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メンテナンスルームにて

 リカは父がメンテナンスルームから出てくることを待った。そして父が出てくると即座に駆け寄ると、言葉の銃撃を浴びせた。


「私、やっぱり島の外に行ってみたい! 知らない何かを知りたいの!」


 アヴァリス博士は突然のことに困惑した顔を見せたが、娘を抱きしめる。


「ああ、今度こそはお父さんもバナー博士に頼もう。お前が私のそばからいなくなることは辛いが、お前も大人になるんだから……」


 そしてリカを抱きしめたままアヴァリス博士は、マコトを見る。頼んだぞ、という気持ちが伝わった。


「はい、俺もバナー博士の説得を手伝います。そしてリカがどこにいても、リカを絶対に守ります」


 アヴァリス博士は頼んだと言うが、心配そうな顔をする。父の心は、とても複雑だった。




 そしてバナー博士のオフィスを三人は訪ねた。バナー博士はにこやかに席を進め、三人分のお茶を入れる。父娘は座ったが、マコトは立ったままだ。


「リカちゃんの顔を見るに、外に行きたいという話だね」


 リカが頷く。アヴァリス博士は震える娘の手を握る。


「そろそろ出してあげるつもりだったんだよ。W-1も完成したからね」


 マコトはWという言葉に不快感を覚えた。


「WとはWatchのWですか? 外に出る代償が、監視とは高くつきますね」


 マコトの反論はバナー博士にとって愉快なものだったが、真剣な顔で話す。


「リカちゃんは世界にとって重要人物なんだよ。彼女を守るなら、G-1だけでは足りないと思うな。アヴァリスくん、君はどう思う?」


 苦々しい顔で話を聞いていたアヴァリス博士は、確かに一理あると同意する。


「リカになにかあったら、私は生きていけない。マコト、ここは折れてくれ」


「私は外に出られるなら我慢するわ。そのW-1はどこにいるの?」


 リカも同意したことで、マコトは逆らうことをやめた。しかしリカを守れという命題が、不信感を訴えてやまない。


「W-1はこの髪飾りだよ。ほら、君のお母さんの名前と同じ菫の花を模しているんだ」


 バナー博士はリカの髪に菫の花にしか見えない高性能カメラを刺す。それは確かに彼女によく似合っていた。


「G-1も心配性のアヴァリスくんのことだから、メンテナンスするんだろう? 何かおかしなところがあったら教えて欲しい」


「わかりました。マコトは定期メンテナンスの回数が多いから、軽く見るだけで済みますけどね」


 アヴァリス博士の言葉に、バナー博士は困ったように眉を寄せる。


「これから長い間、メンテナンスすることができないかも知れないから、念のため隅々まで調べてくれないかい? 精神鑑定もしておこう」


「バナー博士がそう言うなら……」


 アヴァリス博士が全面降伏したため、マコトも従うことにする。しかし代わりに島から出たらW-1を壊すことを決意した。




 マコトは自分でメンテナンスルームの中央にある診察台に体を横たえると、目をつぶる。そして己で電源を落としたはずが、マコトの瞳は映像を写している。もしかして、これは夢ではないかと思う。なぜならマコトは芝生の上に座り、友達らしき青年たちと話しているからだ。こんなのありえないことだ。


「アヴァリス博士がいないから、ゼミの課題がないのはいいな。だけど、他の研究室に移動させられるとは思わなかったな」


 青年の一人がそう言う。マコトは彼の名前はグレッグだと思いながら、頷く。


「政府からの頼みで出向したんだから仕方ないさ。俺は最近、いい夢を見ることができているから、朝から学校に行かなくてすんで助かってるよ」


 場が笑いの渦に包まれる。


「なんだ、もしかしてエロい夢か! お前、みんなの前でそんなことを言うなんて、さすがマコトだ!」


 ベンが茶化す。彼はアヴァリス研究室の中でも、ムードメイカーだった。


「違う! 女の子と話す夢だ! こう言うと変に聞こえるけど……」


「女の子と話すって、どんな夢だよ。現実の女を紹介してやろうか?」


 ベンは一気に可哀想なものを見る目でマコトを見る。


「その目はやめろ。彼女は夢だと言うか、本当にリアルなんだ」


 マコトは脳裏に浮かぶ少女を思い出す。彼女を全てから守ってやりたくて、今にも彼女のそばに行きたくて仕方が無かった。


「その夢の子は、どんな女なんだ? グラマラス? ジャパニーズ大和撫子?」


 マコトはその少女はリカだと言いたかったが、口は別のことを声にした。


「たぶん日本人と白人のハーフだ。そして儚くて、可愛らしい。それに彼女の父親がアヴァリス博士に似ているんだ。いつか博士に娘ができたら、その子だったりしてな」


 マコトが軽口を叩くと、歓声が上がる。そして大学生特有のどんちゃん騒ぎが始まり、この話は終わった。


 しかしマコトはその会話が胸に残ってしょうがなかった。




「マコト、どうしたんだい?」


 マコトはアヴァリス博士の呼びかけで瞳を開いた。そして先ほどの映像を思い出す。夢というにはあまりにリアルで、そして機械の自分が夢を見たことが信じられなかった。


「電源をつけたが、意識が戻らなくて驚いたよ。問題はなかったが……もう一度、確かめようか」


 アヴァリス博士は心配そうな声を出すが、マコトは起き上がり首を振った。


「記録に該当しない映像を見ていました。あれが夢なら、機械でも夢を見ることを体験したことになります」


 アヴァリス博士は不信そうな顔をするが、マコトなら大丈夫だろうと、台から降りる許可を出す。そして優しげで頼もしい父の顔をした。


「マコト、リカを頼んだよ。あの子は何も知らないから、傷つくことがたくさんあるだろう。しかし、お前がいるなら安心して外に出せる」


 マコトは安心させるようにゆっくりと頷く。


「もちろんです。何からもどこからも守ってみせます」


 その言葉にアヴァリス博士は悲しそうに笑った。


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