

3☆

いつかイギリス旅行に行きたい。紅茶飲みながら本場のフィッシュ・アンド・チップスと揚げマーズバーを食べたい。

ほぼ同刻、ウォルター邸にて。


ウォルターが住む屋敷は築何百年もあろうかという古いジョージアン建築風の一軒家だ。彼はこの屋敷にかなり長い間住んでおり、【ウォルターズ・ストレンジハウス】として13番街ではちょっとした名所となっている。


「という目にあってよ……いやあ、散々だったー」

「大変だったわね」


アルマは屋敷の大きな浴室でルナに体を洗われている。彼女達は双子だが、二人並べばその身長差と発育差は顕著に現れた。どうしてここまでの差異が出たのか誰にもわからないし、深く詮索するのは酷というものだろう。


「そろそろ匂いは取れたかしら」

「うーい、助かるー」

「いいの? 本当はウォルターに洗って欲しかったんじゃない?」


ルナは小さく笑って彼女に言う。その言葉を聞いてアルマは取り乱し、声を荒らげた。


「ばっ、ばっかじゃねーの!? そんなことねーよ!」

「私なら喜んでお願いするんだけど……」

「うるせーっ!!」

「うふふっ、やんっ」


ルナはアルマをからかうが、語気が荒くなった彼女に押し倒される。慎ましい体型のアルマとは対照的にたわわに実ったルナの豊満な胸(ナイスバディ)は彼女を挑発するかのようにぷるんと揺れ、その事に腹を立てたアルマに鷲掴みにされる。


「あっ……」

「何だこの胸はーっ! ずるいぞ、オレにもわけろーっ!!」

「……ふふっ、でもお尻はアルマの方が可愛い……きゃんっ」

「おらおらおらーっ!」

「ひゃぁっ、もう……乱暴にしちゃ駄目よ」

「くそーっ! 何だよその余裕はー!!」


そのまま二人は暫く裸で戯れあった。どちらが姉で、どちらが妹なのかは実はハッキリとしていない。互いに自分が姉だと言い張っているが、ウォルターは軽く流している。彼にとっては、どちらが姉でも妹でも気にしないのだろう……そういう理由もあって二人は【双子】という表現を充てがわれているのだ。



「しかし、魔法が通じない異界の生物とはねぇ」

「災難でしたな、今日は」

「災難に遭うのは慣れているけど、手も足も出なかったのは少々堪えたなあ」


リビングのソファーに腰掛け、ウォルターは今日の怪物の事を振り返っていた。


彼は自分が扱う魔法の技術に自信があった。よほどの事がない限り、魔法さえ使えればどんな相手でも何とかなるという自負も。しかし今回の相手はそれを根底から揺るがしかねない存在だった。


「旦那様、お茶が入りました」

「ありがとう、マリア」

「ふふふ、あまり気を落とさずに」


マリアから励ましの言葉をかけられるが彼の気持ちは晴れなかった。一つの技術を極めても、それが通じない相手を前にすれば諦めて逃げるか、神に祈りを捧げて静かに十字を切るしか打つ手がないというベリーハードな現実を改めて突き付けられたからだ。


「まぁ、深く考えたら負けか……熱っ!!」

「あらあら、大丈夫ですか? 旦那様」

「いやぁ……今日は、カッコ悪いなあ……」


ウォルターは皮肉げに笑って呟いた。そんな彼の姿を見てアーサーは鼻で笑い、マリアも小さく微笑みながらハンカチを手渡した。



「ああ、そうだ」

「何かしら?」


浴室から上がり、着替えの最中だったアルマは思い出したかのように洗濯機に入れられていた汚れた洋服から()()()()を取り出した。


「せっかく綺麗に洗ってあげたのに……」

「ふっふー、見ろよコレ!」


アルマの手の平には4㎝程の大きな真珠に似た白い鉱石があった。その表面は眩い光沢を放ち、まるで鏡のようにルナを写し出す。幻想的な白い鉱石に、彼女も思わず目を奪われた。


「綺麗……どこでコレを?」

「ああ、あのバケモンをぶっ殺して屋敷に帰ろうとした時に拾ったんだ。近くにもまだ何粒か落ちてたなぁ……」

「その怪物と一緒に異界門から吐き出されたのかしら……」


アルマは自慢げにその石をルナに見せびらかした後、彼女に手渡した。


「まぁ、俺には似合わねえし暫く貸しておいてやるよ」

「あら、アルマが持てばいいのに。ネックレスにしたら似合いそうよ?」

「いいんだよ、いい子でお留守番してたルナにお土産だ」

「ふふふふ、ありがとう」


双子は裸のまま談笑した。一見するとその性格は対照的で、ウマが合いそうにない二人だが、彼女達の仲は非常に良好だった。時には盛大な双子喧嘩をはじめてしまうが。



今朝現れた白い怪物にはまだ名前が付けられていない。


現時点で確認されている新動物の中にも類似した生物はおらず、文字通り【新種の異世界種(ニュータイプ)】であった。大型の肉食性で魔法に対して極めて高い耐性を持つ異世界種……その存在は、魔導協会のみならず社会全体に大きな波紋を呼んだ。


現在のところ、一度発生した異界門と【同じ世界に繋がる門】が再度出現した記録はない。


この生物も一体しか出現しなかった為、そこまで深刻な問題には至らなかった。

しかし魔導協会はその死骸を調べ、いずれまた現れるかもしれない魔法耐性を有した凶暴な異世界種への対抗策を講じようとしていた……。



◆◆◆◆



深夜11時。リンボ・シティ9番街、怪物が出現した大道路


「しかしひでぇなあ、滅茶苦茶じゃないか」

「全くだ。魔法使いは手加減ってのを知らないのかねえ……」

「はっはっ、本当にな。きっと今日の奴は女の扱いも乱暴なんだろうよ」

「いやいや、乱暴どころかすぐ駄目にするね。20L$賭けてもいい」


道路整備を生業とする技師達がぼやく。かつては交通の要所であったその道路は見る影もなく荒れ果てており、暫くは閉鎖されてしまうだろう。特に超高熱に当てられて溶けてしまった箇所の状態が酷く、彼等は頭を抱えた。ぼやきながらも作業を進めるが 一人が道路に走る亀裂の中からあるものを発見した。


「おい、これはなんだ?」

「どうしたよ、せっせと手を動かさないとまた徹夜で作業になるぜ?」

「いや、ほら。宝石みたいだ」


彼が拾ったもの、それは大粒の真珠のような白い鉱石……アルマが拾ったのと同じものだ。その殆どは魔導協会の調査班が立ち入った際に回収したようだが、この一粒のように彼等の目が届かない奥まった場所に隠れていたものがいくつかあった。


「売ったら金になるかな?」

「ははは、かもなぁ。彼女にプレゼントしても良いんじゃねえか?」

「……あいつは今、別の男のベッドでぐっすり寝てる」

「……涙拭けよ」

「良いんだよ、別れの挨拶も済んだし。6L$の贈り物(マグナム弾二発)で満足してくれるんだからお安いもんさ」


技師の一人はその鉱石をポケットに入れ、作業に戻る。すると近くから大きな音が聞こえた。


どうやら道路の下を走る水道管が、今になって破裂してしまったようだ。破裂した水道管からは、大量の水が噴き出し続けて辺り一面を水浸しにする。


「うわっはっ! ひでーなおい!」

「あーあー、古くなってたのが今朝の騒ぎで……。ついてねえな今日は」

「……いーや、ついてるね」

「ああ、うん。とりあえず仕事済んだら飲みに行こうか……」


技師達は全身水浸しになりながら大きな溜息をつく。その時だった。


「おい……おい、お前ポケットが何か膨らんでるぞ?」

「あ? なん……うおっ!?」


膨らむポケットの中には例の白い鉱石が入れられていた。慌てて取り出すと、その鉱石はまるで水を吸い込んでいるかのように膨れ上がっていく。石を拾った技師は思わずそれを投げ捨てる。地面に落ちた白い鉱石は()()()のように破裂し、中から【白い蛇に似た生物】が現れる。


〈オギャァアアアッオギャッ! オギャアアアアアアアア!!〉


その生物は赤ん坊にも似た鳴き声をあげ、地面を這い回った。今まで見た事もない異形の生き物を前に、技師達は呆気にとられていた。


「おい……なんだあれ……」

「いや、知らねえよ……あの石はアレの卵だったのか」

「……しまった。お別れを言う前にこいつをプレゼントしてやるべきだった」

「そんでお楽しみを邪魔されて不完全燃焼な彼女に おめでとう! 新しい彼にそっくりで元気なベイビーですよ!! とか言いながら6L$の贈り物か……いいセンスだ」

「はっはっはっ……時間を巻き戻す魔法ってないのかな」


謎の白い生物はつい先程卵から孵ったにも関わらず、凄まじい速度で成長していく。


最初は全長15cm程度だったものがほんの数十秒で40cm近い大きさになり、尚も成長し続けている。ブラックなジョークで盛り上がっていた技師達も流石に身の危険を感じた。


「おい、何かドンドン大きくなってるぞ! 何かヤバい気配がしないか!?」

「さっき生まれたばっかりだぞ!? どんだけ生き急いでん────」

一人の技師の背後から()()()が飛びかかる。それは、あの白い生物と同じものだった。


「ぎゃああああ! なんだっ!! なんだこいつはぁああああ!!!」

「おいっ! くそっ、今助けてやる!!」

「あっ、下手に今助けられたらやばい! 今、頸動脈齧られてるからやばい!!」

「じゃあ放っておいた方がいいか!?」


周囲の物音に気がつき、技師が周りを見回すと数匹の白い生物が自分たちを囲んでいることに気がついた。いずれも既に1m程の大きさになっており、暗闇にぼうっと浮かび上がるような白い体を不気味に震わせていた。


その顔には目がなく、無数の歯が生えた円形の大きな口だけがあった……。


「……嘘だろ、おい」

「あーっ! ごめん、やっぱ助けて!! あーっ!!!」


《オギャア》 


一匹が赤ん坊のような鳴き声をあげた次の瞬間、一斉に技師達に襲いかかる白い影。

静かな夜に、悲痛な絶叫と赤ん坊にも似た大きく不快な鳴き声が響き渡った。


紅茶飲みながらそんな事を考えていたら、この作品が生まれました。

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