埋葬
マコトは棺桶にアルベルトを横たえる。ボディはアヴァリス博士が完璧に直しているため、ただ目を瞑っている人間にしか見えない。
この埋葬には代理人たちも参加している。日本の桜花、アメリカのサム、イギリスのチャールズ、フランスのフェリクス、ドイツのマルク、ソ連のラシード、全部で七人が呼びかけに応じたのだ。
菫の花壇で育てられていた百合の花を棺桶に入れる。十六輪の花がアルベルトを囲み、皆が脇に避けるとバナー博士が喪主の務めである送辞を述べる。
「ポーランドの代理人であるF-35は、代理戦争という与えられた使命を果たし、ここに眠ります。彼に安らかな眠りがあらんことを祈りしょう」
皆が黙祷する。行動は同じでも、各々の心境は違った。この別れを泣いている者はリカだけだ。
マコトが掘った穴に棺桶を入れ、土をかける。もし再起動した場合を考えて、埋める際に土を固めはしない。
そしてマコトが土をかけ終わるまで側にいたのは、アヴァリス親子と桜花、サム、チャールズの五人だけだった。
父は泣いている娘の肩を抱き、悲痛な顔をしているが、桜花とサム、チャールズは戦友を見送る戦士の顔をしている。
「彼は国を守れず占領を許し、挽回のチャンスで負けた。こうはなりたくないな」
土がかけ終わった後でも六人は動くことのない地面を見つめていた時、戻ってきたフェリクスが言う。彼の国であるフランスも、現在、ポーランドの様にドイツに侵攻されているため、思うところがあるのだろう。苦虫を潰した顔をしている。
「明日は我が身と言うのも大変ですね。しかし最近のドイツの行動は目に余ります」
チャールズは胸に抱えていたシルクハットを被りながら言う。上質のスリーピースを着ている姿は、英国紳士そのものだ。
「ドイツと枢機同盟を組んでいる国の者がいる場でそう言うとは、さすが大英帝国の紳士ですね」
軍服の中でもかっちりとしている儀礼服を着て、腰には日本刀を帯刀している桜花は、チャールズに水を差す。
「何を言うんだ、桜花。君が言わなければ何の問題もないじゃないか」
桜花と同じく儀礼服を着ているサムは桜花の肩を抱くと、笑い飛ばした。
「ヨーロッパ全土に戦火が舞う前に、僕がマルクを修理に時間がかかるぐらい倒してみせるさ」
ツーピースを着ているフェリクスは襟を正しながら言うが、その背後から冷静な声が返る。
「本当に私を倒すつもりとは感動に値する。私がお前も機能停止に持ち込んでもいいんだぞ」
そこにはただの軍服を着たマルクと、軍服の上着を脱ぎ白いシャツのラシードがいた。
「マルクはナチス政権と同じで気が強い。私たちロシアとも戦闘状態のことを忘れているようだ」
ラシードは淡々と言う。
「皆、この島は中立地帯だ。言い争うなら別室に隔離するよ」
アヴァリス博士は何でもないかの様に言う。しかし創造主の一員である博士に、機械たちは頭が上がらないため、皆、口をつぐんだ。
「メンテナンスもさせてもらうから、研究所に帰ろう」
そうしてリカとマコト以外の八人は研究所に向かう。リカは未だ地面の色が違うところを見ていた。
「リカ、俺たちも行こう。このまま外に居たら風邪をひく」
「わかってるわ。でも今にもアルベルトが動き出しそうな気がするの……」
リカはまだ彼女が言う死を受け入れることができていなかった。
「死ねば生き返ることはない。ならば死を受け入れるしかない」
リカもそれを知っているだろうが、マコトにはそう言うしかなかった。
「うん、そうよね……」
「ああ、そうなんだ」
二人の間に強い風が吹く。衛はこれ以上何も言えず、風に連れて行かれそうなリカの手を取る。
「マコトはどこにも行かないでくれる? 私、マコトがいなくなったら……」
リカはそれ以上言えずに、掴まれていない方の手で涙を拭う。リカは今、恐怖と戦っている。
マコトは自分のアルゴリズムが即座にリカを慰めろと命令を出すことを感じる。だがマコトはプログラミングされた感情ではなく、もっと暖かい場所から聞こえた声に従うことにした。
「俺はずっとリカの側にいる。例え壊れてもリカの元に、何をしても帰ってくる。約束だ」
マコトが壊さないように優しく抱きしめると、リカはずっと強い力で抱きしめ返す。
「約束だよ。一生、何を忘れても忘れないから……!」
「ああ、俺も忘れない。機械だからな」
リカはマコトの背中を叩いた。