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というわけで、私たちはいま町はずれの魔法研究所に来ています。
「ここが魔法使いランドルフの研究所...」
やはり有名な魔法使いの研究所は大きいです。私の家の5倍はありそう。
大きな門の前にぽつんと立っている私たち。なんだかとても不釣り合いな気がします。
「ここで少し待っててね」
エイラさんが門番の人に話をしに行くと、同期ちゃんが話しかけてきました。
「ネリーさんは得意な魔法ってありますか?」
魔法を使う者どうしなら必ず上がる話題だ。
「私は特にないですね。どれも普通って感じですね」
「そうなんですか。実は私もなんです。魔法はすごく好きなんですが使うほうはあんまりで」
同期ちゃんはどこか嬉しそうにそう話す。しかし得意な魔法がないといっても魔法図書館の試験に合格するぐらいなのだから実力はあるのだろう。
「二人とも、行くわよ」
エイラさんに呼ばれついていく私たち。中には魔法道具の数々が並んでいる。
「すごいですね。これだけの魔道具は初めて見ました」
同期ちゃんはすごく楽しそうです。
「繊細なものもあるからあまり触らないようにね」
「は、はい。気を付けます」
繊細なもの...このガラス玉とかかな?触るなと言われたら触りたくなりますね。
愚かな衝動を押し殺し長い廊下を進んだ先にランドルフさんの部屋はありました。
「ここね。かなり変わったおじいさんだから気を付けてね」
気を付けて?いったどんな人なのでしょうか。
「ランドルフさん、管理人のものですけど」
エイラさんがノックをするとドアが開いた。
「すごい。自動で開きましたよ」
さっきから同期ちゃんのテンションがすごく高い。
部屋に入ると長い白髪のおじいさんが古い木の椅子に座っていました。
「おお、よく来てくれた。むむ、そこの二人はまさか新人かね?こっちへ来て魔法を見せてくれ。ささ、はやくはやく。魔法図書館の子はすごい魔法使いが多いから楽しみじゃ」
なるほど。確かに変わった人だ。
「もう、二人が困ってますよ。変な人だけど意外といい人だから安心してね」
「は、はい」
こういう人はし少し苦手だ。同期ちゃんはなぜか嬉しそうだけど。
「何が意外とじゃ」
不機嫌そうな顔をするおじいさん。
「そんなことより魔術書が届いていないのですがどうかされたんですか?」
「ふむ、魔術書、そんなこと言っておったかの?」
「もう、そんなこと言っても逃げ切れませんよ」
「冗談じゃよ、冗談。実は先日盗まれてしまってのう」
「盗まれた!?誰にですか?」
「それが外で魔術書を書いていたらゴブリンの群れに奪われてしっまて...」
「そうですか。それなら私たちが取り返しに行ってきます。新人二人もいることですし」
「え?」
つい声にでてしまった。まさか図書館で働くものがゴブリン退治をするだなんて...
「それは頼もしい。期待しているぞ、新人ちゃん」
ゴブリンの住処を聞き私たちはいま森に来ています。
かなり薄気味悪い森ですね。いかにもモンスターが好みそう。魔法研究にはモンスターの素材を使うのでこういう場所の近くに研究所を建てる人が多いそうだ。
それにしても大魔術師ならゴブリンぐらい倒せるでしょうに。
「すごい魔法使いならゴブリンぐらい追い払えるんじゃないですか?それになぜ魔術書が奪われたのでしょう?」
どうやら同期ちゃんも同じことを思っていたようです。
「たぶん魔術書の強い魔力にひかれたのでしょうね。それと、ランドルフさんはもうお年だから魔法限度がもう残り少ないのよ」
「なるほど。なら私たちが頑張って取り返さないとですね。でもまさかゴブリンを退治するなんて思ってもみませんでしたよ」
「そうね。魔法書物は貴重なものだから盗もうとするものもいるの。だから今日みたいなこともたまに起こるのよ」
「大変な仕事なんですね」
「そうよ。だから筆記試験だけでなく魔法技術も高くないと管理人には選ばれないの」
「なんだか、少し誇らしく感じますね。ね、ネリーさん」
「そうですね。私も誇らしく感じます」
そうはいっても、戦闘することが多いのは勘弁願いたい。私は本に囲まれた図書館ライフを期待していたのに。
こんなことになるなら実技試験もう少し手を抜いておくべきでした。
まあ過去のことを悔やんでも仕方がないことです。今は仕事に集中せねば。
「ネリーさん危ない!」
とつぜんゴブリンが上から降ってきました。なんとか避けられたものの全然集中できてないじゃないですか私。
「大丈夫?怪我はない?」
すぐさまゴブリンを倒したエイラさんがかけ寄ってきました。
「はい、なんとか。すみません、よそ見していて」
「怪我がないならよかったわ。次は気を付けてね」
まさかいきなりこんな失態をさらすなんて。それにしてもなぜ空からゴブリンが。
「どうやら、木の上に潜んでいたようね。敵の群れは近そうね」
少し進むとエイラさんの言った通りゴブリンの住処がありました。
「まずは魔術書を探すわ。見つけたら遠隔魔法で伝えるから二人はここで待っていて」
エイラさんは今いる茂みから少し離れ魔術書を探す。
『見つけたわ。私がゴブリンを攻撃するからそのうちに二人は魔術書を取り返して』
『はい』
私たちは魔術書の場所を聞きそれから数秒後エイラさんの攻撃が始まった。
「行きましょう、ネリーさん」
同期ちゃんが魔術書のもとに向かう。
しまった。そのとき私たちに気づいたゴブリンが魔術書を取って逃げてしまいました。
同期ちゃんは魔術書を持ったゴブリンに気づきすぐに追いかけて行きました。
同期ちゃん走るの早い。こんなことならもっと運動しておけばよかった。
このままだと見失ってしまう。
呼びかけようとした私はあることに気づく。
そういえば私同期ちゃんの名前知らなかった。
追いつけなくなると思ったけれどなぜか同期ちゃんが立ち止まりました。
どうしたのでしょう?
そんな疑問はすぐに解決しました。
「あの、これはいったい...」
そこにはなぜかさっきよりも多いゴブリンの群れがいました。
いったいなぜこんなことに。一つの群れが分かれていたということでしょうか。
「ネリーさん、この状況はまずいですよね。私だけでもおいて逃げてください」
「あなただけおいていくなんて、そんなことできませんよ」
いや、本当にできないんですけどね。気遣い的なことを抜きにしても。
だってほら、ゴブリンたちめっちゃ威嚇してますし。取り囲まれちゃってますし。
「私の人生もここで終わりですね。ああ、神様」
とうとう祈り始める同期ちゃん。仕方がない、死ぬよりはいいでしょう。
「ネリーさん!?」
私は呪文を唱える。その瞬間冷気が周りを覆いたちまちゴブリンたちは凍っていった。
はあ、見られてしまった。平凡な人と思われたかったのに。
「すごいです。ネリーさんこんなにすごい魔法使いだったなんて。得意な魔法はないって言っていたのに、凍結魔法が得意なんですね」
「いえ、そんなことは...」
そんなことはない。どの魔法もこの程度なら使える。ほかの人が努力していないだけだ。
「でも、大丈夫なんですか!?あんな広域魔法使ったら魔法限度を超えてしまいますよ!」
やっぱりそう思いますよね。
「大丈夫ですよ、私なら。少しワケアリなんです」
「ネリーさんのおかげで私、助かりました。私一人だったらどうなっていたか...本当にありがとうございました!」
...驚いた。まさか私の魔法でこんなにも感謝されるなんて。なんというか少し照れくさいですね。
「魔術書も取り返したことだしエイラさんに報告しなきゃ。行きましょう、ネリーさん」
それから、私たちは無事研究所に戻り図書館に帰ることとなりました。
「ランドルフさんすごく喜んでいましたね」
「数年かけて書いたものだもの。本当に感謝していたわ。二人とも今日は本当にお疲れさま」
図書館に着いたころには日はすっかり沈んでいました。
「長い一日でしたね。すごく疲れました」
管理人室に入るなり席に座った同僚ちゃんは本当に疲れた表情をしています。
「あの今日の魔法のことできれば秘密にしてほしいのですが...」
「え?まあネリーさんがそういうなら」
同僚ちゃんは「なぜそんなことを言うのだろう」という顔をしています。でも私の平和な日々のためには仕方がないことなのです。
「あ、二人とも、ちょっと来てくれる?」
エイラさんが私たちを呼びに来ました。
「はい、これ」
そういわれ何かを渡される。
「何でしょうこれ?」
「それはあなたたちがこれからつかっていく名札よ」
よく見るとそれは図書館で働いている人みんながつけている名札でした。
「うわー、なんだか本当に管理人になったって感じがします」
嬉しそうな同期ちゃん。
「本当ですね」
なんだか私までうれしくなってきました。
「あの、あらためてこれからこれからよろしくお願いしますね。ネリーさん!」
同期ちゃんは私の名札を見てからそういった。
私も名札を確認する。
「はい。こちらこそよろしくお願いします。シャロンさん」
管理人日記
就任初日が終わりました。まさか初日からこんなに大変な目に合うなんて思ってもみませんでした。
最初はどどうなることかと思ったけれど上司のエイラさんや同期ちゃん...じゃなかったシャロンさんはいい人で安心しました。
明日からは平和な管理人ライフを過ごしたいものですね。
...それと、私の魔法で人を助けることができたのは少しうれしかったです。
お読みいただきありがとうございました。
ネリーの初案件いかがだったでしょうか?
ネリーの魔法限度や魔法の素質についてまだまだ書きたいことはあるのですがそれはまた別の機会に
この作品はまだまだ続く予定なのでぜひ応援お願いします
それでは2件目でお会いしましょう