リカの部屋にて
リカの部屋は少女らしい部屋だった。壁紙は薄いピンク、家具は白かピンクで統一された可愛らしく、暖かみがある部屋だ。リカと菫が考えて、アヴァリス博士が家具を持ってきた、家族の絆を感じる部屋でもあった。
「なんでアルベルトが死んでしまうの……こんなのってあんまりだわ……」
リカの涙は悲嘆に変わった。リカの部屋でベッドに並んで座り、マコトはリカの背中を摩る。
「俺たち機械に死と言う概念はあるのだろうか。葬式と言ったが、なぜそう言ったのかも俺にはわからない……だからリカがそんなに悲しむ必要はないだろう」
マコトにはわからなかった。彼はリカがこうなるだろうと予測していたが、なぜ悲しむのか、理由が分からなければ慰めることは難しかった。
「もうアルベルトは動かない、何かに心を動かさないのよ。それは死ぬことと同義だと私は思うわ。マコトにもわからないことってあるのね」
リカは顔を上げると、マコトの顔を見つめるとその手を取り撫でる。血の替わりにオイルが流れる擬似血管のチューブは、オイルの滑りをよくするために温められている。リカはマコトの手に流れるオイルの温もりを感じた。
「例え血が流れてなくても、心臓がなくても、あなた達には心があるんだもの。それは生きている証で、生きているのは死んでいない証拠だわ」
リカは儚く笑った。そしてマコトはその笑顔を守りたくなった。例えこの気持ちがプログラミングされたものだとしても、俺が抱いた気持ちは本物だと、マコトは思考する。
二人が見つめ合い時間が流れていたが、マコトの耳にある集音マイクは二つの足音を集音した。足音から推測し、導きだされた答えはアヴァリス博士とバナー博士だということだった。
恐らくこの部屋にくるのだろうと推測したマコトは、リカに了承をとると扉を開けた。
「さすがG-1だ。いつも動きが早い。やはりアヴァリスくんの最高傑作といっても過言ではないね」
バナー博士はいつもの爽やかな笑みを浮かべる。この笑みに柊博士もレイトン博士も魅了されていることは、この島にいる者たちは全員知っている。それでもバクスター博士が口説くことをやめないことも、もちろん知っていた。
「ありがとうございます、バナー博士。マコト、リカをいいかな?」
アヴァリス博士の問に、衛は逆らう必要はないと了承する。気に食わない男はいるが、彼に逆らうことは得策ではないと衛は思っている。
「リカ、アルベルトを休ませてあげようと話がついたよ。廃棄はお父さんが絶対にさせないし、お墓を作って眠らせようと思っているんだ。その時に参加したいというFシリーズも、これからこの島にくるそうだ」
アヴァリス博士はリカの元に来ると抱きしめ合い、優しく語りかける。
「ならお花が必要よ。一人で眠らせるなんてできないわ……お母様の花壇からお花をもらってもいい?」
リカは力無い声で言う。そして母亡き今、花壇の世話をしている父に聞く。
「もちろん、いいさ。お前は優しい子だ……お母さんも喜んでいるよ」
アヴァリス博士は、もっと強くリカを抱きしめた。