休憩室にて
リカを連れて、メンテナンスルームの近くにある休憩室に向かう。そこにはチャールズとサムがいた。他のFシリーズはメンテナンスを受けている最中だと言う。
リカがずっと疑問に思っていたことを口に出す。聞ける機会は、今しかないと思ったからだ。
「Fシリーズたちだって、本当は戦いたくないと思ってるんじゃないの? なんで戦うの?」
チャールズとサムは顔を見合わせた後、一方は大胆不敵に、もう一方は豪快に笑った。
「もし僕たちが戦うことをやめても、戦争はなくなりませんよ。むしろ人間たちが戦い、命を落とす。ならば僕たちが戦った方がいいでしょう? 僕は僕なりに愛している人たちを守っているのです。それが代理戦争と言う形でもね」
チャールズの瞳には慈愛が満ちていると、マコトは思う。機械だが、瞳に感情は宿るのだ。瞼や光彩の動きすら、完璧に人間を模している。
「私はヒーローになりたい。どんなやり方でも、愛する国を救うことができる者がヒーローになる。私は国のために戦うヒーローなのだ」
普通の人間なら照れくさいと思うことも、サムは自信に満ちた笑顔で言う。
「マコトもリカさんを守るためなら、なんだってするでしょう。守る者がある者は、誰しも必死に闘っているものですよ」
チャールズがそう言うと、リカはマコトを不安そうに見た。
「確かに俺はなんだってする。これは命題だからではないと思う」
マコトはリカに頷いてみせる。そして心臓部分を触ると、少し暖かい気がした。
「私たちもそうさ。これは秘密なのだが……私は命令に従い、アメリカに下った。しかし、いつの間にかに博士たちより、国の方が大事だと思っていたのさ。私に故郷などない。だが、心の故郷はアメリカだと胸を張って言える」
サムは立ち上がり、演説を続ける。
「そう、心だ。私たちには心がある。これがどこから来るものかはわからないが、確かに存在するのだ」
座りなさい、とチャールズがサムに言う。
「ヒートアップしすぎですよ。君はすぐにかっとなりますが、君の言うことに概ね同意です。我々には心があり、我々は国のために努めるだけです。リカさん、質問は以上ですか?」
チャールズがリカに話しかけるさまは、まさに教師の様だった。
「ええ、まだわからないことだらけだけど、いやではないということはわかったわ」
リカは困惑を隠せないが、彼らの気持ちは本物だと悟り、口をつぐみと下を向く。私にはわからないことだらけだわ、とリカは思った。
「リカもここから出れば、何かわかることがあるさ。マコトが一生リカについて行くだろうから、心配もない」
サムがリカに声をかけると、リカは勢いよく顔を上げる。
「そうよ! 外の世界に出れば、きっとなにかを知ることができるわ!」
サムはしまったという顔し、口を押さえるが、もう遅い。リカはもうその気になっている。
「リカ、その話はアヴァリス博士としよう。グレイ博士に島から出すよう頼むより、そちらの方が早い」
マコトはリカの気を逸らすと、部屋から退出するよう促す。リカは大人しく従い、二人に挨拶すると先に部屋を出ていった。
「マコト、なぜリカはこの島から出てはいけないのですか? 彼女もいずれ大人になるというのに……」
サムの問にマコトは答えることができなかった。なぜならマコトもリカを島から出してやりたいと思っているが、肝心の父親が許しても、なぜかバナー博士が許さないからである。
「博士たちの頭脳に勝とうだなんて、チャールズはおもしろいことを考える。そのユーモアの秘訣を後で教えてくれ」
マコトの緊張した空気を感じ取ったサムは、茶化すことで雰囲気を変えようとした。マコトはそれをありがたく感じ、二人に会釈をするとリカを追いかけた。