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幻騒のカルネヴァーレ  作者: 武石まいたけ
chapter.1 Fortune comes in at the merry gate
13/123

エピローグ☆

プロローグとエピローグはその章のメインキャラが話すようにしています。

部屋の窓から差し込む光で目が覚めた。


さっきまで見ていた夢は、もう殆ど思い出せない。


窓から差し込む光は眩しく、とても不快なものに思えた。

そして、さっきまで見ていた夢は きっと悲しい夢だった。

胸を刺すような身に覚えのない痛みが、それを僕に教えていた。


窓に映る自分の顔も、それはそれはひどいものだ。


僕は毎朝見ているこの顔が 益々嫌いになった。


「ひどい顔だよ、全く」

「そうかしら」


隣で寝ていた彼女は、静かな声で言った。


「私には、とても素敵な顔に見えるのだけれど」

「ははは、そう言われると少しはこの顔が好きになれそうだ」


僕は今日も笑顔を作り、優しい口調で彼女に言う。


「ん……」


ルナは気怠そうに体を起こし、欠伸をする。その姿は昨日と寸分変わらぬ、美しさだった……就寝前と違って何故か裸になっているけど。


「おはよう、ヴォルギンス。素敵な朝ね」

「誰だい? それは」

「あなたの名前じゃなかったかしら……」


今日も彼女は僕の名前を忘れている。


「そうね……じゃあ」

「間違えてもレックスなんて名前で呼ばないでくれよ? そんな名前で呼んだら」

「ウォルター……だったかしら?」


彼女は、僕の名前を覚えない。


そして、昨日までの記憶も失ってしまっている。だから今の彼女は昨日の彼女とは別人で、先程呟いたその名前もたまたま僕と同じだっただけだ……でも


「……」

「また、間違えたかしら。ごめんなさい……」

「正解だよ、ルナ」


僕にはそれだけで、十分だった。


ルナの頬にそっと触れた後、優しく抱きしめる。彼女は戸惑ったが、少し経つとくすりと笑った。


「ふふ、良かった」

「ところで……一つ聞いてもいいかな」


彼女は何故裸になっているのだろう。眠りに就く前はちゃんとした服を着ていた筈だが……でも、今聞きたいはそんな些細な事ではない。もっと大切な事だ。


「裸で寝ていることかしら?」

「いいや」

「じゃあ、何かしら?」

「今日は、何処に行きたい?」

「ふふっ、何処でもいいわ。貴方となら」


ルナは小さく笑みを浮かべて言う。そう言うと思ったよ……。


「旦那様、ルナ様、朝食の用意が出来ております」


静かにドアを開けて、老執事が僕の部屋に入ってきた。相変わらず今日もアーサーはノックをしない。


「おはようアーサー、今日も

「ごめんなさいアーサー、今 お取り込み中なの」

「……ん?」


ルナは僕の言葉を遮るように言った。それを聞いたアーサーは小さく笑う。


「失礼いたしました、それでは……ごゆっくり」


何かを察したアーサーは静かにドアを閉め、軽い足取りで階下の食卓に向かった。


「ルナ君? 何のつもりかな??」

「今は、貴方と二人きりがいいの」


嫌な予感がした。ルナの青く澄んだ瞳は、上目遣いで僕を見つめている。


「オーケー、その前にまず食卓に行こうか。アーサーが美味しい料理を────」

全部言う前に、僕は彼女に押し倒される。そうだった、ルナはこういう子だった。


訂正しよう。彼女の困ったところは、三つじゃなくて四つだ。


彼女は僕の上で馬乗りになり、僕の額に軽くキスをする。一糸纏わぬ女神の如き眩しい裸体と豊満な胸(ナイスバディ)が目前に迫り、僕は息を飲んだ。


「ルナ君? 僕はお腹が空いてるんだ……まずは朝食を取ってだね」

「ウォルター」


彼女は甘い声で僕の名前を呼ぶ。その声を聞いて、僕も覚悟を決めた。

ああ、逃げられないな……これは。


「好きよ」

「……僕もだよ。でも、今日()優しくしてくれると嬉しいな?」

「ふふふっ」


四つ目の困ったところ、それは彼女がとても()()()()である事だ。


どう甘えてくるのか……と聞かれれば言葉を濁させてもらうけど、つまり そういう事だ。



◇◇◇◇



「今日も激しいですな」

「本当ですわねー、うふふふ」


階下の使用人達は、上からかすかに聞こえる()()()()()()()()()()を聞いて穏やかな顔で呟いた。


二人は離れた席に座り、コーヒーを飲みながら顔を合わせる。因みにマリアが口にしたコーヒーには少量の人間の血液が垂らされている。


「人間の貴方にはわからないだろうけど、忘れないものもある……それだけで、あの二人には十分なのではないかしら。アーサー君?」


「その意見には全面的に同意しますが、貴女に言われると台無しですな……マリアおばさん?」


二人は暫く談笑した。しかしその目はお互いを睨みつけ、殺意に似た感情を向けていた。



アルマはまだ眠っている。彼女は朝に弱い。昨夜は涙で目を腫らしながら眠りについたが、今は素敵な夢を見ているのだろうか その表情はとても幸せそうだった……



僕の名前はウォルター・バートン。


街の人達はみんな、僕の事が嫌いなのだろう。

どんなに頑張っても、みんなが僕を好きになる事はないだろう。


それでも、リーゼ 僕は笑いながらこの街で生きていくよ。


だから、君が守ったこの街と、君が生きた証である【彼女達】の事は僕らに任せて……


君は、ゆっくり休んでくれ。



          

chapter.1 「Fortune comes in at the merry gate」 end....


お楽しみ頂けたなら大変光栄です。感想お待ちしております。

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