第0話 伝説の極道
初投稿です。
更新が不定期になるかと思いますが、暇な時に読んでいただけたら幸いです。
よろしくお願い致します。
「南無妙法蓮華経〜・・・」
2017年某日
大正生まれの伝説の極道がこの世を去った。
伝説と言っても、この平成の時代に彼の偉業を知る者は少ない。
だが、彼の人柄を慕い、彼の死を悼む者は同業者に留まらず、葬儀には様々な職業の者達が参列した。
「オヤジ・・・安らかな顔しやがって・・・憎まれ口も言えねえじゃねぇか・・・。結局、最後までアンタから1本も取れやしなかったなぁ・・・。もうすぐ100歳だったってのに、バケモンかよ・・・。」
眠るように穏やかな父親の顔を見つめながら、初老の男がそう呟いた。
男の名は不破一心
伝説の極道こと不破一生の一人息子だ。
先程まで通夜振る舞いの片付けをしており、やっと落ち着いたところだった。
「少し外の空気吸ってくるわ」
妻の香代にそう伝え、庭先でタバコに火をつけた。
「フー・・・」
月明かりに照らされた紫煙がゆっくりと風に流れていく。
「よう、若頭。」
声のした方に目を移すと、一心と同じ位の年代のグレーのスーツにトレンチコート姿の男が庭の裏手から姿を現した。
「川越!おめぇこんなとこ来たらヤベェんじゃねぇのか?県警の本部長様がよぉ。」
川越と呼ばれた男はフッと軽く笑う。
「だから喪服じゃないんだよ。参列者ももういないみたいだし、組長の顔に手ェ合わさせてくれないか?」
「もう組長はやめてやってくれ、15年前に組は俺が継いでんだ。今はただのジジイさ。それに、俺ももう68だ。若頭はやめろや。」
一心はそう言いながら携帯灰皿にタバコを押し付けた。
「ただのジジイの葬式にあれだけの数の人が参列するかよ。肩書きがなくなっても、一生さんは一生さんだ。若が・・・いや、今は組長か。あの人の後を継ぐのは大変だろ。」
「まぁ、ボチボチやってくしかねぇや。少なくとも、あの世でオヤジに殺される様なこたぁ出来ねぇな。」
「ははっ、あの世に行ってまで一生さんに教育される訳にはいかないわな。」
2人は寂しげに笑い合った。
一生の遺体があり、葬儀の式場にもなっていた大広間に入ると、川越の姿を見つけた香代が近づいて来た。
「川越さんじゃないか!いいのかい?こんな所にきて。」
「香代さん、久しぶりだなぁ。相変わらず綺麗だねぇ。」
「やだねぇ、すっかりババァになっちまったよ。」
香代が川越の肩をパシッと叩く。
「そりゃあ歳もとるわ。おめえが本部長になってからもう10年だぜ。」
一心はしみじみと呟いた。
「まぁ、折角来てくれたんだ、お義父さんの顔、見てやっておくれ。」
香代はそう言うと、川越を一生の元に案内した。
「・・・一生さん・・・お久しぶりです。見てくださいよ。俺もすっかりジジイになってしまいました。・・・一生さんに救われたこの命、これからも一生さんが愛したこの町を守る為に捧げていくつもりです。」
一心も川越の横に歩いて来て口を開く。
「俺もコイツも、アンタの背中見て、アンタに人生教わってここまで歳食ってきたんだ。・・・オヤジ、後は俺達に任せて、あの世で笑っててくれよ・・・。」
一心と川越は、まるで打ち合わせたように同時に拳をまっすぐ一生の顔に向けた。
そして、声を合わせて叫んだのだった。
「「絶対にアンタ(あなた)を超えてみせる‼︎」」
こうして、伝説の極道『武神』こと不破一生の生涯は幕を降ろしたのだった。
・・・神界
そこは光に満ち、空間だけが広がる場所。
様々な世界の神々が存在する場所である。
何も無いところから、1つの光が生まれた。
「・・・・・・?」
その光は、フワフワと辺りを飛び回り、
「・・・なんだここは?」
言葉を発した。
すると、より大きな輝きを放つ光がその光の前に現れ、
「ようこそ神の世界へ。フワイッセイ様・・・いや、武神様。」
大きな光が小さな光に声をかけた。
「・・・ほほぉ。ここが神の世界とな。なるほど、眩しくも神々しい空間よなぁ。して、お主はどちら様かな?」
普通であれば驚き、戸惑う筈の異常事態にも関わらず、フワイッセイと呼ばれた光は落ち着き払った声色で、大きな光に問いかけた。
「突然この様な場所にお連れしてしまい、申し訳ございません。まずは現状についてご説明致します。第7世界の地球という惑星で産まれた貴方様は、98年間の人生を終えられました。本来であれば肉体の生命維持活動が止まったと同時に魂は浄化され、全く別の魂へと生まれ変わるのですが、わたくしからお願いしたい事がございましたので、こうして魂を浄化される前にお連れした次第で御座います。」
「ふむ、やはりここは死後の世界に通ずる場所の様ですな。して、貴方が何者なのかは教えて頂けないのですかな?」
「大変失礼致しました。わたくしは第7世界と第8世界を担当する神でございます。神界ではあなた方の様に、個体を名称で区別する事がございませんので、名乗らせていただく名前は存在しません。」
「ほほう、これはこれは。やはり神様でいらっしゃいましたか。お目にかかれて光栄ですぞ。ほっほっほ!」
一生の魂はその笑い声に呼応するように輝きを揺らした。
「驚かれないのですね。まぁ、この様に特定の魂を神界にお連れする事はかつて無い事で御座いますので、他の方がどの様な反応をされるのかは分かりませんが。」
「ほっほ!これでも驚いておるのですよ。この様なふぁんたじーな出来事が起きようとは、夢にも思わなんだ。長生きはするものですなぁ。いや、私はもう死んでおるのでしたなぁ。ほっほっほ!」
死人とは思えない明るさで笑う一生に、神が改めて声を上げた。
「フワイッセイ様!第7、第8世界の神として、あなた様にお願いがございます!どうか、第8世界にて新たな人生を歩んで頂き、第8世界を良き方向へと導いて頂きたい!第8世界とは、貴方様の生きた第7世界よりも文明は進んでおりませんが、魔法や魔力といった概念が当たり前の様に存在する世界です。第7世界の人類と同じく、人間種が存在しており、他にも獣人種、魔人種、海人種など、人間種とは違った人類がいくつも存在しています。野獣や魔獣、怪物や怪植物などもおり、第7世界よりも命の危険が多い世界となります。現在第8世界では、各国各種族間の対立が歴史上最も高まっており、このまま世界大戦に突入してしまっては、世界が滅びてしまう恐れがあるのです。どうか、第8世界を救っては頂けませんでしょうか。」
神の大きな光がより大きく輝きを増した。
「・・・・・・」
一生はしばらく沈黙すると、静かに声を発した。
「3つお尋ねしてもよろしいですかな?」
「ええ、もちろんです。」
「1つ。あなた様は第7、第8世界の神とおっしゃいました。という事は、少なくともあなた様以外にも神様がいらっしゃるという事ですな。わざわざ一介の人間の魂を呼び寄せ、依頼をするという点で、あなた様では解決出来ない。もしくは解決したくない理由があるという事でしょう。であれば、他の神々に協力を要請出来ないものですか?」
神の光は少し輝きを小さくして答えた。
「申し訳ございません。確かに貴方様の推察通り、わたくし以外にも神はおります。現在12の世界が存在しており、各世界に担当する神がついております。しかし5000年前、第8世界の神が突然姿を消してしまったのです。その緊急事態に全11神が集まり、話し合いをした結果、世界の理が比較的近い第7世界の神であるわたくしが兼任する事となったのです。各神は担当する世界に対してだけは影響を及ぼす事が出来ますが、担当外の世界には干渉出来ません。第8世界に関しては、担当であるわたくしなら干渉できる筈なのですが・・・この5000年間、全く干渉出来ないのです。恐らくは、姿を消した第8世界の神がどこかでまだ存在しており、干渉権を保有し続けているのではないか。というのが、我々11神の推測です。わたくし以外の神々は各世界の管理をしつつ、第8世界神を捜索。わたくしは第8世界の監視と、他の神々への状況報告が現在の役割となっております。」
「ふむ、なるほど。第8世界は実質手付かずの状態で5000年間放置状態という訳ですなぁ。まぁ、それがどの様な事態を引き起こすのか、私では分かりかねますが。」
「神の干渉と言っても、直接的に事象を発現させられるわけではないのです。世界が出来る限り平和であるよう監視をし、乱れの兆候が見え始めた段階で鍵となる存在を産み出す。第7世界で言うところの英雄と呼ばれる人々は、わたくしが特別な力を魂に授けて産み出された存在なのです。ですから、5000年間手付かずとなっている第8世界は、第7世界以上に戦争や飢餓、貧困が溢れかえっているのです。」
第7世界神の声が悲しげに小さくなった。
「ということは、私を第8世界の英雄になるべく送り出そうというわけですかな?ですが、第8世界には誰も干渉出来ないのでしょう。どの様にして送り出すのですか?」
「ええ、おっしゃる通りです。ですが我々も様々な試みを重ね、11神の力を合わせれば、3000年に1人は第8世界に魂を送り出す事が出来ると分かったのです。この事実がわかったのは1500年前。貴方様を送り出す事が出来れば始めて一石を投じる事が出来るのです。」
「ふむ・・・、では次に2つ目の質問をさせて頂きます。何故私なのですかな?ハッキリと申し上げまして、生前の私はヤクザ者で御座います。お天道様に顔向けできる様な立派な人間では御座いません。救世主とおっしゃるならば、もっと相応しい御仁がおられたのではないですかな?」
「何をおっしゃいますか。わたくしは神という立場上、失礼ながらあなた様の生き様は全て見させて頂きました。確かに、日本のヤクザの組長と言えば聞こえは良くないでしょうが、あなた様は特別で御座います。一切の殺生を良しとせず、武器を持って敵対する者でさえ素手で捉え、弱き立場の者達からは警察組織よりも頼りにされておりました。銃や刀に対しても素手で対応出来るよう、武術の研鑽を怠らず、第二次世界大戦では、軍から小銃や刀を支給されたにも関わらず、結局終戦まで一度も使用しなかった。素手で相手を無力化し銃弾の雨の中を飛び回る姿は、敵味方問わず伝説となっています。戦後もその活躍は留まるところを知らず、立場としては2代目不破組組長という肩書きですが、貴方様に救われた者は数え切れない程いるでしょう。そしてついた二つ名が『武神』。貴方様を見つけた時は驚きました。私が力を授けた魂ならばいざ知らず、真にその魂の力のみでここまでの偉業を成して来た方は見た事がなかったからです。1500年前から、第8世界に送り出す魂の選定を行ってきました。過去に力を授けた魂では、再度力を授けると限界を超えてしまう為、英雄の魂を送り出すのは躊躇われたのです。やはり第8世界に送り出す時にも力を授けてから送り出した方が安心ですから。」
「いやはや、神様にそこまで買って頂けているとは、光栄の極みですなぁ。ほっほっほ。」
一生の魂は笑う様に揺れた。
「それでは、最後の質問をさせて頂きますぞ。第8世界に送り出された後、私はどの様な存在として産まれるのでしょうか。例えば、どんな種族でどの程度の年齢かなど、教えて頂くことは出来ますかな?これから生まれ変わるのがどの様な者なのか、気になってしまいましてなぁ。ほっほ!」
またも楽しげに笑う一生の魂を見て、神の光は戸惑いの声を上げた。
「・・・そんな事でよろしいのですか?そもそも、このわたくしの話を信じて頂けるのですか?フワイッセイ様には全く関係の無い世界の話で御座いますよ?普通ならばもっと警戒されてもおかしくないのですが。」
そんな神の言葉に、一生は不思議そうに答えた。
「はて?私は既に死んだ身で御座います。あなた様のお話をお断りしても結局は浄化されて別の魂に生まれ変わるだけでしょう。であれば、新たな世界をもう一度この魂で生きることが出来るというのは、僥倖で御座いますなぁ。生きる事は楽しゅうございます。それを2度も経験出来るとなれば、お断りする理由はありません。それに、第8世界に行った後の事は、それから自分の目で見て判断し、行動致します。最後の質問はただの興味本意で御座いますな。ほっほ!」
一生は心底生きる事に幸せを感じているようだった。
「そうですか、そう言っていただけるならば、神としてもこれ以上ない幸福です。第8世界に送り出した後、貴方様は孤児院に引き取られた産まれて間もない人間種の男の子の肉体に溶け込みます。前世の記憶は魂に刻まれておりますので、肉体と脳の成長に伴い蘇ってくるでしょう。」
「左様ですか。いやはや、楽しみですなぁ。」
「それでは早速ですが、転送の儀に移らせて頂きます。」
そう言うと同時に、眩い光を放ちながら神の光と同等の光が10個現れた。
「フワイッセイ様、この名でお呼びする事もこれで最後になりますが、新たな体と魂の同調を密にする為に、何らかの形で関連する名前になるよう、調整はさせて頂きます。それと、神からの力として、固有の特殊なスキルを付与させて頂きます。成長し、自分の能力を確認する事が出来る様になりましたら、確認してみて下さい・・・それでは、始めます。」
その声と同時に、11の光が一生の魂を中心として回り始めた。
徐々に回転が速くなり、1つの大きな光の輪が形成される。
「第8世界をよろしくお願い致します。そして・・・」
光の輪が輝きを増す。
「良い人生を!」
その声と共に、一生の意識は途切れた。
次回更新は近いうちに・・・