高校生活(2)
「見知らぬ天井」
物語の主人公のように呟いて、自分がベットの上にいるって気が付いた。病院のような白いパイプフレームのベッドは体を起こすだけでギシりと音を立てる。そして、目の前には閉じられた化学繊維のカーテン。そういえば今日は入学式だった。
「災難だったわね」
カーテンを開けたのは30半ばの白衣を着た女性だった、優しそうな顔の少し美人な―たぶん、保険の先生。
横からオレンジの光が差し込んで、窓を見れば、外は既に夕焼け。
僕は数時間寝ていたことになる。初日からなんてざまだ。夕焼けを見ながら、ため息をついた。ついてないときは、こんなもんか。
「ほら、メグちゃんちゃんとあやまらないと」
(たぶん)先生が誰かに話しかけてる声を聴いて、無意識に振り向いた。
視線の先にあったのはきつい目じりを気まずそうにして拗ねている黄色いパーカーを着た小さい女の子。彼女の小ささとひよこのパーカー。気絶する寸前に見た黄色い塊。そうして僕は漸く気絶する寸前の衝撃を思い出して判然とした。
彼女がそのひよこの正体だと。
人形みたいに整った顔をゆがめ、さぞ、不本意そうに、「悪かったわね」と地面を見ながら吐き捨てるように言っている彼女に、先生はまるで幼稚園で園児でも叱るような口調で。「コラ、めぐちゃん、ちゃんと誤らないとダメでしょう!」「で、でも、だって!」反発する様子もまた母親にごねる幼女のようで。一瞬僕は少しポカンとしてから、なんだかすごく貴重なものを見たような気になって、僅かに感じていた怒気も忘れて笑い出していた。
「はははっははは」
僕は彼女に気絶させられたのか。そう考えると、何が面白いのか全く分からなかったけど、なぜだか笑いが止まらなかった。二人が呆然として、少女が「頭おかしくなったんじゃないの」なんて呟いても、涙が出るくらい笑った。